「何を買っているんだ、俺……」
 菓子箱を前に俺は溜息をひとつ。
 十一月十一日。世間ではポッキーの日だと言われていることを、去年光秀から聞いた。そして蘇る数々の悔しさと恥ずかしさを伴った思い出。奇しくも今日はその日で、翌日にお互い休みを控えた俺は、光秀の部屋へ泊まりに行くことになっていた。
 夜勤だった俺は一眠りしたあとシャワーを浴びていた。雫の滴る髪をタオルでわしわしと拭う。
(光秀は確か日勤だったよな)
 チラと時計を確認する。あと数時間もすれば、何か問題でも無い限り光秀も退勤するだろう。約束もあることだし。
(……何かご飯でも作っておいてやろうか)
 あれからこっそり練習して、料理の腕も少しは上達した、と思うのだ。自分なりには。それに好きな人には喜んでもらいたい。頬を緩ませながら鞄を持つ。と、テーブルの上に無造作に置かれた箱が目に入る。
(一応持っていくか)
 鞄の中にひっそりと忍ばせ家を出た。手に持ったキーケースには、寮の部屋の鍵の他にもう一本。それを大事にひと撫でしてポケットに仕舞った。


「お、美味そうな鯖」
「……悪い、ちょっと焦げてしまった」
「そうか? 香ばしそうで良いじゃねぇか」
 焼くときに身が崩れ、お世辞にも綺麗とは言えない見た目。おまけに焦げてしまっている。器を持ち肩を落とす俺を前に、光秀は「メシ、ありがとな」とポンと頭を撫で笑いかけてきた。
 恥ずかしいやら、嬉しいやら、光秀が格好良いやら。俯いて小さく首を縦に振ることしか出来なかった。
(しかも今夜光秀とどうやって過ごすのか考えていたら、焦がしてしまったなどと……絶対に言えない)
 火照る頬を押さえながら、気を取り直して出来上がった料理を運ぶことにした。

「は〜……食った食った」
「オジサンみたいだぞ光秀」
「うっせ!」
 ビールを呷る光秀に、くすくすと笑いながら凭れる。
「あのイカのやつ美味かった」
「良かった。政宗に聞いて練習し、っ……」
「へーぇ、練習したんだ?」
 ニヤニヤと顔を覗き込んでくる光秀の顔面を片手で押し退ける。けれど、そのまま腕を掴まれ引き寄せられてしまった。重なる唇と、ぬるりと入り込んでくる舌。
「そんな可愛いこと言われちゃ、食いたくなっちまうだろ」
 そう言いながらも光秀の手は服の中に侵入してくる。
「ちょ……光秀零れるだろ!」
 服の中で不埒な動きをする手を退かそうとしたところで、手に持っていたビールを光秀に奪われた。それを呷った光秀が再び口付けてくる。差し込まれた舌の隙間から、独特の苦味が口の中に広がっていく。
 吸われた舌先からじわりと痺れていくような感覚。酩酊にも似たそれにくらりとするが、腰を甘く疼かせる様はそれともまた違うもので。
 コクリと嚥下したのを確認すると、ようやく解放された。
「はぁっ、は……」
「美味いか?」
 飲み込みきれず口の端から溢れたものを拭われ、目を細めた光秀が訊いてくる。
 俺は乱れた息を整えながら、光秀のシャツを引っ張った。
「わからなかったから……もう一回……」
「そうしたいのはやまやまなんだがなぁ、もう入ってねぇんだ」
 そう言って光秀がビールの缶を軽く振る。きっと欲しがったその意味も分かっている顔だ。
「……意地悪」
「いじめたくなるんだから、しょうがねぇだろ」
「子供みたいだぞ」
「さぁな」
 コトリと空の缶をテーブルに置く。
 どこか愉しそうに見下ろしてくる深い蒼は、劣情を孕んでいて背筋をゾクリとさせた。ふにふにと遊ぶように、俺の唇を光秀の指が押さえつける。
 先程の遠回しにキスを強請られたことに気を良くしたのか、しきりに光秀が俺の唇を触ってくる。けれど自分からまた口に出すのも何だか癪だ。ほんの少しの意趣返しも含めて、光秀の指先にカプリと噛み付いた。
 光秀が小さく息を呑む。
「俺も悪戯、してみた」
「っ、お前な……そりゃイタズラじゃなくて、誘ってるっつーんだよ!」
