七輪の前に座り、パチパチと炭の爆ぜる音を聞きながら、網の上で香ばしい匂いを放つ脂ののった鯖をひっくり返す。その隣でじゅうじゅうと音をたてるのは、たっぷりとタレを染みこませたイカ焼き。
 あれから数ヶ月。俺の味覚は緩やかではあったが、回復の兆しをみせていた。
 あの一件を三成に話したところ、どうしてもっと早く言わなかったと、溜息ながらに怒られた。同時に光秀との関係もバレていたことが判明し、何故か俺以上に光秀は小言を言われていたが、それでも収まるところに収まった俺たちを、周囲は少なからず祝福してくれた。
「わ! もうこんな時間」
「なーにがこんな時間だって?」
「ひあっ!?」
 耳元に息を吹きかけられ、ついでとばかりに腰から尻にかけて撫でつけられる。突然の刺激に、思わずおかしな声を上げてしまった。
「みっ、み、み……」
「みみ? あぁ、弱かったのか」
 よっ! と何とも気の抜けるような挨拶の後、肩越しに光秀が手元を覗く。
「へーえ。美味そうじゃん」
 首筋に顔を埋められ、光秀が言葉を発するたびに、背中がむずむずと擽ったさを訴えてくる。スーツを身に纏い、かっちりと前髪を上げているだけでクラリとしそうなのに、微かなコロンの香りに鼓動が高鳴ってしまう。ズルい。そんな言葉が頭に浮かぶ。
 そこまで考えて、ブンブンと首を振る。そうじゃない。
「そうじゃなくて! お前出張は? 教えてくれた時間より随分早くないか?」
「真琴クンが待っててくれるって言うから、直帰しちゃった」
「しちゃった、じゃないだろ! それならそうと……ン、っ」
「『逢いたかった』じゃご不満ですか?」
 ちゅっと軽く触れた唇が離れていく。
「そういう訳じゃないが……」
「ん。それならいいじゃねぇか」
 今日は数日の出張を終えた光秀が、帰ってくると聞いていた日。『メシ』のこともあったが、何よりも俺自身が少しでも一緒に居たいという理由から、晩ご飯作りを申し出たのだった。
 嬉しそうに笑う光秀を見やる。少し驚いただけであって、俺だって嬉しくないはずがない。スーツの裾をちょいと引っ張り、小さく「おかえり」と呟く。それを受けた光秀に引き寄せられ、腕の中に閉じ込められる。「ただいま」の言葉と一緒に、落ちてきた口付けを今一度受け入れた。
「あ〜腹減った」
「もう少しで準備出来るから、先に風呂でも入ってきたらどうだ? 沸かしてある」
「サンキュ。真琴も一緒に―」
「入りません」
「ちぇー……なんだよ」
 にっこり笑って告げると、不貞腐れた表情を見せた。
「とりあえずゆっくり疲れでも取ってこい……ど、どうせまた、後で入ることになるんだから」
 自分から口に出しておきながら、羞恥が込み上げてくる。そんな俺の様子に追い打ちをかけるように、光秀が口を開いた。
「そうだなァ。後でじっくりってのも悪かねぇな」
「っ! は、早く行ってこい」
「へいへーい」
 ニヤニヤと、頭の天辺から足の先まで観察するような視線に耐えられなくなり、光秀の体を風呂場のほうへと追いやった。
(……浮かれすぎだろ)
 こんなやり取りが嬉しいだなんて。
 鼻歌でも歌いだしそうな光秀の背中を見つめながら、すっかり火照ってしまった頬をぺちんと叩く。
(光秀が風呂から上がるまでに、支度終わらせないと)
 そして甘い甘いやり取りの間に、芳しさを通り越してしまった、網の上の好物を見つけて悲鳴をあげたのだった。

