突き上げられる度に聞こえるのは、粘りを伴った水音と、みっともなく掠れた声で。口を覆いたい耳を塞ぎたいと思うも、そんな俺の心情など構うことなく、いけ好かない上司は思うままに揺さぶってくる。
あの屈辱にも似た出来事があってから、俺は度々光秀にこうやって組み敷かれていた。
「ヒッ、ぐ、ぅ……」
「くっ……力抜けって」
「無理、ッ、だ……ぁ、う」
院内で見かける時は普通だし、いつもの通りに、今まで通りにちょっかいをかけてくる。尻を触られることも何故か増えたが。
しかし二人きりに、この吸血紛いの行為をする時の光秀は、何だか妙な雰囲気を孕んでいて恐ろしかった。体力の限界を見計らうように捕らえられてしまい、逃げ出すことも不可能で、ただされるがままなのだ。
唇を噛むと、光秀が己の指を突っ込んでくるため、それも出来ない。光秀を傷付けることを厭う、俺の気持ちを知っていてそういう行動を取ってくるものだから、本当に食えない男だ。
こんな事をされているにも関わらず、光秀の身を案じてしまう俺自身。全てのことに心と体がついていけず、ただただ悲鳴をあげ続ける。
「ッ、く……あっ」
「徳川……大丈夫、じゃなさそうだな」
「分かってるなら、っぁ、するな! 馬鹿」
(なんでそんな顔してるんだ)
泣きたいのはこっちなのに、苦しいのはこっちなのに。目の前の男は、俺よりも苦しそうな表情をしていた。
本来受け入れるべきでない場所で、他を知らないから比べようもないが、恐らく人一倍ご立派なモノを受け入れているのだ。最初の数回は痛みに呻いていたが、今では圧迫感はあるものの、痛みはマシになってきている。
「はぁっ……徳川、出すぞ」
「んぐっ、あ、ぁっ、あ」
ぴっちりと隙間なく埋め込まれた、光秀自身が大きく脈打つ。熱い飛沫が中を満たしていく感覚。
「あ、ぁ、くぅ……」
中に放たれるという違和感は、何度経験しても慣れることはない。意図せず締め付けてしまったのか、光秀が小さく呻き声を上げた。
「っは……えっろい顔しやがって」
「えろ、っ……そんな、してない!」
「いーや、自分で分かってねぇだけだろ」
「分かりたくもないし、知りたくもない!」
吠える俺をものともせず、頬に手を滑らせる光秀の笑みが深まり、嫌な予感がした。雄の色気を多大に含んだ表情に、ぞわりと何かが這い上がってくる。
「そうだな。知らねぇよなァ、こんな徳川……誰も」
ペロと唇を舐めた光秀に、シーツに両腕を縫い止められる。
―逃げなければ。
頭の中に警鐘が響く。しかし埋め込まれたままの質量が、増していくのを感じ取ってしまい、絶望しかなくなる。
「光秀、もう嫌だ! 止めてくれ」
無我夢中で手足をばたつかせた。
「っ!」
ぱしんと、光秀の頬に手が当たる。恐る恐るそちらを見やれば、頬に僅かな引っかき傷ができていた。それと同時に漂う、甘い血の匂い。
(また……俺は、また光秀を)
普段より鋭く伸びた爪。どうしたって他人を傷付けることしかできずに嫌悪する、俺の心情を嘲笑うように、瞳は妖しい光を放ち喉が乾いてくる。
「……ごめ、ごめんなさい」
カタカタと震える俺の手を、光秀が強く掴む。痛みに眉をしかめる俺の首元に顔を埋め、光秀は小さな声で呟いた。
「謝るこたぁねぇよ。ヒデェことしてんのは俺のほうだ」
「光秀?」
呟きに訊きかえすも、開始された律動により有耶無耶にされた。
「まだ足りてねぇみたいだな」
「違う、もういらない……っ、くぅっ」
(なんで、なんで)
その言葉ばかりが頭の中をぐるぐる回る。光秀にとってはただの部下で、たまたま俺の秘密を知ってしまっただけ。光秀がこういうことをする義理も必要もない。
「あっ、あぅ……ん、んっ、ぁ」
「っ、徳川」
緩やかに腹の奥を暴く動きに翻弄されていく。出されたものが泡立ち、より淫猥な音をたて羞恥を煽ってくる。
「ひぅ、っ……あうっ!」
ぐるりと腰を回され、悲鳴にも似た声が飛び出る。腹の中をかき回される感覚に、ポロポロと涙を零しながら、必死に首を振りながら止めてくれと懇願した。そんな俺の姿に、中の質量はますます大きくなるばかりで、それが余計に混乱を誘う。
「ンな顔で言われても逆効果だっての」
「あっ、あ、ッ!」
「悪ぃけど、もうちっと付き合ってくれよな」
文句も悪態も頭の中にはあるのに、口から出るのは意味を成さない単語ばかりで。嫌々と首を振るのがささやかな抵抗。互いの腹の間でくたりとしているのは俺自身で、光秀とこういう事になってから一度も果てたことがない。行き場のない苦しい心情を表しているようで、情けなく思えてくる。
