「今日は七夕!年に一度しか出逢えないなんてまるで私と真さんみたい………!例え1回しか会えなくても私達はラブラブだから問題ないわよね…真さん……!」

 ショッピングモールにある七夕用の笹と短冊を見て元気に1人で騒ぐ園子を横目に私は隣にいる蘭にこっそり尋ねる。

「あれ?園子と京極さんって年に1回しか会えてないっけ?」
「うーん、どうだっけ…」

 困ったように笑う蘭に私もどうだったっけ?と首を傾げてればおでこに軽い衝撃。

「あいたっ」
「やあね、私と真さんは離れててもラブラブなんだから会えたか会えないかなんて関係ないのよ。いざとなれば会いに行くんだから問題ないの」
「確かに園子ならすぐ会いに行きそう…」
「ホントに」
「年に1回といえば園子と京極さんもだけど蘭と工藤くんもだよね。連絡は取ってるんだっけ?」
「連絡はね、たまにだけどしてるよ」
「そっか、元気にしてるって?」
「相変わらず事件事件だって忙しそうにしてるみたい」
「蘭も苦労するねえ」
「あはは…」

 どうせだからと3人並んで短冊にお願い事を書きながら会話する。園子はさっさと願い事を書いてしまったのか結びに行っていて、蘭もそろそろ書き終わりそうだ。私はと言うとまだ白紙のまま。何を書いたら良いか悩んで書きあぐねている。

「名前は?」
「ええ?」
「年上の、好きな人!何か進展あった?」
「……悲しい事になーんもないよ」

 こっちは女子高生、あっちは社会人。しかもひとまわりも違うとくれば何も接点はない。蘭のお家みたいにお父さんが探偵とかだったらまた違うのかもしれないけど事件に巻き込まれない限り会えないし。なんとか苦労して手に入れた連絡先だって仕事中かと思えばなかなか連絡できなくて返信しなくてもいいようなどうでも良い内容しか連絡出来ないし(ちなみに返信が来た事は殆どない)。

「年に一回あえるだけでも羨ましいよ〜」

 短冊にお願い事を書く長テーブルにがっくりと項垂れれば「なら、」と蘭の声が頭上にかかる。

「?」
「なら、それ書いちゃえば?」
「え?」
「高いところに結べば誰も見えないしこれだけ短冊かかってたら誰もわからないよ」
「ええ、でも、」

 書くことをしぶっていると蘭がこっそり耳打ちしてくる。

「それに、松田さんって書いたら誰もわからないと思うよ」
「!ばっ、なっ、蘭………!」
「ふふ!私も書けたから結んでくるね!」
「あっ!」
「ほら、早く書かないと新作飲みにいけないよー!」
「あー!もー!!!!」

 蘭に焚き付けられたようでなんだかアレだけれども。急いで、でも丁寧に短冊にお願い事を書いて、笹に括り付けた。

 どうせ本人には見られないんだから、年に一度くらい、願うくらい許されるだろう。



◇◆


ピロン
「ん?」

 あれから新作のフラッペチーノを飲んで、ウィンドウショッピングをして解散した帰り道。ショッピングモールのところにあるバス停でバスを待っていると不意にスマホが鳴る。マナーモード解除してたっけ、いけない。と慌ててマナーモードにして、通知を確認するとまさかの人物で。

「(えっ!え!?)」

 動揺しすぎてスマホの電源を落としてしまった。慌てて電源をつけてメッセージアプリを開けば

これお前?

 なんて一言と一緒に送られてきていた写真に私は思わずスマホを落としそうになる。えっ、えっ、なんで!?動揺しすぎて返信できないでいると既読が付いたのがわかったのかしゅぽん、とまたメッセージが送られてくる。

今どこにいる?