 少しばかり焦げてしまったものの、何とか食べられる状態だったメインディッシュ。夕飯を綺麗に平らげた光秀が、満足そうにソファに凭れかかっている。片付けを終えた俺は、隣に腰掛けようと近付いた。
「お疲れさん。片付けまでありがとな」
 ぐいっと腕を引っ張られ、光秀と向き合うような形で、膝の上に乗り上げる。瞬間、背筋にびりりと電流が走り抜け、我慢することのできなかった衝動が声となって飛び出す。
「あぅっ!?」
(しまった……油断してた)
 突然上がった嬌声混じりの声に、光秀が怪訝な顔をする。しかしすぐにある違和感に気付いて、ニヤリと意地の悪い笑みへと表情を変えていった。
(っ、まずい)
 そんな考えが頭を過るが、時既に遅し。
「ひ、ぃ、ッ!」
「これなぁんだ?」
 的確に光秀の膝がそこを刺激してくるものだから、たまったものではない。声色で明らかに楽しんでいるのがわかる。
「や、あ! だめっ!」
「の割には、腰揺れてっけど」
 与えられる快楽の波に抗えずにいると、視界がぐるりと回転した。視線の先には口元にゆるりと弧を描く光秀と、その肩越しに見える淡い色の今ではすっかり見慣れてしまった天井。
 ベルトを緩められたスラックスを、下着ごと引きずり下ろされる。膝までという中途半端なところで止められ、ぐいと足を持ち上げられた。何も纏うものが無いそこに、視線が向いていることに身じろぐも、トンとある一点を軽く叩かれたことで息を詰める。
「っ……く、ふぅ」
「こんなことして、待ちきれなかったのかよ?」
「んんっ、ひ、ぁっ!」
 そこに直接触れてくれたのは一度きり。わざと避けるように、袋をやわやわと撫でられ、足先が跳ね上がった。
(……たりない)
 悦楽を知った体は貪欲で。もどかしい手つきに、自らの太ももをぎゅうと抱え、先を強請るような視線を送った。が、肝心の光秀はずっと同じところを撫で続ける。
「み、光秀……」
「なんだ?」
「っ!」
 あくまで自分からは動かないつもりなのだろう。こうなってしまえば、俺から動く他無い。元よりコレを使ってしまった時点で、俺に言い逃れる余地など残っていないのだ。
「言わねぇと分かんねぇぞ」
「ち、ちゃんと触って」
「触ってって、コレ入ってたら無理じゃん」
「ぅ、ぁん!」
 そう言って、後孔に咥え込んだプラグを引っ張られた。滑らかな表面に添うように、プラグを頬張る縁が捲れ、反射的にそこに力を込めてしまう。その反動で、光秀の手から離れたものが再び中を抉る。
「ぃ、あぁっ!」
「何時から仕込んでたんだ?」
「あうっ! ぁ……あっ」
「なぁ、何時からよ?」
 くちゅりと耳を嬲られ『真琴』と、逆らえない声色を直接脳内に叩き込まれる。最近、徳川から真琴と呼び方が変わったのだが、光秀の心地良い低い声で呼ばれるのが好きだった。情事のときの艶を含んだ声は、もっとで。
「ン……光秀が、帰ってくる……すこし前」
「ほー。じゃあ、飯作ってる時も、食ってる時もこれ突っ込んでたのかよ?」
 返答に困っていると、沈黙を肯定と受け取ったであろう光秀が口を開く。
「えっち」
「っ〜〜!!」
 囁くように耳元で言われ、いよいよ顔を覆って泣き出したくなってきた。
 そうだ。光秀の帰宅前から準備をして、ローションをたっぷり流し込んだナカに、光秀自身よりは小ぶりだが、それでも存在感のあるものを自ら埋め込んだのだ。ベランダで尻を触られたときは、正直なところ腰が抜けそうになった。食事の準備をしている時も、揃って食事をしている時も光秀のことで頭がいっぱいだった。
