式典当日。その日は朝から城内が慌ただしかった。
 寝ぼけたと本人は言っていたが、ベッドを抜け出そうとした俺を、再び引きずり込もうとした光秀と朝から一悶着。いまだにブツブツと何か言う光秀の身支度を整えてから、部屋を追い出した。
(悪いな光秀)
 俺も支度があるからと最もらしい理由を述べ、慶次から受け取っていた衣装を広げる。
 シルクのような滑らかな手触りの――見るからに女物のそれ。
「こ、これを着るのか……」
 項垂れそうになるが、全ては光秀のため。少しでも喜んでもらいたいと、数日間必死になってやったのだ。
「よし!」


「なあ、真琴知らねえか?」
「見ていませんが」
「知らねぇナ」
 人がだいぶ集まりつつある大広間の中心に、光秀を囲むように宴会の席が設けられた。その隣にはぽっかりと空席が。
 きょろと周囲を見渡す光秀の目には、楽しそうに酒を飲み交わす者や、料理に舌鼓を打つ者、談笑をする者が映り込む。本日ばかりは城内の一部が解放になっているため、一般の民衆にも振る舞われている。
 賑やかな声が場を満たし、光秀の表情も心なしか柔らかいものになっていた。
「おや、前木の踊りが始まったようですね」
 民衆からも見えるように設置されたステージ上に、軽快なリズムに乗って慶次が姿を現す。王国でも指折りの踊り子である慶次の登場に、歓声があがる。
 暫くして――その場に青紫の衣装を羽織った人物が飛び込んだ。
「……新人か?」
 顔をヴェールで覆われており確認することはできないが、動きがほんの少しぎこちない。けれどどこか艶かしい腰使いに、その場にいる者の目が釘付けになった。
 踊りも終盤に差し掛かった頃、隣に並んだ慶次がそのヴェールを一息に剥ぎ取る。

 艶やかな青紫の衣の下から現れた、真っ白な衣装に身を包んだ人物に光秀が素っ頓狂な声をあげた。
「……は? 真琴?」
 開けた視界に映るのは、ぽかんと口を空けたままの我が王で、夫である光秀の姿。サプライズが成功したことに胸をなで下ろす。
「王妃様だ!」
「王妃様ー!!」
 俺の存在に気付いた民衆が声を上げた。それに応えるかのように、ぎこちなく笑いかければ、悲鳴に近い反応が返ってきた。
「あはっ、凄い声援! 俺より凄いんじゃね?」
「そ、そんなことは……」
「ぶふっ……明紫波王、顔覆ってるよ。こんな真琴見なきゃ勿体ないってのにさ*」
「ははっ」
 息が上がってしまい、慶次の言葉には相槌をうつのが精一杯。
(さすがだな、慶次)
 踊りを見た慶次に「真琴踊り子になろう」と真顔で言われたが、数日間叩き込まれただけで全身の筋肉が悲鳴をあげている俺には、きっと無理なことだろう。
「王妃サマにあんな特技があったとは知らなかったナ」
「なかなか良い動きしてるじゃないか」
「そうかぁ? 前木に比べりゃ……」
「とか何とか言ってサ、口元緩んでるし、目が釘付けになってるぜ」
「うるせ!」
 僅かに顔を赤らめた光秀が、鼻を鳴らしながら視線をステージへと移す。
 光秀のためにとこの場を設けて貰ったこともあり、自ずとそちらに視線がいくことは必然的で。
(み、見られてる)
 瞬きすることなくじっと見据えてくる視線は、まるで組み敷かれている時のような熱を孕んでいて、体が熱くなってくる。
(……だめだ、集中しなきゃ)
 シャンと最後の一音が掻き消え、辺りが静寂に包まれる。それも一瞬のことで、次の瞬間には割れんばかりの拍手喝采が俺達に降り注いだ。
 肩で息をする俺に、慶次が手を差し伸べてくる。その手を取り、共に深々とお辞儀をしたのだった。


***


 昼間の賑やかな喧騒が嘘のように、静かな月の光が並んで歩く俺と光秀を優しく照らす。
「楽しかったな」
「おう」
 踊り終え、光秀の元に駆けていったあと、賞賛の言葉と共に肩に掛けられた光秀の上着が風で揺れる。
 ほろ酔いも手伝って、隣を歩く少し大きな手に己のそれを重ねた。しばらく間を置いて、ぎゅうと握り返してきた手は、ほんのり汗で湿っていた。
「こうやって皆が笑って暮らせるのは、光秀が頑張ってるからなんだなって、今日改めて思った」
「そんなことねえよ。民が笑って暮らせるのは、テメェで頑張ってるからだろ」
