戦国短編

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夏に比べてすっかり空は秋特有の澄んだ色に染まり、日が沈む時間もどんどん短くなっていく。30度超えが当たり前だった毎日が少しずつ失われて、今では長袖一枚では肌寒い季節になってきた。


そんな移り変わりの中、テレビで取り上げられるコーナーや学校帰りに通るショッピングセンターには魔女の置物、南瓜をくり抜いた物、髑髏や吸血鬼の衣装で溢れかえる。不気味だけど、何処か華やかな雰囲気に心がワクワクと躍るのはどの人も同じだろう。



普段のパッケージと違うハロウィン仕様にラッピングされたお菓子を手に取り、明日学校に行ったら友達にあげようと自然に顔が綻んだ。
















「リュウ〜!とりっくでござる!」

『何か言葉がいろいろ飛んでるよ、幸ちゃん』

「どうせ、とりっくになると聞いたのだ!」

『…それ、言ったの政宗でしょ?』

「慶次殿もだぞ!」



あんのぉ二人め…!

(あたしの)可愛い幸村を君達の欲に塗れた邪心で染めないでくれ。幸村にはいつまでも真っ白なピュアボーイでいてほしい。…いや、たまに黒くなる事もあるけど。窓から入ってきた蜂を「目障りでござる」と真顔で叩き潰した時は絶句した。あれは黒幸村だった。ある意味、一番怒らせてはいけないのはこの子かもしれない。



「早う早う!とりっくでござるぁぁあああ」

『わかった!わかったから落ち着いて!』



シッと人差し指で静かにするよう言い聞かせれば、ピタリと目を輝かせて止まる幸村。その姿がまるで子犬のように見えて、髪をわしゃわしゃと掻き混ぜたくなる衝動に襲われる。


鞄から昨日買ったお菓子を取り出し、中から何個か南瓜の形をしたチョコを手渡した。お礼を言いながら、両手に乗せられたチョコに嬉しそうな表情を浮かべる幸村にこちらまで笑みがこぼれる。



素直っていいなぁ。
どっかの誰かさんは変に色気があって、常に狩る雰囲気を醸しだしてるからまったく心が休まれない。気を抜いたら捕って食われてしまう。だから幸村でこうやって癒しを補給しているのだ。

ああ、もう。
一家に一人、幸村を。









「おい、俺にもTrickしろよ」

『…っ!出たぁあ!』



ふっと後ろから耳元に息を吹き掛けられ、慌てて飛び上がりながら振り返れば、妖しい笑みを浮かべた政宗の姿。

ちょ、本当、心臓に悪い。

もっと普通に登場してくれないか。せっかく幸村で癒された心が爆発しそうだよ。



「何二人でpartyしてンだよ。俺も混ぜろ」

「政宗殿もお菓子を貰いに?」

「No.俺はリュウを貰いに来たんだよ」



逃げられないよう肩を捕まれ、「なぁっ?」と顔を近づけてくる男を必死に引きはがして一歩後ずさった。

だって目が笑ってないし、捕まったら100%生きて帰ってこれない気がする。(実際、今までも逃げられた事はない)




「逃げんなよ。悪い事はしねぇから。ん、」

『…この手は何?』

「ハロウィンだろ?give me sweets」

『変態にあげるお菓子はありません』

「Ah?幸村にやって俺にはくれねぇのか?」

『お菓子をあげても“どうせ、とりっく”なんでしょ?』



だから嫌だ、

そう言えば政宗は一瞬呆気にとられた表情を浮かべて、何かを考え込むように口を閉じる。やがて俯き加減だった顔を上げたかと思うと、「わかった」と一言残して教室から出て行った。



……なんか、今日はやけに素直に引き下がったなぁ。

いつもなら何かと理由をつけて強引にでも奪い去っていくのに。変に気味が悪いのだけれど……



「あげなくて良かったでござるか?」

『うーん、…政宗の押しに負けてばかりじゃいられないからね』

「本当にリュウと政宗殿は仲が良いのだな!」

『え!…いや、うん?』



そんなキラキラとした目で見つめられながら言われたら何て答えていいのか分からないよー!天然パワー恐るべし。
もう一個おまけにチョコあげちゃおう。



幸村に癒されホカホカした気持ちでお菓子の袋を漁ってると黒板の上にあるスピーカーにスイッチが入り、ザーザーと僅かにノイズ音が混じる。授業の始まりを告げるチャイムが鳴るのかと思ったら、そこから聞こえてきたのは聞き覚えのある声で。