 それも、全て―。
「光秀の……ッ、はやく欲しかった、から」
 途切れ途切れの俺の言葉を聞いた光秀が、ふっと表情を緩める。それからポンと頭に手を乗せ、髪を乱してきた。おずおずと顔を上げれば、優しい色をした双眸が見つめてくる。
「ん。知ってた」
「え……」
「だってオメェ最近ずっと『はやく、はやく、もっと』って」
「い、い、言ってない!!」
「あ〜……そうだな、確かにそうだ」
 頷いたことに表情を明るくすれば、対する光秀はにんまりと笑みを深くしながら口を開く。
「精液欲しがって、理性ぶっ飛んでる時だけだな」
「なっ、な……」
「覚えてねぇんなら教えてやろうか?」
「あっ、は……んぅ、く!」
 ぐちゅりという音と共に、埋め込まれたままだったモノで内肉を掻き回される。その疼きに従うように自ら腰を揺らめかせば、光秀が驚いたように目を瞬かせた。
「はぁっ、あ……いい、からぁ……俺が、ッ、欲しいの、それじゃなくて」
「あ?」
「ん、ぅ……光秀の精液もだけど、っ、ぁ、……恋人として、スる時間だから」
「ッ!」
 光秀の動きが止まる。
 想いを通い合わせ、共に過ごしてきた数ヶ月。三成の言った通り、恋をして俺は変わった。心だけじゃなく、体も光秀によって作り替えられてしまった。精を貰う目的だけじゃない、体の繋がりが増えた。むしろそちらの頻度が多いほどで、恋人として情を交わす機会が多くなったから、精を貰うことのみを目的とすることが減ったのか。
 以前真面目な顔をして光秀にこの話をしたら「オメェは難しく考えすぎんだよ。結果としてどっちが増えたって、真琴とセックスしてることに変わりはねぇんだ。前も言っただろ、好きだからシたい。そんだけ」と笑われた。多少明け透けなところはあるが、光秀の言うことも一理ある。
(好きだからシたい)
 今ではその気持ちがよく分かる。あの声で優しく名前を呼んで、大きな手で、全身で包み込んで欲しいと。たった数日、されど数日。光秀の温もりを知ってしまった俺にとって、この数日はとても長いものに思えた。だからこそ長く貰えていなかった精を貰うより、繋がりを早く持ちたいと体が疼いたのだった。
 埋め込んだままのものを抜き去り、両腕で膝裏を抱えなおす。そこは光秀を欲して、はしたなく口を開いているだろう。
「な、光秀……きて?」
 固まったままの光秀に焦れて、名前を呼ぶ。ぐぅと低い呻きと共に、光秀が顔の真横に両手をついてきた。その弾みでソファが沈み、体が小さく跳ねる。
「くそっ、なんか一本取られた気分だぜ」
「なんだそれ」
 控えめな笑いを漏らすと、光秀がガジガジと肩口を噛んできた。
「いっ! それ止めろって」
「嫌だ。きゅうきゅう締め付けてくるから、たまらねぇんだもん」
「なに馬鹿なこ、っ、う、ァ、あぁぁっ!?」
 話の途中で前触れもなく、最奥まで怒張を突き入れられた。「手ェそのままな」と、膝を抱えた腕の開放を許されず、自ら光秀に痴態を見せつけながら侵食される。
「はぁ……ッ、きっつ」
「あ、ぁ……ひっ、ぐ、いきなり……ばかぁ」
 いくら慣らしたとはいえ、それなりの質量のものを一息に捻り込まれたのだ。弾みでポロリと流れた涙を、光秀のかさついた指が拭う。
 相変わらず肩口を甘噛みしては舌を這わせてくる。その擽ったさに身じろぐが、ぴりっとした痛みに眉を顰めてしまった。光秀が出張に行く前日に噛んだものだ。吸血鬼だというのに、噛まれて悦びを滲ませた声を発したことを思い出す。
