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――ああかなし、
――あはれかなし、
――君は過ぎます、


 ぱらぱらと頁をめくれば、深く澄みわたり鮮やかに色づいたところで、いつも指が止まる。
 俺はそこに書かれた季節が好きだ。
 過ぎ行く季節が好きだ。
 透き通っていた。
 好きと、思っていた。

 ふうっと吐き出したけむりはサイタマの手にひらひらと扇がれ、空気の流れにあわせてぐにゃりと形を変えていく。
 抑揚のない声が「へんな匂い」と鼓膜を揺らした。
 それからすぐに「でもなんか落ち着くんだよな」と呟かれて、やわらかくゆるんだ頬は、ふたりお揃いのもの。
 ふたりで過ごす時間が、眉を寄せていた煙草のけむりを、だんだん良いものに変えていったように、ふたりで過ごす時間は、俺の世界もだんだんと良いものに変えていった。
 調子外れの鼻唄を歌い、ふざけたメロディで笑いあう。部屋は白いけむりでぼんやり掠れていた。たったひとりの人間を愛しいと想う情が、俺を人に繋ぎ止めるのだ。
 さらさらと流れていく時間のなかで、ふたり、しあわせだった。


 銜えた煙草の先が終わりに向かい燃えていく。骨の色をした煙が口からこぼれても誰も笑いはしない。


 俺は、移ろう季節が好きだった。
 それは透き通っていた。
 好きと思っていた。
 けれど本当は、サイタマだけを好きでいたようだ。
 お前は疾うに過ぎてしまって、ふたりで奏でた鼻唄も、いまは遠くなるばかり。
 あのずるくて正直でかわいい男は、どんな愛の言葉もくれたけれど、ずっと一緒にいようとは、一度だって口にしなかった。それに気がついたのだって、ひとりになってからだった。
 あア、ほんとうに、正直なやつだった。
 だからかなしさやさびしさを忘れるための、嫌うふりもできやしない。
 かつて胸をあたためた愛しい想いはかなしみに変わり、情は転じてさびしさを生んだ。
 お前はしずかに過ぎて行き、俺の移ろいも、そこで終わり。

 四季が綴られた手記はあるときから華やぎ、それから暫く、すべての色をなくしてしまった。
「あはれ」「かなし 」を古語と現代語の観点からみて変化をつけてみました。古語はかわいいと思います!



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