二度目の熱を受け止めたあと、記憶は白んでいった。
仕事の時間も終わりに差し掛かり、今日は久しぶりに定時で上がれそうな状況に心なしか嬉しくなる。
(帰りに新鮮な魚でも買って帰ろう)
そんな事を考えつつ職員室に足を踏み入れると、とある机の前に小さな人集ができていた。
「どうしたんだ? アレ」
人集の渦中である光秀と政宗に視線を向けながら、心配そうにその様子を眺めていた慶次に声を掛ける。
「真琴おつかれ。あー……あれ、ね」
俺の顔を見た途端、苦笑しつつ慶次が状況を説明してくれる。
「明紫波さんが駄々をこねて、帰ろうとしないんだ」
「オイ前木、ちゃぁんと聞こえてんぞ」
「ひぃっ!?」
サッと俺の後ろに隠れた慶次に、光秀が手に持っていた資料を丸めながら、手の上で規則的にリズムを取る。目の下に刻まれた隈がいっそう濃くなっており、眉間の皺も手伝って、それはもう人相の悪い輩に見える。
つい苦笑してしまった俺を光秀が見逃すはずもなく、ジトリと睨まれてしまった。
「なーにオメェまで笑ってんだよ」
「明紫波、他人に当たるものではない」
「あぁ!? 当たってねぇ」
静観していた信長がふぅと溜息を吐く。
「真琴、君はもう上がりだよね?」
「あ、あぁ」
「すまないけど、今にも倒れそうなコレを連れ帰ってくれるかい?」
「え?」
「はぁ?」
光秀と同時に、勢いよく信長のほうを振り向く。そんな俺たちの反応をよそに、相変わらず涼しい顔をしたまま、うっすらと唇に笑みをのせる様は妙な威圧感を醸し出し、瞬時に背筋がピンと伸びたような気がした。
「聞けば四日も家に帰っていないそうじゃないか。それでマトモに仕事ができるとは思えないけどね」
「だぁから、今日は帰るって言ってンだろうが」
「君がそうだと周りが迷惑を被るんだよ」
「う……」
最もな意見に思わず光秀も詰まる。光秀とて分かっているのだ。周囲が自分のことを心配して、こうやって言ってきてくれること。そうでなければ、こういったやり取りも起きていないだろう。
「まあまあ信長。明日は明紫波も休みだし、根を詰めていただけであろう?」
「お、おう」
図星を指された居心地の悪さに舌打ちをした光秀に腕を掴まれた。
「では真琴、明紫波のこと頼んだぞ」
「は? え?」
いまいち状況が飲み込めていない俺をよそに、面々が散っていく。
「帰るぞ」
「ちょっ、光秀!?」
連れて帰ってと頼まれたのは俺の方なのに、ずるずると引きずられるまま暴走車に乗せられて、光秀の部屋へと連れてこられたのだった。
部屋に着いたと同時、緊張の糸が切れたとでもいうのか、光秀はぐったりとソファに沈んだまま今にも眠りに落ちそうな雰囲気だ。
「腹減った」
「帰りに何か買ってくれば良かったな」
俺が代わりに買いに行っても良いが、生憎この辺りの地理はさっぱりだ。おまけにあの運転の最中、そういった事を気にかける余裕すら無かったのも事実。
「光秀、台所借りてもいいか? 有り合わせで何か作る」
「んあ? いいけど、なんもねぇぞ?」
「その時は自分の不摂生を改めるんだな」
クスリと笑ってキッチンへと向かう。背後で光秀の顔が、僅かに赤らんでいたことなど知りもせず。
(……ビールしか入ってない)
冷蔵庫の扉を開けて、まず目に飛び込んできたのは大量のビール。そしてツマミ用だろうか、イカの塩辛とスルメ。それとパックの豆腐と卵が少し。一体この男はどうやって生活しているのだろう。
(本当に何も無いな)
次に戸棚を漁り、米と缶詰をいくつか発見する。発掘でもしている気分だ。その中から鯖缶を見つけ、手に取った。
「光秀適当に材料使っていいか?」
「おう。好きにしてくれ」
材料を見繕い、頭の中で献立を考えつつ米をしかける。
鯖缶と少しだけ残っていた野菜を炒め、味を整えた。卵でとじて冷凍庫にあった葱を散らして完成だ。
(あと……味噌は、あるな。味噌汁でも作ってやるか)
「おー、すげぇ。あの材料でよく出来たな」
「うわっ!」
冷蔵庫を前にうんうん唸っていた背後から、光秀がひょっこり顔を出す。驚かせてしまった事に、笑いながら侘びを入れられた。さっきまで吸っていたのだろうか、光秀が動くたびに煙草の匂いがする。
「本当に何もなくて驚いた」
「しばらく帰れてなかったからな」
ガシガシと頭を掻きながら、ポケットから煙草を取り出し口に咥えた光秀は、台所の入口に凭れて、ぼんやりとこちらを眺めてくる。
「台所に誰か立ってるっつーのも不思議なもんだな」
