戦国短編

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見上げた空は雲一つない快晴。夏の暑さも過ぎ去り、Yシャツにセーターを着るくらいが調度いい秋風が吹いている。周りは時折通る車の音しかしない、そんな絶好のサボり日和。……の、はずだっつーのに。



「何で隣にリュウが居ねぇんだよぉ!」

「Ah?俺への嫌みか、コラ」

「リュウに逢わせろ、バカ宗」

「OK.こっから飛び降りろ」



もはや俺らの庭と言ってもいいくらい頻繁に通っている屋上。何をする訳でもなく、ただ寝っ転がって空を眺めたり、音楽を爆音に鳴らしたりとか、そんな馬鹿騒ぎをよくしている場所。


犯人は主に俺と政宗だけど。
そこにリュウも入って一緒に騒ぐ事もあって。政宗が飽きれるような俺の発言にもリュウは楽しそうに笑うモンだから、それがたまらなく嬉しかった。



「そんなに逢いてぇなら呼べばいいだろ」

「それがよぉ、メールしたら国語の授業の単位が危ないから行けないってさ」

「よりによってナマハゲの授業かよ。計算してサボらねぇからだな」

「ナマハゲ、爆発しろ」



柵に手をついて盛大に溜め息を吐けば右隣から蹴りが炸裂した。

ああ、悪かったって。
そんな顔すんなよ。
マヂいかつい。


伊達に「竜」と巷で騒がれてるだけあるな。視線だけで射殺されちまいそうだぜ。あ、ちなみに今言った「伊達」は「伊達政宗」とかけてみたんだけど、どうよ?


いってぇ!

だから蹴るんじゃねぇって!

痣になる!




「Shut up.お前はリュウの事になると融通効かねぇよな」

「それだけ余裕ねぇンだよ」



痛い所をつかれて思わず口ごもり、髪をかきながら逃げるように空を仰いだ。優雅に飛ぶ赤トンボや飛行機雲に腹が立ったが、一番情けないのは自分自身だ。まさか俺が女一人にここまで振り回されるとは思ってなかった。





文字通り、なんの捻りもない一目惚れ。

入学式なんかダルい以外の何物でもないと思ってサボろうとしてたが、昔からの知り合いである元就に半ば強引に参加させられた。校長の話とか、PTAの話とかクソ食らえとしか思えず、暇潰しに人間観察でもするか、なんて軽い気持ちで周りを見渡していた時、左斜め前に居た女のヘアピンが落ちて俺の目の前で動きを止めた。

なんてタイミング悪い。
よりによって何で俺の前。


そんな事を思いながらも無視する訳にもいかず、素早く薄紅色のピンを拾って顔を上げるとそこには、申し訳なさそうに顔を傾げる女の姿があった。周りの視線が刺さって恥ずかしいのか、ピンと同じように頬を薄紅色に染めて。



『……ありがとう、』



照れ隠しに髪を耳にかけながら、お礼を言う仕種に胸を撃ち抜かれた。


それが俺とリュウの出逢い。



その後は俺のごり押しってモンよ。押して駄目なら引いてみろ、なんて考えは一切なし。押して、押して、押しすぎて一度だけ蹴られた事もあったが、それも良い思い出だ。すげぇ痛かったけど。




「Hey、元親」

「あンだよ。俺は今、リュウとの思い出に浸ってて忙しーんだよ」

「そんなお前のガールフレンドが居るって事を教えてやろうと思ったのに残念だぜ。See you.」

「待て待て待て!悪かった!どこだっ?!」

「ん、左から2番目の教室」



柵から身を乗り出すようにして政宗が指差す方へと目を見張らせば、日当たりの良い窓際の席に突っ伏すリュウの姿があった。太陽の光に照らされて茶色がかった髪が透けるように揺れる。


ああ…やべぇ。
触りたい。

あのフワフワの髪を掻き混ぜるように撫でて困る顔を見たい。重症だ。



「くそ!こっちに寝返りをうて!そして寝顔を見せろ!」

「つくづく変態だな、チカ。ほら、元就がすげぇ睨んでるぜ」



リュウの後ろは元就の席になっていて、俺は毎回それが羨ましくて仕方ない。だってよぉ、髪を結んでる時は項が見えるじゃねぇか!う・な・じ!駄目だ。授業どころじゃなくなる。……まぁ、保健体育という名の授業になるか。



フッと口角が妖しく釣り上がるのが自分でも分かる。気合いをいれてYシャツの袖を捲り、深く息を吸い込んで今が授業中だって事も忘れて叫んでやった。



「リュウ――っ!!!」

「…ッ!うるせぇ!」

「俺だー!元親だぁあ!!」

「うぜぇ!本気で蹴り落とすぞ!」



本日二度目の蹴りを食らったがそんな事を気にせず、リュウの居る教室に向かって叫び続けてたら、机に突っ伏していた体がビクリと揺れて起き上がった。


辺りをキョロキョロと見渡して俺の姿を確認すると、ハッと我に返ったように目を見開く。その行動があまりにも愛しくて、嬉しくて、さっきよりも大きな声で叫んでやった。



「リュウ――!好きだぜぇ!愛してるっ!!」



思った通り、言われた本人は遠目でも分かるほど顔を真っ赤に染めて勢いよく立ち上がった。窓から顔を出してきたから何を言ってくれるのかと期待したら「バカ…!」と一言叫ばれてカーテンを閉められる。


あーもう、すげぇ可愛い。

決めた。

今日は帰さねぇ。


学校で抱いてやる。




「はっは!照れてやがる!」

「Shit!惚気んなら他でやりやがれ!」

「可哀相な政宗に俺の幸せを分けてやるよ。10分の1くらい」

「Fuck you…!」




授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。顔を真っ赤にしたリュウが屋上のドアを蹴り開けるまで、あと10秒…――。



















H221016 リュウ

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