『悪ィ、明日までに仕上げないといけねえ資料できちまって……先に飯食っててくれ』
「え……」
19時を過ぎて光秀からの着信。仕事が終わったのかと、弾む心を隠しながら電話を受けたが聞こえてきた内容に落胆してしまった。
ちらりと視線を落とした先に見えるのは、準備したばかりの料理で。
「時間かかりそうなのか?」
『二時間ぐらいでちゃっちゃと終わらせる』
「そうか」
『ったく、帰り際に押し付けてくんなっつーの』
「はは、しょうがないだろ。きっちり終わらせてこいよ……待ってるから」
『おう』
二、三言交わして電話が切れる。テーブルに所狭しと並べられた料理が寂しそうに見えた。
ワイングラスをツンとつつきながら、小さくため息をこぼす。仕事なんだから、しょうがないことだと言い聞かせる。そう……仕事だから。
十二月二十五日――クリスマス。残業してくると言う光秀を驚かそうと、少しばかり張り切って腕を奮った晩御飯。クリスマスという雰囲気に浮かれて、こんなことをしてしまったことが、ほんの少しだけ恥ずかしい。
(一人で舞い上がってるみたいだ)
ひょいとイカリングを摘んで口に放り込むも、何だか物足りなく感じる。
(明日もあるし)
そう、明日は揃って休みが貰えたのだ。別に今日でなくとも、休日をのんびりと過ごして、そういう雰囲気を味わえればそれでいい。
ソファにごろりと横になって、クッションを掴む。カチコチと時計が針を進める音がやけに大きく聞こえて、時間の流れが目に見えて分かるようで。光秀の帰りを待ち遠しく思っている俺の気持ちを募らせる一因となっていた。
「光秀のことだから帰ったら……」
押し倒したら、まずはキスをしかけてくるだろうか?きっと煙草の味がするに違いない。苦くて甘い口付けを受け入れて、目を閉じれば、忙しなく素肌を大きな手のひらが這って、その手がやがて尻を撫でさすり、そのまま――。
「っ……」
無意識に太ももを擦り合わせていた。
(光秀、光秀……)
チラリと時計を確認すると、帰ると言っていた時間までゆうに一時間以上はある。のそりと体を起こして、持て余す体を引きずるように風呂場へ向かった。
「期待してるとかじゃなくて、念の為の準備だ」
誰が聞くでもないのに言い訳を零す。上着を脱いで視線を上げた先には、頬を上気させて、言い訳が出来ないほどに何かを期待している情けない姿が映っていた。
「んっ、ふ……ぅ、あ、く……」
準備をしながら、ぼんやりと光秀とのことを考えいたら、うっかり……本当にうっかり前を勃ててしまった。右手で輪を作りにゅるにゅると竿を扱きながら、左手をそっと先端にあてがう。ゆっくりと動かせば、背筋をぞくぞくと這い上がるような快楽が押し寄せてきた。
「あっ、ふ……あ、はっ、あ!」
(ここ……気持ちいい)
裏筋をなぞりながら、括れを指で引っ掛けるように動かす。それと同時に先端部分を弄れば、とぷりと白濁の量が増した。
光秀と出会うまでは、この行為を嫌っていたこともあり、少しでも早く終わらせたくて、乱暴にただ竿を擦りたくることしか知らなかった。
(……光秀)
それが今では俺の良いところを全て暴かれて、教えこまれてしまった。目を閉じれば、興奮気味に俺を責めたてる光秀の姿が浮かんでくる。
『真琴……腰揺れてんぞ』
そんなことないと目を開けると、へこへこと腰を揺らすはしたない光景が目に飛び込んでくる。
「ッ!!」
『スケベ』
「あっ! う……は、ぁ」
腰に響くあの声を思い出したたけで、軽く達してしまった自身が、涙で滲む視界に入り込む。どろどろと白濁を零しながらも、いまだに萎える気配がない。その理由もちゃんとわかっている。
尻を動かせば、奥まった場所が疼くのがわかった。
(足りない……)
どうしようと考えるより先に手が動いていた。白濁を掬った指を窄まりに滑らせると、待ってましたと言わんばかりに簡単に飲み込んでいく。
