勝利を喜ぶ皆を、心穏やかに見ていられないのは、たぶんわたしだけだろう。
「法正さん」
背中を追って声をかける。
「なんですか」
振り向いた彼の相変わらず近寄りがたい雰囲気に、ぐ、とたじろぐけれど、自身を奮い立たせて近寄る。
「あんなの、酷いと思います」
冷たく見下ろす視線に、両のこぶしを体の横でぎゅっと握る。
「早川殿の前で、嘘でも家族がいる城に毒を流した、なんて」
「馬超殿が行ったら真実を話したと思いますが」
「そうですけど!」
「あの時はそれが最善ではなかったですか」
「…そうかも、しれないですけど…」
彼のいう通りかもしれない。だって誰も文句一つ言わない。
「馬超さんだって、騙して」
「それが?」
そう、駒にされた彼自身も、なにも言わなかった。むしろ法正さんの策を褒めていた。早川殿も、嘘でよかったと言っただけだった。わたしが怒る意味なんて、ないのかもしれない。
ぐっと下唇を噛んで下を向いた。
「卑怯な手は使わず、綺麗事だけで生きろとでも言うおつもりですか?」
「、……」
「あなたのいた世界ではそれでいいんでしょうけど――」
「よくない」
めんどくさそうな言い草に、つい口を挟んでしまった。それを後悔するより早く、言葉が口をついて出る。
「わたしのいた世界でだって、生きにくいだろうって言われました」
言わなくてもいいことまで言わずにいられないこんな性格、いいことなんて一つもない。わかっていてもどうにもならない自分を何度恨んだか。
「誰にでもそうやって噛みついてるんですか」
「そんなわけ!…ないじゃないですか。仕事なんかでは、むしろなんにも言わない方だったし」
「では誰に噛みついていたんですか」
それは、とそこでわたしはなにも言えなくなった。自分がこうやって怒るのが、自分を偽りたくない相手だと気づいたからだ。
そしてわたしが彼に好意を持っているということにも、気づいてしまった。
彼を直視できなくなって、足元に咲く小さな花の花弁が風で揺れるのを見つめる。戦いがあったこの場所にも花が咲いているのは心から嬉しい、と少しだけ現実逃避。
彼が毒を流して人を殺すことをなんとも思ってないような人なのかもしれないと、まんまと騙されて不安になってしまった自分が嫌で、そう思わせた彼に理不尽な怒りをぶつけただけだった。こんなの、ただの八つ当たりだ。
「それは?」
わたしに一歩近づいた彼が、感情の読めない声音で尋ねる。いたたまれなくなってごめんなさいと呟いても、なにがです?としか返ってこない。
「教えてくださいよ。あなたの噛みつく相手は、どんなやつなんですか」
彼は逃してくれる気は毛頭ないらしい。わたしはついに観念するしかなかった。
「……嘘をつきたくない、相手」
「それは」
ふ、と鼻で笑った彼の指がわたしの顎をさらう。無理やり顔を上げられて見えたのは、口の端を上げて笑う彼の表情だった。
「好意を持った相手、ってことでいいですよね?」
違うともそうだとも言えないわたしを見て、彼は楽しそうに目を細めたのだった。
やばい人におもちゃ認定されたかもしれない…