「え……うわ!」
「うおっ!?」
 光秀の腕により、ぐらりと体が後ろに傾く。咄嗟に目の前の服を掴んだ、までは良かったものの、思ったより力強く引っ張ってしまっていたらしい。光秀もそれは想定外だったようで、慌てて俺の体を支え手を付いた。
「あっぶね、大丈夫か?」
「あぁ……大丈夫だ」
 ガタンと大きな音と共に二人して床に倒れた。毛足の長いラグと、光秀が体をサッと引き寄せてくれたおかげで痛みさえ無かったのだが。
 思ったよりテーブルに近い位置に居たようで、ぶつからなかったことに安堵した。近くに置いてあった荷物が倒れて、中身が少し散乱してしまっている。
「悪い、荷物ぶちまけちまった」
「大したものが入っている訳じゃないから気にするな」
(あ……)
 拙いと思ったが、光秀の視線も『それ』に向けられており、今更誤魔化しようもなかった。
「真琴にしては珍しいモン持ってるな」
「あ、あぁ……たまには甘いものも良いかな、と」
 乾いた笑みを貼りつけながら、なんとか誤魔化す。
「てっきり『ポッキーゲームしたいの〜お願い光秀』って言ってくるかと思ったけどな」
「言う訳無いだろ!」
「残念だなァ……大人のポッキーゲームしてやろうと思ってたのによ」
 片足を持ち上げられ、膝の裏側を掴まれる。露わになったその間に腰を押し付けられた。
「ッ、あ!」
 スラックス越しでも分かる光秀の熱さ。
「エロオヤジっ!」
「オッサンとガキじゃ出来ねぇことしようぜ」
「あっ、ちょ……やめっ!」
 そのままの体勢で、器用に片手でシャツのボタンを外される。抵抗しようと手を伸ばした指先に、投げ出されたポッキーの箱が当たった。それを掴むと両手で光秀の顔に押し付けた。
「!」
「み、光秀は……お願いしたら、してくれるのか?」
「頼み方によっちゃぁ、考えてやらねぇ事もねぇけどよ」
「し、勝負とか?」
「何でそうなる!」
「だって……」
 きっと今の俺はこれ程に無いぐらい顔が赤くなっているだろう。火照っているのが自分でもわかる。
 そっと箱を引っ込めようとしたところで、光秀がそれを阻止する。そのまま菓子箱を取り上げられてしまった。
「そもそもポッキーゲームで勝負する意味はねぇだろ。元々パーティゲームの一種で、そういった趣旨じゃねぇし」
「う……」
 それも勿論知識として知ってはいた。折らないように食べ、尚且つ唇が触れるか触れないかのスリルを楽しむものであると。
 光秀と恋人同士になり、去年のアレは成り行きだったが、付き合うにつれ行事ごとを少しでも恋人らしく過ごしたいと思うようになったのだ。けれど、わざわざ光秀の苦手な甘いものを強要するわけにもいかない。
「ひとつ訊いてもいいか? なんで『ビター味』なのかな、真琴クン」
 にんまりと箱を掲げる光秀に、もう限界とばかりにしがみついた。
「光秀が、少しでも食べやすいようにだよ! 馬鹿!」
「馬鹿はねぇだろ、馬鹿は」
 苦笑と共に頭をポンポンとあやす様に叩かれる。
「まぁなんだ。俺としては真琴とならたくさんしてぇから、チョコついてないヤツあんだろ? あれでしようぜ」
「……わかった」
「それにしても、そんなにやりたかったのか?」
「何が?」
「キス」
「はぁ?」
 その言葉に思わず光秀の胸元を押し返した。
「いや、さっきのもだったしよ」
「……そうだよ、悪いか」
 恥ずかしさでどうにかなりそうだ。赤くなった顔を両手で隠した。
「真琴」
 耳元で甘く囁かれ、ますます体温が上がる。腕を退かされ、顔の両側に縫い付けられる。
 そのまま触れるだけの口付けが落とされた。すぐにそれは離れていく。俺同様、僅かに頬を赤らめた光秀がそこには居た。
「キス。してぇならいくらでもしてやる」
「うん……」
 滅多に見れない光秀の照れた姿にふにゃりと相好を崩す。
「光秀顔が真っ赤だ」
「からかうなっつーの」
「ふふっ」
「そんな余裕こいてっと、泣かすぞコラ」
「誰が泣くかっ!」