(興奮した光秀に噛まれて……舐められたんだっけ)
 その時の状況まで鮮明に思い出され、頬に熱が集まる。
「なぁに考えてんだよ」
「ひぁぁっ!」
 不機嫌な声で光秀が中を抉ってくる。恥ずかしい体勢だというのに、口から飛び出すのは快感を訴える声のみで。
「みっ、光秀のことだけ、だからぁ」
「ほんとかよ」
「お前に噛まれて、その……」
「噛まれて?」
「あっ! は、あぁっ!」
 ずるりと、今にも抜け落ちそうな程腰を引かれたかと思ったら、これでもかと奥に突き入れられる。肌と肌のぶつかる音と、ローションをかき混ぜられる淫猥な音が鼓膜を叩く。光秀は俺の言葉の先を促すように、絶妙な緩急で攻めてきた。
「噛まれたのが……ん、ぅ、嬉しくて」
「へーえ? 吸血鬼なのに?」
「は、ァ……ぁ、あっ、ふ……きもち、ぃ、の」
「そうかよ」
 どこか嬉しそうに目を細める光秀に、鷲掴みされたかのように胸がきゅうとなる。
(すき、だな……)
 俺の言動ひとつひとつに、表情を動かして見せる光秀が。
「光秀、あのな……」
「おう」
「すき」
「……おー、俺も好きだ」
 ほんの僅かな間、動きを止めた光秀だったが、すぐに緩やかに律動を続ける。落ち着いた声色で返事をしてくるが、間違いなく動揺しているんだろう。
(だって、ナカでこんなにもビクビクって……)
 俺の中だって締め付けてしまっているのも、光秀にはバレているだろう。それでも歯を食いしばり、平静を装おうとする年上の恋人が愛おしく思えた。
 至福に満ちた時間の中、俺たちは幾度となく求めあった。

 深夜、低く唸るような声で目を覚ました。
「……光秀?」
 光秀がいるはずの隣の空間は空いており、シーツは僅かな温もりを残すのみ。
「う、ぐっ……」
 うめき声のする方へ視線を向けると、ベッドの下に蹲り、胸元を押さえる光秀の姿があった。慌ててベッドから抜け出し駆け寄る。
「光秀っ! おい、大丈夫か!」
「……ッ、真琴」
 呼びかけにも応え、脈も呼吸も目立った異常はない。衣服を寛げ、楽な姿勢にしようとしたところで、違和感に気付く。
「……え」
 闇夜に妖しく光る琥珀色の瞳。普段の深い青とはかけ離れている。その変化を目の当たりにして、嫌な予感が脳裏を過ぎった。誰よりもこうなってしまう事例を、身を持って体験してしまっているから。
 震える手で携帯を取り出し、操作しようとしたところで伸びてきた手に遮られた。
「大丈夫だ」
 額に汗を滲ませた光秀が、掠れた声で告げてくる。琥珀色をした瞳だけでなく、やはりヒトでは有りえないほどに伸びた犬歯が、苦しそうに息を吐くたび、その存在を見せつけてくる。
「いや、でも……一応三成に連絡だけでも」
「や、痛みは治まってきた」
「そうだとしても、何かあったら困るだろ」
「何か、ねぇ……喉が渇くのと、あとは……疼くんだよな」
「それなら尚更どうにかしないと」
(喉が渇くって、つまりそういうことじゃないか。―疼く、のは他に何か原因があるかもしれないけど)
 純血の者でなければ噛んでも吸血鬼にはならないと言われているが、過去に症例が無かっただけで、もしかしたらそういうこともあるのかもしれない。
 考え込んでいると、突然強い力でベッドへと押さえつけられた。
「……真琴」
「光秀、冗談はやめておとなしく……ッ!」
 押し退けようとしたところで、太ももに押し付けられる張り詰めたものに絶句する。
(疼くって、そっちなのか!)