「そうか?」
「そうだろ」
 じぃと光秀を見上げると、優しい瞳が見下ろしてくる。月明かりを背に佇む光秀も、やはりどことなく嬉しそうに見えた。
「光秀は偉い」
「おわっ!」
「えらい、えらい」
 柔らかな栗色の髪に触れ、いつも俺がされるようにぐりぐりとかき混ぜた。面食らったような表情を見せたのは一瞬で、バツが悪そうな顔をしながら何やら唸り声をあげていた。
「っ、だー! 真琴オメェ酔ってるだろ」
「ああ、すこしだけ」
「開き直るなっての」
「あっ!」
 俺の手から逃れるように、光秀が体を捩る。離れた温もりに口を尖らせて、渋々手を下ろすと、今度は光秀にその腕を取られた。
「ほら、行くぞ」
「ん」


 部屋に入るなり、力一杯の抱擁が俺を待ち構えていた。扉と光秀に挟まれて息苦しさを感じるも、それ以上に胸をきゅうと鷲掴みにされるように締め付けられる。
「……ン」
「真琴、真琴……」
 頬、唇と落とされる口付けは優しいのに、吐息の合間に吐き出される名前を呼ぶ声が、腰に来るような熱を孕んでいて、思わず膝を擦り合わせる。
「っとに、今日は参ったぜ」
 口付けですっかり力が抜けてしまい、扉に背中を預ける俺の着衣に手をかけた光秀は、羽織らせた自身の上着を脱がせてきた。
「良くなかったのか?」
「いや、酒も料理も美味かった。祝えてもらえて嬉しかった……し、真琴の踊りもすっげえ良かった」
「そ……か」
 素直な感想を述べられて、なんだか照れ臭くなってしまい、そっと目を伏せる。
「あ〜……やっぱダメだ」
「え?」
「良かったけどダメだ」
 訳の分からないことを口走る光秀を見上げると、熱の篭った視線が降り注ぎ、言葉に詰まる。
「人前でこの服禁止」
「なんで」
「なんでって、これ婚礼衣装だぞ」
「え……婚礼?」
「ウルジュワーンに嫁ぐ王妃に誂えるものだ」
「あ、誂えるってまさか……」
「ん。これ真琴の」
 ニヤと口元を歪める光秀に言葉が出ない。以前婚礼の儀式をした時は、断固拒否して光秀と同じスタイルの衣装にしてもらったのだ。
「真琴の花嫁姿が見たくて内密に作って貰ってたんだがな。まさか前木にバレてるとは思わなかったぜ」
(三成も一枚噛んでるから、気付いたのは恐らく三成だろうな)
「踊りの衣装にしては豪華だし、何かおかしいと思ったんだ」
 細かな金色の刺繍の施された、上品な真っ白な生地。俺から見ても上質なものを使っているのだろうと分かる。
 肘のあたりに纒わり付く光秀の上着に、上手く腕を動かすことが出来ずにいると、そこをさらに上から掴まれて、至近距離で足の先まで視線が落とされる。
「ぴったりだな。さすが俺」
「……サイズよく分かったな」
「触り心地?」
「さっ……」
 そんなもので分かるものかと思うが、このぴたりと包み込むような仕上がりを見る限り馬鹿にはできない。呆れと驚きと、たったそれだけなのに全てを知られてしまったような、気恥しさから複雑な心境になる。
「オメェなんか失礼なこと考えてんな」
「そ、そんなことないぞ!」
「ここなんかピッタリじゃねぇか」
「ん、っ」
「もっとよく見せろ」
 そう言いながら尻を撫で回される。
 その手は柔らかなドレスの上を滑り、上へ上へと……。腹のあたりの生地は透けるような薄い素材になっており、光秀の体温が直接伝わってきて、思わずきゅっと目を閉じてしまった。
「かっわいーの」
「んぁ……」
 耳元で腰に響くような低い声で言われ、ゾクリとしたものが背筋に走る。
 顎を掴まれて、目の前に欲に濡れた瞳が迫ってきたと思った次の瞬間、噛み付くような口付けと共に舌がぬるりと差し込まれた。
「ん、ぅ……ふ」
 口内で荒々しく動く舌におずおずと自らも舌を絡めると、待っていましたとばかりに吸いつかれた。
 リップ音に混じって唾液の絡む音が聞こえて、顔を反らしたくなるが、顎に添えられた光秀の手がそれを許してくれなかった。
 思いきり吸われた舌に、軽く歯が立てられる。その刺激にぶるりと震え、きゅっと更にきつく目を瞑ると、唇を解放した光秀がくつくつと笑ってみせた。
「な、に?」
「いーや、真琴は可愛いなって。いつまでたっても慣れねえよな」
(まさか見られてた?)