「へーえ?」
 片眉を上げた光秀の顔が目と鼻の先に迫る。
 しまったと思ったときには既に遅く、目をギラギラとさせて欲を剥き出しにしてくる姿に、不覚にもドキリと心臓を跳ねさせたのだった。
 唇だけでなく、はだけて露わになった素肌にも触れられる。いよいよか、と期待と喜びにも似た感情が、体をさらに熱くさせる。
 下着ごと剥ぎ取られ身に付けるものが何もなくなり、その心許なさに膝を擦り合わせる。
「……もう勃ってる」
「あっ!」
 太股を無骨で大きな手が這う。皮膚の薄い内側を辿るその動きに、思わず声を上げてしまった。ゆるく勃ち上がり、トロトロと蜜を溢れさせる己の陰茎が目に入る。その様子をねっとりと舐めるように光秀に見つめられ、全身が沸騰しそうな羞恥に見舞われた。
 耐え切れず両手でそこを覆い隠し、ぎゅうと目を瞑った。
「隠すなよ」
「んっ! ……だって」
「なぁ、見せろって」
 耳元で低く、直接脳内に吹き込まれる声。光秀を教え込まれた体は、それだけで従順すぎるほどに反応してしまう。薄らと目を開け、おずおずとその手を退かす。
「っ……!」
 黙ってそれをただ見られるというのは絶大な含羞を伴う。
 獲物を見つけた獰猛な肉食獣のような鋭い視線に、逃れたいのに恥ずかしいはずなのに、それが出来ないでいる。
 どちらのものとも取れない、ごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。
「……すっげぇ、そそられる」
 色気たっぷりにそう告げてくる光秀の表情こそ、そう俺にとってもそそられるもので。ぶるりと背筋が震える。
(このっ、発情したらどうしてくれる!)
 心の中で悪態をつきつつも、それを言ってしまえば『興奮しました』と明言するようなものなので、思うに留まった。
 そんなことを熱に浮かされた頭で考えていると、くちゅりという水音と共に下肢に刺激が走る。
「ふっ、う……」
「ドロドロじゃねぇか」
「あ……待って、光秀」
 光秀の長い指が俺の荒ぶりに絡みつき、優しく扱いてくる。制止の声も聞かず、そのまま口に含もうとする光秀の頭を押さえ込んだ。
「ンだよ」
「そっちは、いいから……俺にもやらせてくれ」
 思ってもいない申し出だったのだろう。光秀が一瞬目を見開く。しかし、すぐに薄い唇が意味ありげに弧を描いた。


 何もこうすることは初めてではなかった。俺の目の前には緩く頭を擡げた光秀のもの。同様に光秀の眼前にも俺のものが晒されているだろう。
 光秀の上に乗り、所謂シックスナインという体勢を取っている。
 あのあとどういう訳かやるやらないで口論となり、負けず嫌いも講じて「先にイったほうが、相手の言う事を聞く」という展開になってしまった。煽られると乗ってしまう自分の性格もだが、それを理解して煽ってくる光秀もタチが悪い。
「いー眺め」
「ひうっ!」
 光秀の指が太股をなぞり、そのまま尻を撫でさする。振り返ればニヤニヤと締りのない顔で、こちらを眺めている光秀と視線がぶつかる。
 ぐにぐにと両手で感触を確かめるように、双丘を割り開くように動くその指。光秀に跨るような体勢になっているのだ。その眼前に広がっている光景を考えただけでも憤死してしまいそうになる。
「揉むな!」
「目の前に真琴尻があったら揉むのが道理だろ」
「ぁ、っ! ……どんな道理だ」
「俺の持論だ」
(余裕ぶって……今に見てろよ)
 尻を満足そうに撫でる光秀をキッと睨み、再び正面に向き直る。
「おっ、やる気かぁ?」
「うるさいっ!」
 先にイかせた方が勝ちだ。ここは先手必勝。今日こそは、この年上の恋人をぎゃふんと言わせてやるのだと意気込んだ。
 指先でそそり立つ光秀のそれをつつく。するとぴくりと震え、その質量を大きくさせた。
(なんか……可愛い)