「光秀にだって、飯作ってくれる相手ぐらい居るだろ」
「いんや? つーか、家に上げたのも徳川が初めてだな」
「そうなのか?」
意外な言葉に驚きの声をあげると、光秀の間延びした返事が返ってくる。いつもの覇気も無く、なんだか擽ったさを感じてしまう。
家に居るせいか、光秀の表情も幾分穏やかだ。それにさっきの光秀の言葉に少し、ほんの少しだけホッとした自分が居る。心に何か引っ掛かりを覚え、モヤモヤと処理しきれない感情が膿のように溜まっていく。
(なんだ? なんか変な気分だ)
くぁ、と大きな欠伸が聞こえたことにより、ふと我に返る。おかしな思考を隅に追いやりつつ、今は食事を作ることに集中することにした。
「メシ炊けるまで時間かかるから、少し休んでいても良いぞ」
「わり……そうさせてもらうわ」
のろのろとリビングに向かう光秀の後ろ姿を見ながら、再び胸に何か小さな違和感を感じたのだった。
「光秀」
ソファに横になって眠る光秀に、悪いと思いながらも声をかける。日が落ちてからだいぶ時間が過ぎた。そろそろ帰ろうかと思い、一向に起きる気配のない体を揺さぶった。
「ん……徳川?」
「寝てるところ悪い。そろそろ帰ろうかと思って」
「爆睡しちまってたな。悪かった」
緩く首を振り、ソファの上で伸びをする光秀に視線を移す。
「ご飯。味は……どうか分からないけど、一応作っておいた」
「サンキュ」
「じゃあ、俺はこれで―」
「オメェも食ってけ」
「でも……」
「どうせ明日休みだろ? 特別にビールでも飲ませてやる」
「何でそんなに偉そうなんだよ」
「外科部長様なんだから偉いんだよ」
クスクスと笑えば、穏やかな視線が向けられる。くしゃりと前髪を乱され、非難の声をあげようとしたところで、それを躱した光秀は台所へと引っ込んでしまった。
(……あんな顔も出来たんだな)
子供扱いのそれとはまた少し違い、むず痒さを感じてしまう。今日はペースを乱されてばかりだ。光秀に乱された髪を整えながら、悔しい気持ちに唇を尖らせた。
「うまい」
「よかった」
料理を口に運び、素直に感想を述べる光秀に安堵する。口を動かしながら、ジッっと見据えられていることに小首を傾げた。
「料理出来たんだな」
「失礼な奴だな。ある程度のものは作れる」
「いやぁ、だってオメェ七輪のあれ……」
「あっ、あれは!」
光秀の言う『七輪のあれ』とは、赴任早々寮のベランダで七輪を使ってしまい、火災報知器を鳴らしてしまったこと。消し去りたい記憶のひとつだ。
「てっきり世間知らずのお坊ちゃんかと思ってよ」
ニヤと悪戯っぽい視線が向けられる。*
「光秀こそあんな食生活してたら病気になるぞ」
「お? 心配してくれてんの? 徳川クーン」
「どちらかというと、呆れだな」
「ひでぇなオイ」
くだらない会話をしながら食事を楽しむ。光秀と酒を飲み交わすのも初めてのことだが、先程感じた居心地の良さを改めて感じることとなった。光秀の雰囲気が、職場と少し違っているのも大きな原因だろう。
きっと、ずっとこの時間を忘れない。酔いが回り始めた頭で、ふとそんな事を思った。
食事を終え、片付けようと立ち上がったその時、ふらりとバランスを崩した。光秀に片手で手に持った器を、もう片方で腰を支えられていることに気付く。
「大丈夫か?」
「悪い、助かった」
器が落ちなかったことに安心していると、光秀の顔が目と鼻の先に迫る。
(ち、近い!)
「なんか顔色悪くねぇ? また貧血か?」
「気のせいだ」
「そうかぁ?」
目のやり場に困り視線をさ迷わせるも、顔の近さはそのままにじっくりと見られる。さながら診察でもしているかのように。
「タブレットは?」
「飲んだ」
「そうか……んじゃ、一発ヤ」
「らないからな!」
「いてっ、冗談だっつーの」
「お前のは冗談に聞こえない」
「冗談だ……半分だけ、な」
「へ?」
顔に影が落ちる。唇が今にも触れそうな距離にドキリと心臓が跳ねるが、至極真面目な顔で見つめられドギマギしてしまう。
「お前よぉ、体調はどうだ?」
「どうって、たまにフラつくけど前よりマシになってる」
「タブレット飲んでて、だろ?」
「あぁ」
「石黒が言うにゃ、吸血すればそれも良くなるって話じゃねぇか。ま、吸血ってわけじゃねぇから効果に差はあるかもしれねぇけど、別の方法試してみるのもアリなんじゃねぇ?」
「別の……って、吸うのは御免だ」
「今更そっち強要はしねぇよ」
「……じゃあ」
「別の方法っつーか、量が少ねぇんじゃねぇかと」
「は?」
(あ、あれで……?)