「目……開けてたのか?」
「閉じるなんて勿体ねぇことするかよ」
「っ、ばか……」
 羞恥に耐えかねて目を伏せれば、頬に優しく口付けを落とされた。
 その優しい仕草とは裏腹に、膝の間に割り込ませた膝がぐりぐりと下肢を刺激してくる。
「光秀、これ汚れちゃう」
「おー」
 折角の綺麗な服がと思うが、光秀の行動は止まるどころか激しさを増していく。
「光秀!」
「俺は別に構わねえがな……嫌なら汚れないように持ってな」
「……え」
「ほれ、ココ」
 至極真面目な顔でそう言われるものだから、そうしなければいけないような気持ちになる。光秀がつまみ上げた裾を、震える手で掴んだ。
「もうちょい持ち上げねえと汚れんぞ」
「……こ、これで?」
 光秀の指摘に、僅かに裾をたくし上げた。
「まーだ。真琴クンすぐ汚すだろ」
「う……っ、く」
 我慢のきかない俺の体は光秀によってそうなってしまったのにと、文句の一つでも言いたい。それなのに歯噛みしながらも、裾を持ち上げる自分にも悔しさが募る。
(光秀だからそうなるのに……)
 その時、不意に太股をなぞられた。
「あっ!?」
 余所事に思考を奪われていたため反応に遅れてしまう。俺の足元に屈んだ光秀の動きに合わせるように這わされる手の、絶妙な触れ方に腰が抜けそうになる。
そして――。
「ひっ、ん……」
 するすると下着を取り払われ、光秀の目の前に全てをさらけ出すこととなった。
「もうドロッドロじゃねぇかよ」
「ふぁっ、あ!」
 自ら光秀に恥ずかしい姿を見せつけているという事実に、いたたまれない気持ちになる。
 垂れた先走りを拭い後孔をつついていた無骨な指が、ぬめりを借りて侵入してきた。
「ひうっ! ぅ、ぁ……」
「すっげ……ココ、ひくひくしてる」
「やっ! み、るなぁ!」
「見るなって、捲って見せつけてんの真琴じゃねえか」
「っ、ちが……あっ、ん」
 二本、三本と指がすぐに増やされた。快楽を引き出されるというより、拡げ、慣らそうとしているのがありありと伝わってきて、その事実にどこか期待している自分もいる。
「はっ、腰揺れてる」
「ん、あ……ふぅ、ぁ」
 光秀の手の動きにあわせてゆらゆらと揺れる腰をはしたないと思いつつ、光秀との行為に慣れた体は貪欲にその先を強請った。
 そのときだった。敏感になった陰茎に、フッと悪戯に息を吹きかけられたことにより、がくんと力が抜ける。
「んあぁっ!」
 ぐぷっと音を立てて、光秀の指を根元まで含む。同時に前立腺を押しつぶされ、弾みで裾を持ったままの手を離してしまった。
 光秀の頭上にドレスの裾がふわりと落ちるが、それに構う様子はなく、あまつさえ俺の陰茎をぱくりと咥える始末。
「あ! ッ、やめ……っ、く」
 嬲るような水音と共にドレスがもこもこと動く。何をされているか見えないことが、より興奮を誘い、みっともなく動く腰を止められない。
(俺、俺……こんなことされて、気持ちよくなって……)
「はっ、あ! んぅ、ふ、ぁ」
 前と後ろ、両方の刺激により限界が近くなる。
「やぁっ、光秀……も、イク、イッちゃうから!」
 一際強く吸われ、同時にしこりを刺激されたことにより爆ぜる。
「あ、ッ……ぁ、ああぁぁ!」
 ドレスの裾から顔を出して立ち上がった光秀は、見せつけるように唇を舐める。
「ごっそーさん」
「う〜……」
 その色気に顔を覆って唸っていると、ぐいと片方の足を持ち上げられた。太股に擦り付けられる熱いものに、ごくりと喉を鳴らしてしまう。
「裾」
「え?」
「掴んでないと今度はマジで汚れるぞ」
「ん、はぁぁっ、あ、あ!」
 そう言うや否や、狭い中をこじ開けるように剛直が入り込んできた。自重により奥まで含まされ、その圧迫感に息が詰まりそうになる。
「……きっつ」
「ぅ、あ、ァ、ひあっ! あっ……んぁ」
 立位で攻められ、普段とは全く違う場所を抉られて、不安定な体勢も相まって足がガクガクと震えてしまう。
「ほら、これ」
「う、は、ぁ……」