 光秀に聞かれたら眉間に皺を寄せるであろう感想。さらに言うと今まで散々泣かされてきた、凶悪なものに対して思うことでも無いだろう。しかし『俺に反応してこうなってくれている』と言う事実になんとも言えぬ気持ちが湧き上がってきた。
 先端から溢れる先走りを竿全体に塗り込め、頭を少し傾け、舌をそこに這わせる。
「は……」
 下の方から光秀の熱い吐息が聞こえ、優越感とでも言うのか、ぞわりと何かが這い上がってくる。
「ん、む……っ、ふっ、ぁ」
「っ、う……は」
「んぅ……みつひれ、ひもちい?」
「馬鹿、そこで喋るな」
 僅かに息を乱し荒げられた声に、さらに気分が良くなる。
(……光秀、気持ちいいんだ)
 経緯はどうであれ、恋人が気持ちよくなってくれていると言うのは、やはり嬉しい。
 唾液を含ませた口の中へと光秀の怒張を招き入れる。
「ん、ぐ……んんっ、ふ」
「……ッ、は……」
 咥えきれない部分は、手でしごいてやる。
 夢中で口を動かしていた俺は、そればっかりに気を取られていて、あることに気付けないでいた。そう、『あの』光秀が何もしてこないことに。
「……真琴」
「ん、んっ……?」
「オメェさぁ……人のモンしゃぶって完勃ちすんだなぁ」
「!」
「腰揺らしちゃって、まぁ……目の前でかっわいい真琴クンの揺れてンぞ」
「ン、ぁ……ぁ、ひがっ!」
「違わねぇって。ココもヒクヒクさせちまって……」
 ココと、光秀の指が後孔へと触れる。そしてそのまま唾液を纏わせた光秀の指が入ってきた。
 思わず光秀の陰茎から口を離してしまう。
「ヒッ! ぁ、そっちは……」
「久しぶりだってのに、ずいぶん柔らけぇな……なんでだ?」
「あっ、や! あぁっ! そこっ、やめ、っう……」
「寂しくて一人でシてたのか?」
「ッ! あっ、く……そんなわけ……」
「……それとも、期待してたのか? なぁ、真琴」
 低く囁かれる声にゾクリと痺れが走る。
(バ、バレてる……)
 光秀の家に行く前。淡い期待を抱き、自宅の風呂で処理し、解してきたこと。
 休日となればそういう事をするのが常だし、少しでもはやく光秀と……。
「ほーんと、可愛い」
「やぁっ! ぁっ、ひうっ!」
 しこりを押し潰され、その刺激に光秀の陰茎を握ったまま突っ伏してしまう。
 目の前には先ほどより大きく成長した光秀のものが。
(光秀の……こんなに大きく)
 確かに俺は、俺の拙い手技でこんなにも反応してくれることが嬉しいと同時に、愛おしかった。
 うっとりと再び竿に舌を這わし、先端部分を扱く。
「ん、ぁ、ふ……」
「真琴ちょっと体勢変えんぞ」
「光秀?」
 そう言った光秀に身体を引き起こされ、向かい合う形にされる。
 頬に手を添えられ、ちゅと軽くキスをされる。口に残る僅かな煙草の味。久しぶりに感じるそれに、自然と頬に熱が集まっていく。
「はぁ、どうしてそう可愛い反応ばっかすんだよ……」
「可愛いって言うな」
「……なぁ真琴シて欲しいことがあんだけどよ」
 軽い口付けを交わしながら、体中を優しく撫でられる。甘やかなそれは光秀の舌から広がる煙草の苦味とは全く逆で、酷くアンバランスに感じてしまい、思考を溶かしていく。
「何だ?」
「さっきのあれ、またやってくんね? 今度はこのままで」
「あれ?」
「勝負は俺の負けで良いからよ」
 勝負。場を満たす甘ったるい雰囲気に忘れかけていたが、そう言えば光秀と勝負をしていたのだった。
 そのことを暫し考えていたのが、光秀は焦れったく思えたのだろう。腕を引っ張られ、胡座をかいた光秀の前に引き倒された。
「わぁっ!」
「ははっ、色気のねぇ声」
 顔面衝突は免れたが、抗議の声をあげようと視線を上げるとそこには……完全に天を向き、いきり立った光秀自身が晒されていた。
(あれって、もしかして……)
 さっと頬を赤らめた俺に、頭上から笑いが聞こえてくる。
「しゃぶってるオメェの顔が見たくてよ」
「変態」
「変態はねぇだろ!」
 悪態をつきつつ、そそり立つそれを見る。
(……さっきより大きくなってないか?)