量とは。あれで少ないとは。
一般的なそれは知らないが、一度で終わった試しがなく、気絶することもしばしば。
「オメェなんか今、失礼なこと考えてただろ」
「イ、イヤ」
「顔引きつってっけど……まぁ、いいわ。少ねぇってのは一度の回数じゃなくて、頻度だ」
「頻度?」
「おう。今まで四、五日おきにしてたのを、間隔を狭めるんだよ」
(間隔を、狭める?)
目を瞬かせ固まっていると、光秀が頬を緩ませる。
「まー、あれだ。毎日でもヤりゃいい」
「っ〜〜! 馬鹿だろ! なんでそうなるんだ」
「オクスリだと思えばいいだろ? ほら、徳川サーン、注射しましょうね?」
「うわっ!」
体が宙に浮いたかと思うと光秀に抱えられ、そのまま寝室へと連れて行かれた。
ゆっくりとベッドへ体を沈められ、間髪入れずに光秀が覆いかぶさってくる。ギシと、ベッドのスプリングがやけに大きく響く。
「なんか徳川が俺のベッドの上に居るっつーのもアレだな」
最後の方は聞き取れない程で、ぽそりと何事かを呟きながら頬をするりと撫でてくる。ねめつける視線から逃れることも忘れ、固まるだけの俺に光秀は陶酔した顔で笑いかけてきた。
(光秀の、ベッド……光秀の部屋)
サッと血の気が引く。仕方のない状況とはいえ、毎度組み敷かれている相手のテリトリーに、自ら足を踏み入れてしまっているのだ。
「明日は二人とも休みだろ? 徳川の調子見るついでだ」
「必要ない!」
「遠慮しなさんな」
「ひっ!? や、やめっ……」
こうなってしまっては光秀を止める術がない。最初こそ抵抗していたが、何故か逆に興奮した光秀に、容赦なくされてしまったのだ。大人しく身を委ねたほうが幾分体も楽になる。
上着のボタンを外そうとする手を掴んで制止すると、不満げな視線が寄越された。
「ンだよ」
「……そっちは必要ないだろ」
吐き捨てるように告げ、視線を逸らす。そう必要ない。体を重ねる行為は、本来愛を確かめたり快楽を貪ったりするものだが、俺には……俺たちにはどちらも必要の無いものだ。
頑なに拒む俺を見て、光秀が溜息をつく。
「……わぁったよ。これでいいんだろ」
くるりと体が反転したかと思ったら、下着ごとズボンを剥ぎ取られた。外気に肌を晒すこととなり身震いをするが、それよりも今光秀が見ているであろう光景を想像しただけで、羞恥でどうにかなりそうだった。
後孔にローションのボトルが宛てがわれる。
「ひんっ……!」
冷たい液体が流し込まれる感覚に、思わず間抜けな声が出た。
縋るものを求め、目の前の枕をきつく握りしめる。と、ふわりと香る光秀の煙草の匂いに、ドクンと心臓が跳ねた。
(な、なんだ……コレ)
俺の戸惑いをよそに、長い指がローションを注がれた中に侵入してくる。
「ンッ、ぁ……ふうっ」
バラバラに動く指が、中の液体ごとかき混ぜてくる。ときおり痺れるような甘い疼きが腰に走り、体が崩れ落ちそうになった。それを我慢しようと目の前の枕に顔を埋めると、先程より濃くなる匂いに、まるで包まれているような感覚に陥る。
(やだ、これ……何か、変になる)
ギュッと目を瞑り、感じたことのない変化に戸惑っていると、指を引き抜いた窄まりに熱いものを宛てがわれる。
「光秀、まっ、あ……だめ、っ、くぅ!」
「きっつ……」
内壁を削ぐようにして怒張が入り込んでくる。どれだけ受け入れても慣れない圧迫感に、酸素を求めて、はくはくと短い呼吸を繰り返す。そうすることで必然的に胸に入り込んでくるのは、光秀の匂いで。
「っ……力抜けって」
「ッ、ふ……あ、あぁっ」
得体の知れない感覚に戸惑い、無意識に逃げ腰になるが、光秀がそれを許してはくれなかった。少し押し込んでは引き抜かれ、再び深く入れられる。いつもよりゆっくりとした挿入に、光秀の大きさや形をまざまざと感じ取ってしまう。
「逃げんな」
「あっ、はぁ、ぅ、あ……ん、あっ!」
みちみちと狭い中を拡げ、怒張が納められていく。首元に光秀の荒い息がかかり、それにさえ体がビクと震えた。
そうこうしているうちに尻にぴったりと光秀の腰骨が当たり、全てを受け入れたのだとわかる。
「ヒッ、ァ!? っ、く、ふぅっ」
「分かるか? 奥まで届いてんの」
奥? そう言われ、おずおずと下へ視線をやると、無骨な手が腹の上を往復していた。
それを意識してしまい、きゅうと後孔を締め付けてしまう。俺の反応を感じ取った光秀が、小さな笑いをこぼす。居た堪れなさにうろうろと視線を彷徨わせた先に見えたのは、しとどに濡れ、緩く勃ち上がる自身だった。
(う、そ……なんで勃って……)