《あーあー。……おい、風来坊。これちゃんと入ってんのか?》

《ちょ、あんまマイクを叩くなって!割れちまうよっ!》

《Shut up.俺に指図すんじゃねぇ》



「政宗殿と慶次殿でござる!」

『何やってんの、あの二人…!』



スピーカーから流れてきたのは政宗と慶次の声。ボーっとしていた頭が一気に覚醒されたように動きだし、嫌な冷や汗が止まらない。あの二人が揃って良い事が起きた事なんて今まで一度もない。むしろ学校中で有名な問題児として見られてる人達だ。

(頼むから変な事だけはしないで……!)




《Ah〜ha.お菓子をくれなかったリュウにTrickだぜ。覚悟しろよ、you see?》



ちょっとぉぉお!!!!
思ったそばから人の名前を放送するなよぉぉぉ!!!このやろう!全校生徒に言われるじゃないかー!



隣に居る幸村も苦笑してお手上げ状態だ。

こんな事になるならさっきお菓子をあげれば良かった。なんて、今更思っても遅いけれど。





《俺がどんだけお前を好きなのか全校生徒に分からせてやるぜ!》


『…は?ちょっと待って』


《まず一つ、寝顔がすげぇcute.授業中、寝てる時に前髪から覗く目元がExcellent!襲ってくれって事だろ?》


『え、はい…?』


《二つめ、耳と首が弱くて噛み付くと良い声で鳴くンだよなァ。そのままmeke loveだぜ!YA〜HA!》


『ちょ、ちょちょちょ!!』


《三つめ、こないだリュウを押し倒した時にアイツが、》


『言わせるか――!!!!』



ハッと我にかえって教室内を見渡せば、皆の視線がグサッと刺さって心が折れそうになった。穴があったら二度と出てこれないほど深くに埋めてくれ。



これ以上好き勝手言われたら、たまったもんじゃない。明日から学校に来れなくなる前に止めようと、周りの机を薙ぎ倒しながら慌てて教室を飛び出した。















『ちょっと政宗!何してんの!?』

「Here he comes.待ちくたびれたぜ」



防音仕様の重たいドアを勢いよく開ければ、マイクの前で堂々と踏ん反り返って椅子に座ってる政宗が目に飛び込んできた。

先程まで一緒に放送していた慶次の姿はなく、政宗一人だけが足を組み、指先で放送室の鍵をクルクル回しながらこちらに妖しく口角を上げる。そんな姿でさえ様になってしまうから尚更悔しい。



『全校生徒に聞かれたんだけどっ』

「聞かせてやったんだよ」

『明日から学校来れないー!』

「Don't worry.これで悪い虫がつかなくてすむってモンだ」

『悪い虫って何よ、』

「俺からどんだけ愛されてるか伝わっただろ?」

『〜っ!それは、』

「リュウ、」

『な、なに……?』



「Trick or Treat?」




ドキリ、

鼓膜を揺らす発音のいい誘い文句。


……そんなの、この場所に来た時点で結果は決まってるよ。わかってて、知らないフリして此処まで来た。悪戯する気でいたのに、逆に悪戯を仕掛けられてて。いつも彼のペースに振り回されてばかり。



だけど、それでも政宗を好きなのは何でなんだろう。無茶苦茶で強引だけどちゃんと想っててくれるのを分かってるから、何処か憎めなくて。やっぱり嬉しくて。




座っている政宗に近づいて、ポケットから取り出したチョコを骨張った手へと静かに落とす。照明に当たって反射する金色の包み紙を満足げに見つめる政宗の隻眼があたしを射ぬいて捕まえた。





「sweetsを貰っても、」

『どうせ“Trick”になるんでしょ?』

「Well done…!」




引き寄せられた熱に包まれながら、僅かに香る甘いチョコレートと似た艶笑に、酸素を奪われた魚の如く溺れていった。

























――――――――――――

なんとか間に合った…!
が、しかし。
めちゃベタだよ。死
放送はあたしの理想だよ。死

だめだ。政宗を書くとどうしてか18禁のルートを辿るのですが何故ですか。彼の色気が溢れてるからですか。それともあたしが変態だからですか。(両方だYO!)


被っている話でしたらすいません;



はっぴーはろうぃん!


H221031 リュウ

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