 鼻先を首筋に押し付けながら、軽く噛み付いてくる。尖った犬歯が皮膚をなぞるだけで、ぞくりとした感覚が押し寄せてきた。
「なぁ、真琴……」
「っ、ちょ、ま、ま、光秀!」
 ただならぬ空気に流されそうになってしまうが、ここはグッと堪える。押さえつけてくる大きな体の下から抜け出そうと、厚い胸板を叩いた。それでもびくともしない光秀に歯噛みするが、このままコトに及んでしまうのは、最善とは言い難かった。
「みっ、つひで! ちょっと待てって」
「ってぇ……」
 思い切り手を伸ばせば、ぺしりと乾いた音をたて、両手が光秀の顔面を覆う。それにより動きが止まった光秀の下から抜け出し、すぐさま距離を取った。
 片手で顔を覆う指の隙間から、橙がこちらをじっと見据えている。捕食せんとする瞳に、背筋が粟立つのを感じた。
「暴力はんたーい」
 やけに明るい声が逆に恐怖を呼び起こす。じりじりと近寄る光秀と距離を取ろうとするも、足首を掴まれ、引きずり戻される。
「ヒッ……」
 こわい。薄ら笑いを浮かべる口元が。いつもの優しさを欠いた獲物を狙うような、狂暴な視線が。
 引き倒され、シーツに縫い止められた。目と鼻の先に光秀が迫る。端正な眉を歪め、荒い息を吐き出している。そこで初めて気付いた。苦しさに紛れて、理性との間で、せめぎ合い揺れる瞳に。
(光秀も辛いよな)
 己も同じような状況を味わってきたのだから、その苦悩が手に取るようにわかる。
 光秀の頬に手を添え、視線を合わせ、口を開いた。
「……光秀、辛いよな」
「っ、わり……抑え効かなくって」
「その、口で、シてやるから、今日はそれで我慢してくれ」
 はだけたシャツから見える、均整のとれた胸元に指を這わす。そのままゆっくりと下へ滑らせた。

「……すみませんでした」
「し、正気に戻ったなら良かった」
 気まずさより、気恥しさから思わず視線を逸らしてしまう。初めてではあったが、光秀にされていたのを思い出しながら口淫に耽った。たどたどしい手つきだったにも関わらず、ちゃんと気持ちよくなってくれていたようだ。
(ま、まさか、顔にかけられるとは思わなかったけど)
 発散させてしまえば光秀は落ち着きを取り戻した。―冷静になり、改めて色々なもので汚れてしまった俺を見て、絶句していたが。その後平謝りしながら綺麗にしてくれ、今に至る。
「瞳の色も通常に戻ってるな」
「おう……」
「苦しいところや、痛いところは?」
「無い」
「そうか、それなら良かった。俺の吸血発作とはまた違うものなのか? とりあえず三成に話して……って、光秀?」
 近くで状態をじっくり観察しながら、目を細め微動だにしなかった光秀の名前を呼ぶと、肩をびくりと跳ねさせた。
「あ、いや……なんでもねぇ」
「落ち着いたなら少し寝るか?」
 出張帰りで疲れているだろうと、体を横にずらし、スペースを空ける。
「オッサンこの状態で寝るのはちょっと、な」
「……やっぱりどこかまだ気になるところが?」
「や、なーんか興奮しちまって」
「は? もしかして……まだ治まってないのか?」
「治まってねぇのかな。真琴見てると興奮してくんだよな……口でして貰ったの思い、んぐっ」
「な、何言って……! ほんっと、ケダモノみたいな奴だな、お前は」
「ケダモノね……まぁ、流石にもう疲れたから襲ったりはしねぇよ」
「したら布団で簀巻きにしてやる」
「それは流石に酷くねぇか」
「っ!! もう寝る!」
 ふて寝同然に、光秀に背を向けて布団に潜り込んだ。そんな俺にくつくつと笑いを零しながら、背後から抱きしめてくる体温はいつもより熱い。

 翌朝、俺と光秀は三成の研究室を訪れていた。
「……これは!」
「何か分かったのか?」
 検査結果を手に三成が驚嘆の声をあげる。それに誘われるように、前屈みにその用紙を覗き込んだ。
「はっきりとは言えませんが、恐らく吸血鬼化のようなものでしょう」