こじ開けられ、穿たれることを喜んでいるとでもいうのだろうか。同時にピンと尖った淡い桃色の突起までも目に入る。今までに無い身体の反応に、戸惑いを隠せない。
―おまけに、撫でられている薄い腹。僅かに膨らみを見せるそこを、光秀の少しかさついた皮膚が形を確かめるようになぞった。同時に最奥を小突かれる。外と内。両方から刺激され、その存在を嫌というほど感じ取ってしまう。
「光秀、やだっ、それぇ!」
「後ろからだと奥までずっぽり入るもんだなぁ」
「はぁっ、ああっ! や、ちがう!」
「おら、分かんだろ。ちゃぁんと上手に飲み込んでる」
(……光秀の、入ってる)
「……ぁ、んっ」
腰を引き、皺の伸びきった縁を、確かめるように触れてくる。光秀と行っているのは性行為だ。何故今まで平然としていられたのだろう。緩く突き上げてくる光秀の動きに合わせて、俺の口から飛び出すのはみっともない喘ぎばかり。
「あ、はぁっ……っ、ぅ……ん、ぁっ」
「余所事なんざ考えてんじゃねえよ」
「ひぁっ、ああぁ! あぁっ、あ、あっ!」
それまでの緩やかな動きから一転。不機嫌な声と共に、それまで入口をゆるゆる刺激していた逸物が、ひと息に突き入れられた。奥を穿たれ声が我慢出来なくなる。
枕に顔を埋め、声を抑えようとするも。
(ぁ……光秀の、におい)
この部屋には至る所に光秀の存在が溢れている。ひどく落ち着かない気分になり、無意識に枕を抱きしめた。
「んぁ、んんっ、ふ……」
「徳川よぉ、枕にばっか抱きついてると……嫉妬すんぞ?」
「しっと?」
「オッサンにも構えーって、な」
「ッ〜〜!」
二の腕を掴まれ上半身が仰け反る。そのままガツガツと容赦なく腰を使われたものだから、たまったものではない。
「あぁぁ! あ、あぁ、ッ、ひっ、あぁっ!」
「はっ……いー声」
「っ、ぁ……しゅみ、悪いんじゃないか……く、あぁっ」
「きゅうきゅう締め付けてる、オメェに言われたかねえよ」
「はっ、あ、なんか、くる……! や、あぁっ、ぁっ、あ……」
「おら、イっちまいな!」
「だめ、ッ、あ! ひあっ、ぁ、い……こ、わい、ッ」
情けないことに光秀との行為で、未だ達したことのない俺は、どうしたら良いか分からなくなっていた。混乱して怖い怖いと涙を零す俺の腕を、光秀が解放する。それにより支えを無くした俺は、くたりとベッドへ上半身を投げ出した。
「あー……ほら、大丈夫だ。力抜いてろ」
視界を大きな手で覆われ、ビクと肩が跳ねた。もう片方の手が震える俺自身に触れてきて、先端を優しく弄られる。
「余計なこと考えねぇで、こっちだけに集中しろ」
「んっ……ふ、ぁ、や! やぁっ!」
「嫌なだけか?」
「あっ、は……んんっ、ふぅっ……なんか、へん」
「変って……オラ、どんなだ。思うままに言ってみろ」
「あっ、ぁ、っん、ぁ……そこっ、ぁ、あぁっ!」
「ここ? ここがどうなんだ?」
「そこっ、が、ッ……ひっ、あぁ!」
ぐりぐりと、張り出した先端である一点を抉られ、背筋が仰け反る。声の質を違えた俺に、光秀がふと笑う気配がした。
「良さそうだな」
「よ、さそう……っ、ァ」
「ん。気持ちいいだろ」
(……きもちいい)
視界を遮られているせいか、感覚が鋭利になっている気がした。
もっと、もっとと光秀に腰を押し付ける。
「は……えっろ……」
興奮した光秀の声さえも、この時ばかりは俺を高める材料になっていく。そして、思うままに口を開いていた。
「あんっ、うぁ……みつひで、も、っと……」
「どうして欲しい?」
「ぐりぐりって、奥……」
「そんで?」
「あぁっ、ぁ……だ」
「おら、言ってみな」
「だして……おくに、っ、ぁ」
「ん……いい子。こっち自分で弄ってな」
耳の後ろに口付けを落とされ、手を取った光秀に『こっち』と、今にも弾けそうな俺自身に導かれる。
恐る恐る擦りあげれば、ぞくりと背筋から腰にかけて快楽が走り抜けた。結合部からは粘りを伴った水音と、肌のぶつかる音。塞がれた視界の中、獣じみた荒い息と混ざり合い、脳内までも犯してくる。
「ぁ、あ、っんぅ……あっ、あ!」
気が付けば夢中で、はちきれそうな俺自身を擦りあげていた。
「んっ、あ……ッ、ああっ、あ!」
「こっちも忘れてもらっちゃぁ、困るんだけど、よ!」
ズンと腹の奥に響くような一突き。
「あぁ〜〜っ!!」
目の前に火花が散る。とぷりと手を濡らす液体に、そこで初めて達したのだと気付く。しかし、光秀の攻めは止まらない。
「っ*! ぁ、や、ァ」
「イけたみてぇだな……よくできました」
「ひっ、あ! やぁっ、あっ、イった、いった、からぁ!」