 ゴクリと、思わず喉を鳴らしてしまった。
「負けでいいって言うから、特別だからな」
「へいへい」
 改めて見ると大きくグロテスクなそれは、光秀のものでなければ悲鳴をあげていたであろう。光秀だから、してやりたいと思えるのだ。
 ちゅっと、亀頭に口付けを落とし、そのままぱくりと咥えた。舌先にじわりと広がる、煙草とは違う苦味。
「はっ……真琴」
 そろりを視線だけを上に向けると、荒く息を吐き、眉を寄せる光秀の顔がそこにはあった。
(気持ちいいのか?)
 光秀がしてくれることを思い出しながら、吸ったり裏筋に舌を這わせたり。下を向くと頬にかかる髪の毛がうっとおしく思え、耳に掛け、さらに深く光秀のものを咥え込む。
チラと光秀のほうを向いた瞬間、視線が交わり、口の中を満たしている質量が増した。
「んぐっ!?」
(ま、まだ大きくなるのか!?)
 耳の後ろを撫でられたかと思うと、ぐっと力を込められ、顔を光秀の下肢に押し付けられた。
 驚きと若干の息苦しさを感じ、涙目になる。
「わり、真琴……」
(く、くるし)
 頭を固定され、光秀が緩く腰を動かしてくる。
「んんっ、っふ……」
 激しさはないものの、光秀に頭を押さえられ、自分のペースではなく光秀の動きに合わせているので、息苦しさを感じてしまう。
「歯は立てんなよ?」
「んー! んっ、ぅ!」
(そんな、余裕あるか……!)
 くつりと笑い、そう言いつつも光秀の手は髪や耳を撫でてきた。よく出来ました、と言わんばかりに髪を梳いてくるそれに、甘い疼きが生じる。
「んん〜〜! う、あぅ、、は、」
 上顎を光秀のもので擦られ、思わず口を大きく開けてしまった。開いた口の端から、顎へと唾液がだらりと伝う。
 その時だった。光秀のものが一際大きく膨れ上がったのは。
「っ、は……真琴、出すぞ」
 光秀がそう告げた瞬間、肩をぐいっと後ろに押される。
「え……っ、ぁ!!」
 受け止めるものの無い熱い飛沫が、顔から腹にかけて飛び散る。
 一瞬の出来事にポカンとした俺の頬を、どろりとしたものが流れ落ちていく。それを指で掬い取り、惚けていると顎を掴まれた。
「なっ、なにするんだ!」
「一度ぶっかけてみたかったんだよな、お前の顔」
「ぶっ、か……やっぱり変態か」
 かぁっと頬に熱が集まってくる。そんな俺を光秀は満足そうに頷きながら眺めてくる。
「ちっげぇよ! なんつーか、悪かねぇな……と」
「……」
「なんか言えよ!」
「いや……なんだ、その……恥ずかしいヤツだなと」
「はぁ?」
 ふと浮かんだ言葉。光秀にこうされて悪くない、嫌じゃないと思えるなんて。
(……こんなこと思うなんて、俺も変態か!)
 ベッドサイドに置いてあったタオルで丁寧に顔を拭われる。ひととおり、光秀によって汚された身体を綺麗にされた。
「うし。んじゃま、ご命令をどうぞ?」
「へ?」
「負けた方が勝った方の言う事聞くんだろ?」
(そうだった!)
