ペルセウスさんが、アースガルズの敵、ロキだった。衝撃的な事実に、頭を殴られたような気分になる。実際その場にいなければ、そんなこと信じられなかっただろう。いや、未だに信じられないけど。
たぶん、幸村さんも銀屏ちゃんも同じじゃないだろうか。
「ペルセウス殿…ううん、ロキ殿は、私たちをずっと騙してたのかな?」
わたしの隣で銀屏ちゃんが呟く。2人して城の奥の人の来ない階段に腰掛け、ぼんやりと暗い顔をしていたときのことだ。
「…わからないけど、なにか事情があったんだよ」
「そうかな…うん、そうだよね!凪殿の言う通り!私、もっと頑張らなきゃ」
くっと前を見て、銀屏ちゃんは鍛錬してくるとわたしに手を振った。前向きで元気でかわいいな。それに比べてわたしは…。
大声で叫んでみたら少しはすっきりしそうだけど、人の目も気になってそれすらできない。握った拳を床に打ちつけると、くぐもった鈍い音がした。
「、いたい…」
「当たり前でしょう」
返ってくると思っていなかった声に、ひっと小さく悲鳴が漏れた。そのバリトンボイスは聞き間違うわけもない。振り向いた先には、思った通り法正さんが立っている。
「音もたてず現れないでくださいよ」
「それは失礼致しました」
思ってもいないことを真顔で言ってのける、彼のいつもと変わらない様子に、なぜだか少し安心する。
「こんなところでどーしたんですか?」
階段に座ったまま見上げて疑問を投げた。わたしと違って、彼は色々忙しい身のはずだ。これからのこととか、なにかあったとき即座に対応できるようにしたりとか。
「あなたがどんな顔をしているか、見物にきたんですよ」
「え、どんな顔って…?」
「ペルセウス殿と親しくしていたでしょう」
彼の口から出た言葉に、わたしは目をぱちくりさせる。ひねくれた言い方だったけど、それって心配してくれてるってことでは?
「なにか事情があった、などと本気で思っているんですか?最初から我々を騙していたのかもしれない。そう思っているんでしょう」
どうやら彼は銀屏ちゃんに話していたのを聞いていたらしい。いつからいたんだか。
事情があったのかも、と言ったのもうそじゃない。そうであってほしいと思う。だけど、最初からなにか目的があってここにいたのかもしれないという気持ちも、少しある。
最初から信じてませんでしたってことにして、自分が傷つきたくないだけかもしれないけど。
「あーあ、ひどいですよねわたし。本当のことなんてなんにもわからないのに、あんな風に希望を持たせるようなこと言って」
「あなたも大概お人好しですからね」
そんなこともないんだけどなあと思うけど、たしかにここの人の中にはまっすぐすぎるくらいまっすぐな人もいて、どうにもやりにくい。銀屏ちゃんもその1人で、だからさっきみたいに元気づけてしまったんだろう。
「そうなのかもしれないですねぇ…」
困って笑ったわたしに、法正さんは呆れた顔をした。
本当のところがわからないというのは、なぜにこうももどかしいのか。他人の本心なんて、そうそうわかるものではないけど、それでも理由を教えてほしいというのは傲慢だろうか。
「それにしても、あれだけ敵の兵を蹴散らしておいて、まだすっきりしない顔をするんですね。まあ、八つ当たりでしょうけど」
彼のいう通り、ペルセウスさんの言葉に頭が真っ白になったわたしは、武器を振り回して戦場を駆けた。終わってみれば、体はあざだらけだ。それでもすっきりなんてするわけがない。
「しませんよ、すっきりなんて。ちゃんと話聞かせてもらうまでは」
「おやおや、それは一体いつになるでしょうね」
そんな意地の悪い事実を言う男をじっとり見つめる。またしても大声を出したい気分になってきた。
「あーもー法正さん!ちょっとつき合ってください!」
「…は?」
ぐいと彼の手を引き、むりやり歩き出す。こうなったら法正さんに手合わせ願おう。勝ちたいわけでも強くなりたいわけでもない。ただ大声が出せればいい。
仕方がありませんねとついて来てくれる彼は、彼自身が言うような悪党ではないような。
うぉーりゃー!法正さんかくごーー!!