 …待って?えっ、いま、今どこって…ええ?ドキドキして震える指でショッピングモールのところのバス停です、と返信するとすぐにつく既読。う、うわ……こんなに早く既読つくの初めてやば……!!!メッセージアプリとしての正しい使い方(いつも一方通行だから)をしていて楽しくなっていると急に返信が来なくなって、何か変なこと言ったかな…!?と心配になっていると誰かに肩を叩かれる。

「おい」
「ぎゃー!?」
「ちょっ、落ち着け!」
「あいえー!?えっ、あっ、まっ、ええ!?」
「いやだから落ち着けって」

 振り返るとそこにいたのはさっきまでやり取りしていた人物で。変な声が止まらない。バス停にいた他の人も変な顔でこっちを見てくるのでとりあえず口を手で押さえた。

「(うわ、!私服だ!スーツじゃない…!うわかっこいいやばい!ええ、蘭〜!園子〜!助けて〜!!)」

 お休みなのかいつもとは違う服装で、しかもそれが似合っててめちゃくちゃかっこいい。自分の中のキャパをとっくにオーバーしていて心の中でさっき解散した親友達を呼んでいればするりと腕を掴まれた。

「!?!?」
「こっち来い」
「(ええええなに!?!?)まっ、死ぬ…!」
「は?」
「うあ……」

 あああ!変な声出た!腕を掴まれたり、私服だったり、いつもと違うことにドキドキしすぎて顔が熱い。こればっかりはどうにも誤魔化せなくて俯けば頭上から聞こえてくる笑い声。

「ははっ、なんだ真っ赤じゃねぇか」
「う、」

 連れてこられたのはコーヒーショップ。さっきぶりである。ちょうど空いていたテーブル席に座らされて「待ってろ」と置いて行かれて。とりあえず顔の火照りを落ち着かせようと深呼吸を繰り返すと少し落ち着いてきて。少し落ち着きすぎてこれが夢なんじゃないかと思うほどになってきてしまった。

「ほらよ」
「わ、」

 ぼんやりしていればテーブルに置かれる飲み物。わ、さっきぶりの新作フラッペチーノである。

「ありがとうございます…」
「ん」

 さっきも飲んだけど美味しいからまだ飲める。しかも松田さんが買ってくれたやつだからいくらでも飲める!むしろ飲むの勿体無い………!

「?飲まねえのか」
「や、飲むのもったいないって思っちゃって…」
「それは飲めよ。飲まねえなら俺飲んじまうぞ」

 笑いながらこっちに手を伸ばす松田さんに私は慌ててストローに口をつけた。

「…で、」
「?」
「あの短冊、お前?」
「…………ずぞ、」
「おいコラ、無視すんな」
「…無視してないです」
「じゃあ、答えろや」
「黙秘権」
「却下」
「う、」
「はいかいいえだけでいいから」
「………なんで見つけちゃったんですかあ…!」

 むしろなんで今日ここにいるんですか…!テーブルに項垂れた私をみて松田さんは笑いながら私の頭に手を乗せる。ほんっとに!なんで今日こんなに!優しいの!?夢!?!?

「悪ぃな、たまたま見つけた」
「うう…」
「で、願いが叶った感想は?」
「………」

 ちらりと顔を上げて目の前にいる松田さんを見てからまた机に伏せる。

「………めちゃくちゃ嬉しいです、私服かっこいいしフラッペチーノ奢ってくれたし、すきだなあって思いました………ん?」
「ほー」
「あっあっあっまっ、ちが、人として好きってことでうあ、まっ、き、うううう」

 うっかりすき、なんて口走ってしまって慌てて訂正しようとするが松田さんはニヤニヤしながら「顔真っ赤」と私の頬を撫でる。

「〜〜〜っ!」
「あと1年」
「?」
「待っててやるから」
「へ、」
「お前もあと1年我慢しろよ、織姫サマ」

 そう言って松田さんは私の唇を優しく撫でてからその指を自分の唇に押し付けた。


「…………無理もう死にそうなんですけど…!」


 耐えられなくて再びテーブルに伏せた私を見て、松田さんは楽しそう声をあげて笑った。



2023.0707