耳元で甘く囁かれ、耳朶を食まれる。やわく口に含んでは、舌でなぞられる感触が、やけにリアルに感じられた。
(もう……おかしくなる)
視界を覆う光秀の手を掴むと、光秀が握り返してきた。
開けた視界に安堵したのも束の間、挿入されたままで体をひっくり返される。そうなると、反り返った剛直が敏感になった中を擦るわけで。
「っく、あぁぁっ!」
「まぁたイったのかよ」
立て続けに達し肩で息をする俺に、光秀は腹に飛び散った白濁を掬い上げながら、目を細める。
再び開始される抽送。光秀も限界が近いのか、余裕なく腰を打ち付けてきた。
「ひっ、あ! あぁっ!」
「はぁっ……かーわい」
「なっ!?」
うっとりと、頬に手を添えられ言われた言葉に驚き、思い切り締め付けてしまった。小さな呻きが聞こえるが、見つめてくる顔がどこか嬉しそうに見える。
「そーゆートコが、ますます可愛いっての」
「ぁ、ふ……なに、馬鹿なこと」
ふいとそっぽ向くも、気付いてしまった感情を隠すので精一杯だ。
「……っ、出すぞ」
溢れる感情に泣き出しそうになりながらも、必死に頷く俺を光秀が抱きしめてくる。
「は……ッ、徳川」
「あぁ、あ、はぁっ……ぁ」
どくどくと奥に注がれる熱い液体。こんなにも、こんなにも満たされるものだったなんて。
(……どうしよう、光秀が好きだ)
「辛かったか?」
頬を濡らす涙を拭う光秀の手が温かく、再び溢れそうになる涙を隠すため、光秀の胸元に顔を埋めたのだった。
***
あの休日の夜から数日後、三成から受け取った血液検査の結果に目を通していた。以前と変わらない状態で、特に目立った異常もなし。
(だとすると、本当に光秀の血だけに反応したってことになるのか)
相変わらず他人の血も受け付けない。変わったことといえば。
(きょ、今日も光秀と……)
帰りがけに食事に誘われたのだ。それが嬉しくて終始ご機嫌だった俺に、光秀は首を捻っていた。連れて行かれたのが寿司屋だったからと誤魔化しておいたが。
食事を終え寮へと帰る道すがら、人目につかない場所に車を止めた光秀が、覆い被さってきた。
熱の篭った視線。荒い息遣い。俺よりも大きな温かい手のひら。それらを思い出し、両腕を抱きしめながらソファに寝転ぶ。真っ赤に染まっているであろう頬が熱い。そしてふと唇に触れる。行為の最中、光秀に口付けられたのだ。思い出せば、それだけで体が熱くなってくる。
光秀への想いを自覚した途端こうだ。我ながら単純だなと思う。燻る熱をどうにか逃がそうと、考えを紛らす。
あの夜の一件以来、毎日とまではいかないが、かなりの頻度でそういう行為をしている。光秀の思惑通り、タブレットの摂取量も抑えることができていた。
(光秀のヤツ、歳のわりに元気だよな……)
一回の行為における回数は、以前とさして変わることはないが、気絶することは少なくなった。あの日の夜もその時ばかりは、あれっきりで終わったが、休みだった翌日はほぼベッドの中で過ごしていた。
ソファに座り直し、もう一度検査結果の紙を見る。
(一応光秀にも教えておこう)
そう思いつつ冷めたコーヒーに手を伸ばす。一口含んで、首を捻る。
(? あれ……)
不思議に思い、もう一口、口をつける。
「な、んで……」
(淹れた直後も、光秀と食事に行った時も、こんなこと感じなかったのに)
「味がしない」
コトとテーブルにぶつかるカップの音がやけに大きく響いた。
翌日血液検査の結果を見せるため、光秀を件の地下室に呼び出した。
「異常なし……か」
「あぁ、特に変わりはない」
「前のデータはあるか?」
「あるが……」
「ちょっとそっちも見せてくれ」
「わかった。こっちが前回ので、こっちがその前のデータだ」
「ん、サンキュ」
光秀が紙面に静かに視線を落とす。数値を目で追っては、時折考える仕草をする姿をぼうっと眺めていた。
「おい、徳川?」
「!」
「ボーッとしてっけど、どっか具合でも悪ィのか?」
「な、なんでもない。少し考え事をしていた」
「なら良いけどよ」
見つめてくる瞳は探るでもなく、ただ心配だと言っているようで。強面で知られているこの男だが、情に厚く面倒見が良い部分もあるのだ。共に過ごす時間が増えたからこそ、知り得たことでもある。
「そういや……」
「なんだ?」
「貧血は前より改善されてんじゃねぇの?」
「あぁ」
光秀の言う通り、その数値は若干ではあるが上昇している。その要因として考えられるのは、あの行為しか無い。意識した途端じわりと熱を帯びる体。ついこの間まで毛嫌いしていたのに、想いを自覚したらこうも変化してしまうのか。己の浅ましさに辟易してしまう。
