「あ゛つ゛い゛」
「お前ホンットにそれしか言わねえな」
「仕方ないじゃん、暑いの本当にダメなんだもん………」

 大学生になって、生まれて初めて実家を出た。東北の寒い田舎からコンクリートジャングル大都会。電車もバスも待たずに来る、自分がいた地元と全く違う都会に心躍らせていたのが懐かしい。かれこれ上京して3年、やっぱり夏は暑すぎてやってられない。夏場からは電気代がめちゃくちゃかかる。仕方ない、暑いんだから。ベッドで暑さにぐったりしながら唸っているとベッドに背中を預けてガチャガチャと何かを弄っている男から苦情が飛ぶ。

「………松田はさ、暑くないの」
「あちぃよ」
「の割りに涼しい顔してるよね。髪の毛もふわふわ」
「髪の毛関係ないだろ」
「んふふ」

 私の使っているシャンプーのせいかサラサラふわふわの手触りの頭を撫でているとため息と共に気だるそうに振り向く松田。

「お前さあ」
「なーに」
「誘ってんの?」
「どーでしょうか」

 んふふ、と笑えば熱を孕んだ瞳が私を見つめる。頭を撫でていた私の手を取り指先から手のひら、腕を啄んでいく。優しく触れられてくすぐったい。

「くすぐったいんだけど」
「優しくしてんだろ」

 ぎしり、とベッドの上に乗っかってくるので先ほどよりも熱が籠る。

「あつい」
「これからもっと熱くなるぜ?」
「エアコンつけようよ、のぼせる」
「おー」
「あと汗臭いよ私」
「そうでもねえよ」
「お風呂」
「後でな」

 リモコンでエアコンのスイッチをつけてそのままベッドサイドに置いた松田は私の上に跨ってTシャツを脱いだ。程よく鍛えられた身体がなんだかいけないことをしてるみたいで恥ずかしい。顔を両手で覆えば楽しそうな笑い声。

「なんで恥ずかしがってんだよ、見慣れてんだろ」
「いや、こんな明るい時間は見慣れてないです」
「じゃあ見慣れろ」
「ええむり」
「即答かよ」

 ハ、と笑いながらキャミソールを捲られる。エアコンの冷たい風がひんやりとお腹を撫でた。冷たい風と松田の熱い掌がなんだかアンバランスでお腹壊しそう。そんなことを呟けば「色気ねー」と笑われた。さっきから笑われてばっかりだな…。指の間から松田を見ればばっちりと目が合ってしまった。

「そろそろ顔から手、退けろって」
「やだ恥ずかしい」
「名前」

 名前を呼ばれ、するりと両腕を掴まれて顔から外されれば松田の綺麗な顔が近づいてくる。熱を孕んだその瞳に私は耐えられなくてそっと目を閉じた。

 本当に、熱くて困った。