「あっ、は……あ!」
指を二本含ませて、くちゅくちゅと動かすも。
(まだ……もっと)
「真琴?」
「ひゃい!」
コンとひとつ扉を叩く音が聞こえる。
「ひゃいって……今帰ったから」
「おっ、おかえり」
バクバクと早鐘を打つ心音が、聞こえてしまうのではないかと思うぐらいに驚いてしまった。
「飯ありがとな」
「あ、あぁ」
「ごゆっくり〜」
「……っ」
含みのある言葉にカッと頬に熱が集まっていった。やがて遠ざかっていく足音に、へなへなとその場にへたりこんで俯くと、そこには驚きのあまり縮こまった自身が。良かったのか悪かったのか。
「ッ〜〜うー……」
思い切り湯を頭上から浴びた後、平静を装ってリビングに向かった。
「おかえり」
「たでーま」
「早かったな」
「おー急いで終わらせてきた」
「そうか……お疲れ様」
「おう」
仕事をしてきた光秀に対して、ひとり耽っていたことに後ろめたさを感じてしまう。風呂上がりでおざなりに拭き取ってぽたぽたと雫を垂らす髪を見た光秀は、苦笑しながら俺の手を引っ張ってきた。
「ちゃんと拭かねぇと風邪ひくだろ馬鹿」
「わっ!」
胡座をかいていた光秀の膝の上に座らされ、がしがしと大きな手が髪をかき混ぜる。
「飯美味かった。折角ご馳走作ってくれたっつーのに一人で食わせて悪かったな」
「俺が勝手にやっただけで」
(光秀の手気持ちいい)
「ほらよ」
「え?」
手の上に小さな白い箱を置かれる。
開けてみると小さなケーキがひとつ入っていた。
「光秀これ」
「留守番してた真琴クンにおみやげー」
「っ、ありがと……でも光秀のは?」
「オメーの一口食えば満足だから」
「そうか」
「っし、いっちょあがり!」
タオルを頭上から外した光秀が、髪を撫でてくる。すると背後からぎゅっと抱きしめられた。
「光秀?」
そのまま首筋に顔を埋めてくる仕草に、先程の行為を思い出してしまい落ち着かなくなる。
「悪ィ、コイツ明日でいいか?」
「え……」
手の上の箱をテーブルに置かれたかと思うと、借りた光秀のスウェットの裾から手が差し込まれた。
「んっ」
「匂いっーか、雰囲気がなんか……食っちまいたい」
「ちょ……ッ」
「それにさっきの風呂――」
耳たぶを食まれて吐息がかかり、肩が跳ねる。同時にズボンの隙間から直に尻を揉まれ、思わず甘ったるい声を発してしまった。
「準備しててくれてたんじゃねぇの?」
「ん、ふ……ぁ」
光秀の口振りに自慰に耽っていたことがバレていた訳では無いことがわかり、こっそりと胸を撫で下ろした。
「それを俺の口から言わせるのか?」
「おっと、悪かったな」
「……お前のこと待ってたから」
上を向いて自ら口付けを強請る。光秀喉が大きく動いたのが分かり、目が細められるのを見たあと目を閉じた。
舌が口内を這い回り、次第に息が上がっていく。
「ちょっと我慢出来ねえわ。ココで抱いていいか?」
「好きにしろ」
急くように服を取り払われてソファに押し倒されると、シャツを脱ぎ去った光秀がのしかかってくる。首に腕を回して引き寄せると、口付けの雨が降り注いできた。肌が重なり、待ち望んでいた熱をようやく感じることが出来ることに体が喜んだ。
「なんか今日のお前さ、」
「……なんだ?」
「いや、何でもねえ」
縮こまったままの俺自身を光秀の手が包み込むと、ぴくりと震えて涙を零した。
「は、あ……んっ、は」
くちくちと音をたてるそこを見つめたままの光秀が不意に口を開いた。
「なぁ真琴……自分でシた?」
「っ、は?」
「なーんかいつもと違うっつーか、妙な色気がダダ漏れなんだよ」
「シ、てない」
「ふーん」
そして何を思ったか、光秀が俺の先走りが付着したままの手をぺろりと舐めとった。
「な……、ば、ばか! 何やって……」
「やっぱ薄い」
(もしかしてバレた?)