 光秀が捲っている裾を言われるがままに掴むと、ふと笑いかけられた。笑顔の中に潜む獰猛な雰囲気に、剛直を含むそこをきゅんと締め付けてしまう。
 それを見た光秀は足を抱え直し、本格的に腰を使い出した。
「あぁっ、あ……っ、は、ぁ、あうっ」
「やっぱ俺の見立て通りだな」
「ふ、ぁ……何が?」
「コレ着て乱れる真琴は最高にエロいって、な!」
「ひあっ、は……ッ、そ、んなこと……ぅ、ぁ、考えてたのかよ」
「男が服を贈るってことは、下心あるに決まってんだろ」
「っ〜*! ッ、だめ、そこ……め、っ、ぁ!」
 切っ先が信じられないほど奥を小突き、目の前が真っ白になる。ぐうっと背を反らし、はくはくと喘ぐ俺のさらけ出された喉元を、光秀の肉厚な舌が這う。
「は、あ……その顔、最高」
「ぁ、あ、う……んふ、ぅ……」
 激しい律動はなりを潜め、隅々まで味わうようにぴったりと腰を押し付けたまま、ぐるりと掻き回される。唇の端から飲み込みきれない唾液が伝い、光秀から与えられるものに歓喜して喘ぐ俺を想像するだけで、憤死してしまいそうになる。こんな姿光秀以外には絶対に見せることなどできない。
 押し寄せる快楽の渦を受け止めようにも、縋ることの出来ない不安定な状況に、ただただ純白を掴む手に力を込める他なかった。
(みつひで、に……だきつきたい)
 やがてその渦は溢れ出し、紫水晶からぽろりとこぼれ落ちた。
「っ……真琴?」
 驚いて目を見開いた光秀が腰の動きを止め、頬を伝う涙を拭ってくれる。その手の温かさに、再びぽろりと落ちる雫を、光秀が困ったように見つめてきた。
「わり、キツかったか?」
 ふるふると首を振り、口を開く。
「俺、手が使えないから……その」
 言い淀む俺を、光秀は何をするでもなく待ってくれる。正直に縋りたいと口にするのも含羞を伴う。
 けれど、中途半端に高められた体は欲望に実に忠実で、気が付けばくぷくぷと淫らな音を立てながら、肉茎を舐めしゃぶっていた。
「ちょ……真琴クンやめて……オッサンの理性千切れそう」
「ふ、あ……ん、あっ」
 溶け落ちそうな思考の中、咎めるように光秀に腰を掴まれたことに口を尖らせて不満げな視線を向けると、苦笑と共に髪を混ぜられた。
「おーおー。不満ありありって感じだな」
「だったら、はや……ん、む」
 口止めとばかりに、唇に指を押し当てられる。
「泣きそうな……ってか、泣いてる真琴をどうこうする気はねえよ」
「この前、泣いても止めてくれなかったのは誰だ」
「気持ち良すぎて泣いてんのはノーカンです」
「この絶倫!」
「褒め言葉として受け取っとくわ」
 やがて大きく息を吐いた光秀が、俺の濡れた瞳を覗き込んできた。
「で? 何で泣いてんだ?」
「っ、〜〜か、ら」
「あ?」
「光秀に……ッ、抱きつきたかった、から」
「あー……」
「ひうっ!?」
 片手で顔を覆ってしまった光秀。逞しい両腕で支えられていたことで、辛うじて保っていたつま先が小刻みに震える。
「っと、わり。ちょっと一旦抜くな」
「ん、あっ」
 再び両手で体を支えた光秀が、ずるりと陰茎を抜き去る。
 そして、腰元の締め付けが緩んだかと思ったら、ぱさりと衣服が足元に落ちた。
「え……」
「これなら気にしなくていいだろ」
 悪戦苦闘しながら俺が身に着けた、幾重にも布が重なった衣装を、光秀はいとも簡単に脱がしていく。身動きが制限されていたものがあらかた取り払われ、それなりの重量のものを抱えていたのだと気付かされる。
 女の人は大変だなと、余計なことを考えていると、軽くなった体をひょいと光秀に抱えられた。そして間髪入れず埋め込まれる熱い楔。既に光秀の形になったソコは、そそり立つ大きな欲望を難なく根元までくわえ込んだのだった。
「あ、あっ、ァ、あぁっ!」
「これで抱きつきやすくなったろ」
(確かに、抱きつきやすくはなったけど……けど……)
「中途半端に脱がすな! ヘンタイ」
「だぁれがヘンタイだ」
「んぁぁぁっ! あ、っふ、う……あ、あぁぅ」