「……吸血鬼」
 光秀の様子を見た時から予感はあった。けれどそれを実際に突きつけられ、一瞬にして頭が真っ白になる。
「真琴、なんか顔色悪ぃけど大丈夫か?」
「大丈夫だ」
 目を伏せる俺を心配そうに光秀が覗き込んでくる。さり気なく腰を支えてくれることに気恥ずかしさを覚えながら、三成に続きを促した。
「本来なら純血ではない徳川に噛まれても吸血鬼になることは無い、と過去の症例からも言われています」
「おう」
「それが何故か知っていますか?」
 いや。と短く返事をする光秀を見ながら、三成が続けて口を開く。
「血液を分け与えることによって吸血鬼化しますが、純血と混血では血の濃度が劇的に違うからです。混血が純血と同じことを成し得ようとするなら、何十回、何百回とその行為を行わなければなりません」
「そうなのか」
「徳川が精を貰っている現状から考えれば、血液と体液は同義と言えます。何らかの形で徳川の体液が明紫波の体内に入ったのであれば、少なからずその影響ではないでしょうか?」
「……体液」
 ふと思い出し、じわじわと顔に熱が集まる。
「あー……あれか? 俺がオメェの飲んーー」
「ちょ、ッ、あれだろ、光秀に噛まれた時、舐められたから……あの時血が出ていたのかもしれない」
 短い咳払いのあと、三成がこめかみを押さえ嘆息する。言わなくて良いことまで口走ってしまったことに気付き、絶望を感じるが、後の祭りだ。
「……いずれにせよ、心当たりはあるようですね。ただ、人為的でない力が働いていることは確かなので、何かあったらすぐに言ってください」
「わかった」
「おう」
「とりあえずこちらが抑制剤です。明紫波は血の気が多そうなので足りるか心配ですが」
「あぁ? なんだそりゃ」
「大丈夫だ。手に負えなくなったら簀巻きにするから」
「あれ本気だったのかよ」
「勿論だ」
「ふふっ」
 光秀といつものように軽口を叩きあっていると、小さな笑い声が聞こえてきた。
「あなた方の雰囲気も随分変わりましたね。初めて二人でここを訪れた頃と、言っていることはそんなに代わり映えしていないですが、纏う空気が全く違っているように思えます」
「まー愛し合っちゃってるから」
「光秀っ!」
 慌てていらないことを言う口を塞ごうとする、その行動さえも笑われてしまう始末。
「そう自分ばかりを責めて、悲観的にならないでください。世の中にはまだ分からないことも数多くあります。それに、貴方はもう一人では無いのですから」
「……三成」
 眼鏡をカシャカシャと触りながら三成が告げてくる。隣で光秀がふと笑ったような気がした。
「それに当の明紫波をご覧なさい。あっけらかんとしすぎて、逆に心配になってきますよ」
「そうは言うけどよ……なっちまったもんはしょうがねぇだろ」
「そういう考え方は嫌いではありませんが、明紫波の場合、緊張感が無さすぎです」
「そうか?」
 ケラケラと笑う姿を見ていると、ほんの少しだけ肩の力が抜けた気がした。

 車の中で言葉少なに俯いていた俺の頭を、光秀の大きな手がぐりぐりと撫でる。気が付けばそこは光秀の家のガレージで、長い間考え事をしていたことに申し訳なさを感じた。
「まぁた何か考え事?」
「光秀のあれは、やっぱり俺が原因じゃないかって」
「あぁ……可能性はゼロじゃないけどよ、そうとも言いきれねぇ」
「そうかもしれないが、体液の事だってリスクになり得るなら、しっかり対策しておくべきだった。俺の落ち度だ」
「うーん……まぁ、そういうクソ真面目なこと考えちまう真琴クン好きだぞ」
「っ、真面目な話をしてるんだ!」
 笑い半分で返され、カッとなって顔を上げると視界いっぱいに光秀の胸元が広がった。仄かに香る煙草の匂いに、無意識にほぅと溜息をついてしまう。
「おう。そうやって真面目に、ちゃぁんと俺のこと考えてくれてんのが嬉しいわけ」