「じゃああれは論理的にも間違っちゃいねぇってことか……」
何やらぶつぶつ言いながら、再び光秀は視線を下へ落とした。
あの出来事があってから、暇を見つけては三成の研究室に通い、資料を読みあさっていたらしい。とはいえ光秀本人が言ったわけでもなく、三成が仕事の邪魔と恨み言半分で教えてくれたのだ。「貴方にはあまり知られたくない様子でした」と、どこか楽しそうに告げてきた三成を思い出す。
意外なことに研究者気質であることも、そのとき知った。初めこそ驚きはしたが、実際目の当たりにすると納得せざるを得ない。
それからいくつかの質問のあと、帰ろうとしたところで光秀が俺の腕を掴んできた。
「わっ!」
腕を引かれたことでバランスを崩し、ベッドに頭から思い切り突っ込んでしまった。頭上から光秀の低い笑い声が聞こえる。
「何する、っ……」
油断していた俺も悪いが、些か乱暴な扱いに文句のひとつでも言ってやろうと、顔を上げたところで言葉に詰まった。
見上げたその先、片手をベッドに付いた光秀が、余裕の笑みを浮かべていたからだ。
「何って、ナニ?」
「は?」
反動で捲れあがった上着の隙間から、光秀の手が入り込んでくる。そこでようやく、光秀の言わんとすることを理解できた。
「は……いやいや、何を考えているんだ!」
「そういうつもりで呼び出したんじゃねぇの?」
「馬鹿、違う! 人に聞かれたら拙いと思ったからだ」
「ンだよ。俺はてっきり、オメェからのめっずらしいお誘いだと思ったのによ」
「そんなわけ無いだろ。それに誘いって……変な言い方をするな。今日は体調も良いし平気だ」
不埒に動き回る光秀の手を、両手で掴んで服の中から引きずり出した。
「つれねぇな」
そう言いながらも、あっさりと俺の上から退いてくれた光秀に胸を撫で下ろす。たったあれだけの事なのに、鼓動が忙しない。
(人の気も知らないで)
俺の秘密を知ってしまい、協力してくれる形にはなっているが、光秀にとって行為をすることに一体何の利があるというのだろう。面倒事に巻き込まれたといっても、過言ではないのに。
性欲処理と、ふとその言葉が浮かぶ。後腐れない理由でソウイウコトができる状況で、おまけに男だ。そこまで考えて胸がツキンと痛んだ。
ベッドに腰掛ける光秀を押し退け、のろのろと起き上がった。服を整えながら複雑な心境で光秀を見る。
「そう怒んな」
「別に……怒ってない」
そう、怒る理由も資格もない。奪うだけの化物の俺に、生きるための活力を与えてくれているのだからむしろ感謝するべきなんだろう。けれど、本当にこのままで良いのだろうか? この関係に甘んじてしまって。
思考に囚われ俯く俺の頭を、温かな手のひらが往復する。わしわしと少し乱暴に髪を乱されたことに、痛いと文句を言えば、苦笑と共に温もりが離れていった。
「飯でも食って帰るか?」
光秀からの誘いに頷きかけた俺だが、ふと昨晩のコーヒーの件が脳裏を過る。今朝もう一度コーヒーに口を付けてみると、ほろ苦い味が舌を刺激した。しかし昼食の大好物である焼き魚定食は、少し味気なく感じたのだ。
「……今日は遠慮しておく。昼飯が遅くて、腹減ってないんだ」
色々なことが一気に起こってしまい、疲れているのかも。気にしすぎるのは却って良くない気がして、とりあえず休息を取ることを優先した。
「そうか。あんま無理すんなよ」
「それは光秀のほうだろ……冷蔵庫の中は増えたのか?」
「あれはたまたまだっつの!」
光秀はばつが悪そうに、襟足をがしがし掻いていた。それが何だか面白くて、小さく笑ってみせると非難の声が飛んでくる。
「笑うなっつの」
「すまない」
「……信用ねーんなら見に来るか?」
「へ?」
「あ、いや……情けないとこばっか見せるわけにもいかねぇだろ。別に変な意味はねぇぞ!」
「変な意味?」
首を傾げる俺に慌てた様子の光秀だったが、ひとつ咳払いをしてこちらに向き直った。
「まぁなんだ。この前の礼変わりに、旨いモンでも食わしてやる」
また家に行っても良いというのだろうか。誘われたことに純粋な喜びを感じる。
「魚……」
「あ?」
「とびきり美味い魚があるんだったら、行ってやってもいいぞ」
「へいへい」
我ながら素直じゃない返事をしてしまったと思い、呆れていないだろうかと、チラと目の前の顔を盗み見た。
(う、わ……)
柔らかく目を細める光秀と視線が交わる。今までに見たこともないそれに、じわりと胸の奥が熱を帯び、それが全身に広がっていく。
「徳川? オメェなんか顔赤いけど大丈夫か?」
「え、あ……大丈夫だ!!」
「血ぃ足りてねぇんなら今からでも―」