 度々忘れそうになるが、そういう流れで、こうなったのだ。
「い、今か?」
「そのつもりで勝負吹っかけてきたんじゃねぇの?」
「吹っかけて……って、それは光秀が言い出したことだろ!」
「まぁ、俺はどっちでも良いけどよ」
 そう言いながら腰を引き寄せられる。その口元には笑みが浮かべられていた。
「**っ!」
 後ろから股の間に手を這わせ、反応を示している下肢を避けるよう触れてくる。
 全て分かってやっているのだから、本当に腹が立つ。一度達した光秀と、まだ解放出来ずに緩い刺激を与え続けられている俺。
「この、性悪!」
「言う事聞いてやろうってのに、その言い草はねぇだろ」
 腰から下に、するすると撫でられる。骨ばった男らしい光秀の手が、絶妙な力加減で尾てい骨に触れてくる。発情したらちょうど尻尾が発現する辺りだ。
 そのまま下へ。双丘を辿り、指先でその奥まった場所へも。
「はぁ……んっ、ぅ……」
 中途半端に高められた体はもう限界だった。羞恥も何もかもかなぐり捨て、目の前の逞しい胸元に縋り付いた。
「光秀……続きを、シてくれ」
「続きって?」
「分かってるだろ……ココが、その……柔らかかった理由も」
 肝心な所には触れようとしない、意地悪な手を掴み、その奥へと誘導する。
 トロトロと溢れる先走りで湿ったそこは、潤滑油なしで光秀の指をいとも簡単に飲み込んでいった。
「ぅん、あっ……ぁ」
「そりゃぁな」
「だったら、はやく……」
 しかし光秀は動かない。根元まで挿入された指もそのままに、その顔には笑みさえ浮かんでいる。
(なんで……?)
 焦らされた体の熱は高まる一方だ。
「なぁ、光秀……はやく」
「解せばいいのか?」
「も、いいからぁ……入れろよ」
「わぁったよ」
 指を引き抜かれ、胡座をかいた光秀の膝の上に座らせられる。そうなれば自重により深く咥え込むのは必然で。
「ひぃっ! あ、あ、あぁぁぁ!」
「くっ……締め付けすぎだ」
「ぁ、ァ……ら、って……きゅうに、するから」
 ずぶりと根元まで無遠慮に引き寄せられ、目の前に火花が散る。自分で一応は解したとは言え、光秀のあの質量を受け入れるには些か強引すぎる。
 光秀の行動に疑問を抱きつつも、息が整うのを待つ。
「落ち着いたか?」
「う、ん」
 光秀の膝の上に乗り上げている状態なので、目線が同じ高さになり、目の前にある精悍な顔に鼓動が早まるのを感じた。
 同時に後ろがきゅんと締り、光秀のものをより意識してしまう。あのはち切れんばかりの肉欲がナカを満たしているのだ。
「ひくついてっけど、なぁに想像してんだよ。エッチ」
「してない!」
「それより、次はどうすんだ?」
「は? 次って……」
「おら、命令」
「なっ……」
(コイツ、全部言わせる気か!?)
 光秀の思惑に気付いたものの、時既に遅し。
「まさか、最初っからそのつもりで……」
「なぁにブツブツ言ってんだ。で、どうすれば良いですか? 真琴クン」
 こっちが言うまで梃子でも動かないつもりなのだろう。そっちがそのつもりなら俺も……と言いたいところだが、光秀によって快楽を覚え込まされた体が言う事を聞いてくれなかった。
 多少無理矢理な挿入に僅かな引き攣りを感じていた窄まりも、受け入れ慣れた光秀の形に馴染み、そこを戦慄かせている。俺と光秀の腹の間で涙を零し、立ち上がる俺自身もまた、解放を待ちわびていた。
(俺が勝ったっていうのに、一体どっちが罰ゲームだ)
「光秀……」
 消え入りそうな声で「動いてくれ」と告げた。

「あっ、ァ!」
「真琴っ、は……」
「ッ、ぃっ! やぁ、それ、ぁ、あぁっ!」
(た、確かに動いてとは言ったが……これは)
 根元まで挿入されたものを、ゆっくりと引き抜かれた。光秀の形、大きさをより感じ取ってしまい、ぶるりと震える。抜け落ちる寸前で再びゆっくりと押し込まれ、張り出した先端で内壁をこじ開けられる感覚に力が入らなくなり、くたりと力なく光秀の胸元に寄りかかった。
「みっ、光秀ぇ……これ、いやだ……」
「嫌ってオメェん中、気持ちよさそーに、ッ、吸い付いてきてっけど」
「そんなこと……ん、っふ……」
 胸元に埋めた頭に優しく光秀が触れてきた。髪に指を差し込まれ、耳の後ろを擽られる。その仕草に、瞬時に先程の光秀のものを咥えていた事を思い出してしまう。