「あ、たり前だろ……」
 好きだから。大切だから。胸元に顔を埋めると、温かな手が髪をゆっくりと混ぜる。
「そういやさ、アレのときって『血ィ吸いてぇ〜』ってなるのか?」
「え? ……俺の場合は血を吸いたくなるより、喉が渇く感覚に近い」
「ふーん」
「光秀は違うのか?」
「喉が渇くには渇くんだけどよ、それよりも体が熱くなって、疼くっつーか……真琴食いてぇなって」
「く、食うって……」
「性的に」
「……」
「あっ、ちょ……離れようとすんなよ。オッサン傷付くわ〜」
「いや、身の危険を感じたから」
 無言で厚い胸板を押し返そうとすると、それよりも強い力でぎゅうぎゅうと抱き締められた。やがて、その手はリズミカルに背中を優しく叩いてくる。
「こういうのも含めて、オメェとは違うし、吸血鬼って決まったわけじゃねぇ。それにな、真琴は怒るかもしれねぇけど、石黒の話聞いて一番に感じたことは喜びだった」
「え……」
「これで真琴を独りにすることもねぇし、ずっと側に居てやれるんじゃないかって」
「っ!」
 光秀の言葉にツキと心臓が痛みを訴えてくる。大切な人をこんな風にしてしまったことへの、申し訳なさと不甲斐なさに交じり、心を満たしたのは光秀と同じ感情。
 光秀を好きになり、共に過ごす時間が前よりずっと増えたことで、より独りになることに恐怖を抱くようになった。―これで光秀も一緒に、ずっと。歓喜の情で満たされた胸の内を思い返すたびに、己の疚しさが浮き彫りになるようで。
「だからあんま重く考えんな? な?」
「すまない……光秀をこんな風にしてしまったのは俺なのに、それなのに、俺も同じように、ッ、」
 言葉に詰まり、小さく鼻をすする俺の顔を、胸元に押し付けられた。
「ん……真琴がそう思ってくれんの、俺は嬉しいぜ。滅多にそーいうの言わねぇじゃん? 俺としてはもう少しワガママになっても良いと思うがな」
「こんな自分本位な考えかた最低じゃないか」
「俺もそう思ってるんだから、自分本位でもないだろ」
「でも、っ……」
「そうは見えねぇと思うかもしんねぇけど、これでも不安なの。でも真琴が居るから大丈夫だって思えるし、これから先、真琴とずーっといちゃいちゃ出来るなら幸せじゃねぇ? 俺はそっちの方が楽しみだぜ」
「本当にお前って……」
 『馬鹿じゃないか』という言葉を呑んだ。光秀はいつだってそう。俺の不安をかき消して、心を軽くしてくれる。光秀が言うように、俺も光秀が居てくれたら、この先大丈夫だと思える。俺を闇から連れ出してくれる。
 シャツを握りしめ、嗚咽を咬み殺す俺の髪を梳きながら、しばらくの間光秀はずっと抱きしめていてくれた。

 暗闇の中、琥珀色の瞳が煌めく。
 啜り泣く小さな肩を抱きしめるその表情は、独占欲がにじみ出ている。指通りの良い黒髪を梳き、震える背中を撫でる手は優しさに溢れているのに、妖しく光る瞳だけは獣のようにぎらついていた。
 やがて静かに瞼を閉じたのち、それが見間違いでもあるかのように、淡い深みのある青へと変貌していた。

 あれから1ヶ月、光秀はこれといって状態が変わることなく過ごしていた。相変わらず俺の『メシ』もとい、恋人としての情交はあったが。
 もはや恒例となってしまった、退勤後の光秀の部屋への直行コース。「引越ししたほうが良いんじゃない?」と、同僚からの冷やかしに「考えてみっかな」と真面目に相槌をうつ、光秀を引きずりながら今日も帰路についた。
 までは良かったものの、帰宅してしばらくしてから、その異変は起こった。息を荒らげて、光秀がその場に蹲ったのだ。
「光秀大丈夫か?」
 膝をつく光秀の傍に駆け寄る。色を変える瞳と、苦しげに息を吐き出す口からは、鋭い犬歯が見える。
(あの時と同じだ)
「ッ、う……大丈夫だ」
「抑制剤は?」
「カバンの中」
「取ってくるから少し待ってろ」
 光秀の鞄を広げ、その中から抑制剤を取り出す。