 そう、確かに光秀は『服は』脱がしてくれたのだ。俺の悪態への仕返しとばかりに、弱い所を狙っての光秀の揺さぶりに、嬌声をあげる俺の体で揺れるのは煌びやかな装飾品の数々。胸元や手、足元なら百歩譲って許容できたかもしれない。
「この状況で軽口叩くなんざ、真琴クン余裕じゃねえか」
「やら、っ、ァ、あ……そこ、ぐりぐりしちゃ、や、ぁ」
 光秀に尻を鷲掴みにされ、大きく揺さぶられる。腰の動きに合わせて揺れ動くのも、全身に装着している装飾品の一部で。踊りのときに見目が良くなると、付けられたものだった。
「踊りおどってるみてぇ」
「ふっ、ん、……あっ、ア!」
 シャラシャラと金属がぶつかる音が、あの時の情景と重なり、公の舞台の出来事と淫猥なこの空間での境界線が曖昧になっていく。
「ハッ……慣れたモンだな、腰振りもよ」
 光秀に言われ視線を下へ落とすと、踊りを思い出したかのようにくねくねと動く腰が目に入った。
「や……ッ、ちが、っぅ……」
 かぁっと体中が火照るのを誤魔化すために、無心で光秀の広い背中にしがみついた。
「っ、う!」
 すると、光秀が一瞬表情を歪める。
(……あ)
 思い出すのは、先日の背中の爪痕。
「ご、ごめん」
 即座に背中から手を退かし、光秀の表情を仰ぎ見る。光秀のことだ、気にするなだとか、構わない等言ってくるだろうと予想していたのだが……。俺の視界いっぱいに飛び込んできたのは、緩く弧を描く唇はそのままに、うっそりと笑う姿だった。
 途端、秘部が意思を持っているのかと思ってしまう程に奥が、内部が脈打つ。いや、脈打ったのは、俺の中を満たす光秀のほうだったかもしれない。
「この傷やっぱ真琴のだったんだな」
「……ごめん」
「いや、構いやしねぇよ。つーか、逆に俺は嬉しいけどな」
「嬉しい?」
「おう。だって、真琴がさ、」
「あ、あぁ……あ、はぁっ、ぁ」
「我を忘れて感じちゃってるからだろ?」
「ううぅ、あぁ……は、ああっ!」
 穿たれる質量に、反論することも忘れ、ただひたすらに大好きな背中に縋り付く。しっかりと支えてくれる温かな腕の中、やがて訪れる高みへと、共に上り詰めるのだった。


「結局全部ドロドロじゃないか」
「汚したの真琴クンだろ」
「光秀が全部悪い!」
 ひとしきり快楽を貪ったあと、ベッドに横たわり光秀の腕の中に収められていた。
 あのあと背後から光秀を受け入れ、幾度目かの絶頂を迎えた俺が見たものは、脱がされた衣装が俺の吐き出したもので無残にもドロドロになった様だった。
(せっかくの光秀からの贈り物なのに)
 形はどうであれ、光秀が俺のために時間と労力をかけてくれたものだ。嬉しくないはずが無いし、大切にしたい。
「しゃーねえな……俺が洗ってやっから」
「い、いや……また誰かに見られたら恥ずかしすぎる」
「扉の前でアンアン喘いでたのに、今更だろ」
「あ……」
 軽く酔っていたから、そこまで俺自身配慮することができていなかった。
(ど、どうしよう……もしだれかに聞かれでもしてたら)
 あれこれと思考を巡らせていると、頭上から吹き出す声が聞こえてきた。
「ちゃんと人払いしてあったから大丈夫だ」
「そうか……それならいいんだ」
「声だけでも真琴の痴態晒させるわけねえだろ」
「……ばか」
 からかわれたと分かってはいるものの、光秀の素直な意見に何だか嬉しくなってくる。
「体辛くねぇ?」
「ん……大丈夫」
(好きだ、大好きだ)
「光秀」
「どした?」
「誕生日おめでとう」
「おう、サンキュ。踊りもさ、すっげえ嬉しかった」
「ん」
 日にちもない中で、何も持っていない俺が出来ることなんて限られていた。それでも何か光秀に与えられるものがあるなら、どんな些細なことでもしてやりたかった。
「来年もあれ着て踊ってくれよ。俺の上で」
「……考えとく。けど、それは……今からでも、構わないか?」
 俺の言葉が予想外だったのだろう、驚く光秀の腹の上に乗り上げ、そっと唇に触れた。頬を赤らめながらも笑う俺の胸元には、今日もあのペンダントが光っていた。




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