 労わるような手付きと、焦らされるような快楽に頭がクラクラする。
(もう、おかしくなりそう)
「あ、ぁっ! ひんっ……ぅ、いつもの、が、いい」
「いつものって、なんだよ……これじゃあ、ご不満ってヤツかぁ?」
「んっ、ぁ!」
 あからさまに不満そうな声をした光秀に、ゆるゆると首を振る。今のでも充分なのだ。けれど――剥き出しの欲を隠そうとせず、思うままに食らい尽くし、あの翻弄されて何も考えられなくなるような激しさが欲しいなんて。優しくされて、物足りないなんて。
「んっ、ぁ……もっと、激しく、して」
(もっと、もっと……)
 いつもみたいに、激しくて少し乱暴なぐらいがちょうど良いなんて。
「あ〜……真琴……そりゃ反則だろ」
「は、あぁ! あぅ、あっく、っ**!」
 低い唸りにも似た言葉を発したあと、言われた通り光秀は激しく腰を動かしてきた。いつもより少し余裕のないその動き。「煽んじゃねぇ」と身に覚えのない台詞を吐かれつつ、尻臀を抱えられ縦横無尽に穿たれる。
 さっきのじわりと全身に染み渡り包み込まれる快楽とはうって変わり、激しい荒波に揉まれるように何も考えられなくなり、ぐずぐずに溶かされる感覚。
「はぁっ、ァ、あぁっ! ……あっ!」
「蕩けた顔しちゃって……そんなに好きかよ」
「んっ……ぁ、すき……みつひで」
 快楽に支配されつつある頭で、光秀の首へと腕を回す。距離が縮まったことで二人の腹の間で押しつぶされたものに、小さく喘げば、光秀も釣られて小さく笑いを零す。
「かーわい」
「ひうっ、ッ、ぅ……っ、みつひで、もう出る……」
 隙間なく密着する体に、さらにその奥に切っ先が入り込む。光秀の動きに合わせて、ゆるゆると腰が動いた。
 ベッドの軋む音と、水音が忙しなく室内に響く。それに呼応するように二人の吐息と、俺の掠れた喘ぎが溶け込んでいく。
「おう、出しちまいな」
「あっ、ぁ! ……そこ、っ!」
「ココ?」
「あぁぁ、ひ、ゃ、あぁ!」
 体を仰け反らせ絶頂に達する。
 しかし、光秀は一度達したあとだった為か、それでもガツガツと腰を動かしてきた。
「ぁ、ゃ! ま、ッ〜〜!!」
 静止の声を上げようにも、絶頂の余韻が引ききらず揺さぶられるがまま。
「ココ、激しくして欲しいんだろ?」
「ッ、ゃ、あ! ……ぃ、まじゃ……あぁ!」
「真琴が、欲しがったんじゃねぇか」
「あっ、あ……み、つひで、みつひで!」
「ははっ……マジで食っちまいたくなる」
「んっ……のこさず、ッ、ぁ、たべて……くれるんだろ?」
「あぁ。ちゃぁんとおかわりまで……っ、してやるよ」
 繋がったままベッドに押し倒され、その反動のままに再び光秀が動き出す。達したばかりの敏感なところを容赦なく穿たれ、何も考えられなくなる。気の遠くなるような恍惚感で満たされ、終わりのない強烈な快楽にひたすら喘いだ。


「光秀喉が渇いた」
 スッっとペットボトルの水を差し出される。ご丁寧に蓋まで開けて。
「シャワー浴びたいんだけど、腰が痛くて――」
「風呂溜めといてやるから、それまでの間マッサージさせて頂きます」
「……」
 すくっと立ち上がり風呂場へと消えていく後ろ姿を見ながら小さく溜息をついた。
(ちょっと、言いすぎたかな……)
 あの後、おかわりのおかわりぐらいされて、気が付いたら朝だった。抱えるように眠る光秀をたたき起こし、掠れた声で思いつく限りの文句を垂れた気がする。
「ぶはっ」
「……」
「睨むなっての」
 いつの間にか戻ってきていた光秀にじろりと視線を向ければ、髪をぐしゃぐしゃに乱された。
「風呂入ってから買い物行こうぜ。チョコの付いてないアレ買いに行くぞ」
「……お前も入るのか?」
「ンなフラフラしたまま、一人で入らせられっか」
「そうなる原因作ったのは誰だ」
「俺だな」
「開き直るなよ」
 小さな笑いを零した俺に、光秀もまた頬を緩める。
 一日遅れのポッキーゲームを密かに楽しみにしつつ、風呂行くぞと手を伸ばしてくる光秀に素直に甘えることにした。




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