するりと尻を撫でてくる手を叩く。どうしてこの男はいつもこうなのだろう。
「そっちは必要ないって言ってるだろ、エロ親父!」
「エロ、ッ! おま……それはねぇだろ」
「うるさい! 俺はもう帰る」
「おーもうこんな時間か」
俺の言葉に時計を確認した光秀が呟く。部屋を出ていこうとする俺に続いて、光秀も立ち上がった。
「ついてくるな!」
「奇遇だなァ、俺もこっちに用があるんだよ。お、そうだ、ついでに送ってやるよ」
「断わる。お前の運転は乱暴すぎる」
なんとか振り切ろうと、足早に廊下を進むが、一向にその距離は広がらない。むしろ縮まるばかり。断じて身長の差なんかではないと思いたいが、明らかにリーチの違いを見せつけられているようで、心の中で悪態をついてしまう。
さっきまでの穏やかな流れはどこへやら。妙に癇に障ることも平気でやってくる。背後から聞こえる忍び笑いも、それを助長させる要因になっているはずだ。
(……どうしてこんな奴、好きになったんだろう)
気の迷いとも思いたいが、それを考えただけで熱に浮かされたように、考えがまとまらない。恋をするというより、恋に落ちるとはこういうことなんだろうと。
とりあえず余計な考えは捨て、諦めて恐怖のドライブへと赴くか、無い体力を振り絞って逃げ切るか頭を悩ませる俺の後ろで、光秀があの穏やかな顔でまた笑っていたなんて気付きもしなかった。
「くそっ、結局こうなるんだ」
「おーい。声、もれてますよ〜」
「……気持ち悪い」
「ほれ、水」
光秀が持ってきたペットボトルを奪い取ると、それに口を付けた。冷たい水がモヤモヤと渦巻く気持ち悪さを押し流してくれる。
あの後追いかけっこにより体力を消耗した俺は、光秀に引きずられるようにして車へと連れて行かれた。
その結果がこの有様だ。
フラフラした状態を見かねた光秀が、支えながら部屋まで送ってくれたのだが。
(全部俺の、やられ損じゃないか)
「死ぬかと思った」
「安全運転だったじゃねぇか」
「……あれで?」
ジトリと睨みつけると、乾いた笑いが返ってきた。
「いえ、何でもありません」
ひとつ息を吐く。水を飲んだおかげか、だいぶ楽になってきた。心配そうに様子を伺ってくる光秀には申し訳ないが、共に居られる時間が増えたことに少しだけ喜んだのも事実。責任を感じている部分もあるからだろうが、今もこうして側に付いてくれることが嬉しいと。
「……悪かったな」
「だいぶ楽になったから、もう大丈夫だ」
「そうか。何かあったら連絡してこいよ」
「あぁ。ありがとう」
「いや、元はと言えば俺のせいだしよ」
「自覚があるならもう少し気をつかえ」
「おー」
帰る光秀を見送ると、そのままソファへ倒れるように沈んだ。
妙な擽ったさと高揚感が溢れてくる。歓喜にも似たそれは、光秀のことを想うだけで、さざ波のように押し寄せてくる。ふわふわとした幸せな気持ちの中、疲れと体の怠さも手伝って、意識が闇の中に沈んでいくのに、そう時間はかからなかった。
組み敷かれ、光秀でいっぱいになる。幸せで気持ちよくて、もっともっと欲しくて。縋り付いた首筋から、汗の匂いに混じる芳しい香りに誘われるように、すうと吸い込めば胸を甘美に満たしてくれる。
足りない。まだ、足りない。
そのまま牙を皮膚の中に沈めると、光秀の口から低くくぐもった声が漏れた。枯渇した体を潤してくれるそれに夢中になる。もっと……もっと光秀で俺を満たして欲しい。もっと気持ちよくして。
けれど、強請るようにすり寄せた体は氷のように冷たくて―。
妙にリアルな感覚に飛び起きた。
「夢……?」
絞り出した声はみっともなく震え、掠れていた。
バクバクと心臓が早鐘を打ち、喉の奥が痛いほどに渇く。薄暗い室内がさっきまでの情景と重なり、夢と現実の境界線が曖昧になる。落ち着いて周囲を見渡せば、そこは自室で、ソファに横になっていたらしい。光秀を見送ってから、そのまま寝てしまったのだろう。
(……光秀)
夢の出来事を思い出してしまい、ぶるりと身震いをする。カタカタと震える手で膝を抱え、顔を埋めた。忘れたくて目を閉じても、あの光景が瞼の裏にこびりついて離れない。
怖い。怖い。夢が? 違う。垣間見えたあの化物が、己の末路だとしたら? 屠るだけの化物でしかないのだと言われているようで、ひどく胸が痛んだ。
あれから一睡もしないまま朝を迎えた。冷たい水で顔を清め、水が滴るのも厭わず顔を上げる。そこには薄らと隈をこさえた、情けない顔が鏡に映し出されていた。
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