居心地が悪くなり、立てた膝で下肢を隠す俺の動きを、光秀が目敏く指摘してくる。
「何でモジモジしてんだよ」
「してない」
「じゃあココが柔らかいのも気のせいか?」
「ぁ!」
指が後孔に入り込んできた。体を捩って抵抗するより先に光秀はより深くに突き入れてくる。
「あっ、は! 光秀、ッ、ひ!」
「簡単に飲み込んでくぞ」
「準備、準備してたからぁ!」
だから、と息も絶え絶えに主張すると、ぴたりと光秀の動きが止まった。
「へえ……こんなになるまで準備、ねえ」
意味ありげに光秀の唇が釣り上がる。しまったと思った頃にはもう遅い。射抜かれた瞳に、俺は動けなくなった小動物のように小さくなる他なかった。
「っ、う」
「足閉じてっと見えねだろ」
(……このっ)
ソファに背を預ける俺の目の前には欲を孕んだ表情を隠そうともしない光秀が。その視線の先にあるものを思うだけで憤死しそうになる。ぎゅうと目を閉じて、言われた通り足をぐっと開けば、光秀の低い笑い声が聞こえてきた。
『準備』が見たいと言う光秀の言葉に押し切られ、何故かこういう展開に至ってしまった。いや、光秀の発する何かに圧されてしまい断りきれなかったのだ。
「ふ……う」
目を閉じたって、ちっとも羞恥がなくなることはなかった。
こんな状況にも興奮してしまっているのか、完全に勃ちあがってしまっている自身を恐る恐る握った。上下に擦ると、ぞわぞわと快楽がせり上がってくる。
「そんなんじゃイけねぇだろ」
「ぁ! さ、わるな!」
笑いながら赤く色付く胸の飾りに光秀が触れてくる。
「ここも固くなってきてる」
「やっ、あ! 光秀! 大人しくしてろ」
「睨むなっつーの」
前だけでは足りないことを、俺よりも知っている光秀の視線が先を促してくる。足を大きく開いたまま後の窄まりに指を宛てがうと、そのままゆっくりと潜り込ませていった。
「んぅっ、は……あ、あっ」
「おー……美味そうに飲み込んでく」
「言うなバカッ!」
具合を確かめながら指を二本、三本と増やしていく。顔を直視することができなくて、顔を逸らす俺に、光秀がくくっと笑いを零す。きっと俺の心中を分かっていて、そういう反応を寄越してくるのだろう。はやくイってしまえと無心になって指を動かした。
「ふ、ぅ……ぁ、は、あ……」
「真琴、ちゃぁんと見せろよ。お前が俺のために準備してるとこ」
「あふっ、ぅ、あ」
(ちゃんと……光秀に)
光秀が愛しい一心で浸っていた行為。知られてしまったのは恥ずかしいし、情けないけど、それを光秀が咎めることもなく。むしろどこか楽しそうに、嬉しそうにしている。
(ココに、光秀の……ほしくて)
疼いて仕方のないそこを光秀のもので満たして欲しくて。
はぁはぁと息を荒らげながら、既に三本の指を含んだそこを広げて見せる。
「光秀、ッ、まだか?」
「はっ……ちゃんと準備出来たか、確認してやるよ」
ソファの背凭れと光秀に挟まれるようにして抱き抱えられた。広げたままのそこには熱く猛る光秀のものが押し当てられる。
「あ、あぁぁぁ!」
「奥がちっとキツいみてえだけど?」
「あっ、あぁぁ、ぃ、んぅ!」
狭い中を脈打つ楔が進んでいく。自分では羞恥が先立ってなかなか奥まで出来ずにいた。ましてやこんな状況だ。けれど光秀に慣れてしまっているこの体が慣れるのに、そう時間はかからなかった。
片膝をついて俺を抱えるという不安定なままだったが、光秀のその勢いは衰えることがなく、俺はすぐに上りつめていった。強請るように腰を浮かす俺に、光秀が笑ってぺしりと尻を叩いてくる。いつの間にか光秀の腰に巻きついた足のつま先がぷらぷら揺れるのを、光秀の背中越しに見つめていた。
「は、ぁ! あぁ、あぁん……あっ、は!」
「は……真琴」
「ぁ、あ、ッ……みつひぇ、なんか、これ」
「オメェの好きなとこ当たるだろ」
はふはふと息を吐き出しながら光秀にしがみつく。夢中で引き寄せると、光秀の耳が不意に口元に触れる。その瞬間、剛直が前立腺を掠め、内壁を抉ってきた。うねる内部がそれに絡みつき、俺は一際大きな声を上げた。
「っ、あ……、ッ、れ……ひうっ!」
「くっ」
「やぁぁあ、ア! ひぁぁ!」
光秀の耳朶が口元に触れた、その時、ぐうっと中の陰茎が一回り大きくなった。反り勃った、凶器とも言えるそれで中を穿たれるも、それによって誘われる悦楽を知っている俺は、淫らにそれを乞う。
「は、あ……もっと強請ってみろよ」
「ぁ……」
(……もっと)
吸われすぎてぽってりとした唇を動かして、思うままを伝える。
「み、つひれ……中に、出して」
光秀の雄臭い笑みの裏に宿る、獣のような獰猛さを目の当たりにして感じるのは、恐怖でもなく……それは間違いなく悦びの感情。
「あっ、あ! は、ぁあ、っ、あ」
「しっかり受け止めろよ」
「ああっ、ッ、あぁ〜〜〜、ぁ、あ……は、ん」
ビクビクと奥で爆ぜるのを感じながら、腹に白い白濁を撒き散らしながら共に達した。
くたりと背もたれに倒れる俺の上で、光秀が肩で息をする。ぱたぱたと汗が落ちてきて、熱くなった体にちょうど良い刺激に思えた。
「大丈夫か?」
「ん……大丈夫」
「んじゃもう一発」
「は? ちょ、ちょっと待て」
「ベッドがいいか?」
「そうじゃなくて」
「じゃあこのまま」
「まっ、……ぁ、ひぅ!」
少し休ませてと言うより早く元気を取り戻した光秀が動き出す。
今日のこととか、明日のこととか話したいこともあるのに。光秀のケーキもちゃんと冷蔵庫に直しておきたいのに。けれど光秀から与えられる快楽にとことん弱い俺の思考は、すぐさまドロドロに溶かされていった。
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