「ほら」
「サンキュ……あと真琴……オメェ、今日はもう帰れ」
「は? そんなこと出来るわけないだろ! こんな状態のお前、放っておけない」
「こんな状態だから言ってんだ」
「意味がわからない」
「だぁから! 前言ったじゃねぇか……オメェが食いたいって」
「は……」
「この前はだいぶ出してたから良かったけどよ、今日は抑えきかねぇぞ」
 欲を隠そうともしない表情で見つめてくる。それを受け、背筋がぶるりと震えた。それは恐怖ではなく、歓喜に満ちたもので。
 自分の意思に従い、俺もまた光秀に向き合う。
「いい」
「あ?」
「いい、から……光秀の好きにしろ」
「ッ、だ、から!」
「光秀の、好きにされたいんだ」
 数え切れないぐらいの愛情を貰った。それからたくさんの恩も。だから、今度は俺が光秀にしてあげられること。
(多くはないのかもしれない。だけど)
 歯を食いしばり、苦しみ震える光秀の顔を持ち上げ、そっと唇に触れた。
「……光秀」
 手を広げて包み込むように、光秀の体を抱きしめる。一瞬小さく肩が跳ねたが、さしたる抵抗も無くその身を委ねてきた。
「すまねぇ」
「なんで謝るんだ」
「っ……真琴、真琴」
 覆いかぶさる光秀の影。僅かな光源を背に浮かべる雄くさい笑みに、全身が甘い疼きを産み、光秀を受け入れ慣れた後孔がきゅんと反応を示す。
 千切らんばかりの勢いで、身に纏っていたものを奪われ、ころりと体を返される。腰を掴まれ尻だけを、高く持ち上げられた。あまりの性急さに声を上げようとするも、それは光秀の行動によってあえなく失敗に終わった。
(舌が……はいっ、て)
「ひうっ! あっ、ぁ!」
(な、なにこれ……いつもと、違う)
 容赦無く捩じ込まれる舌は表面がざらりとしていて、奥まで無遠慮に入り込んでくる。唾液を流し込まれ、尻たぶを広げていた指が縁をなぞり、舌が入っているそこへ差し込まれた。しこりを指先で擽られ、その刺激で腰が落ちそうになる。しかし追い打ちをかけるように中を暴く手は止まらない。
「あぁぁ! ぁ!」
(イきそ、も、だめ……)
 達する。そう思った刹那、刺激を与え続けていたそれらが、ぴたと動きを止めた。
「……光秀?」
 もどかしさから、ゆらゆらと揺れる腰。あと少し、だからはやく。そんな浅ましい思いを、欲を満たして欲しくて振り向いた。

 ひゅっと喉が鳴る。

 振り向いた先に見たものは、確かに光秀で。しかしながらそれは『いつも』の光秀の姿ではない。欲を露わにした眼差しは、行為の時によく見かけるそれ。興奮気味につり上がった唇の隙間から見えるのは鋭い犬歯で。ここまでは今までに見かけたことのあるものだが……。
 光秀の頭上には獣の耳。おまけに同じ色の尻尾までもが揺れているのが見える。
「え、な、なんだこれ?」
 半獣のような姿に困惑を隠せないでいると、ふと視線がある一点で止まった。
 そこそこ立派なものを持っている光秀だが、目にした先には普段の比では無いぐらいに肥大したモノ。
「ヒッ……」
「逃げんなよ」
「や、だって逃げるだろ……なんだそのデカさは」
(発作に影響されて、とか? いや、でもまさか)
「問題ねぇよ」
「いやいや……問題大アリだろ、馬鹿!」
 無意識にずり上がる俺を逃すまいと、唇を舌でペロリと舐めながら、光秀が四つん這いで迫ってくる。さながら本物の獣のようで、ひと月前とはまた違った、冷水を浴びたような感じに襲われた。
 結局光秀に力で勝てるわけもなく、いとも簡単に押さえつけられてしまう。背後から伸し掛られ、後孔には光秀のものであろう、熱いものが擦り付けられた。
「や……み、みつひで」
(あ、あんなの入れられたら)
 確実に無事ではいられないだろう。カタカタと震え、無意識に逃げをうつ腰を掴まれた。
「ひっ!」
 腰を使われ、ぬるりと火傷しそうな質量が入り込んでくる。
「ぁ……っ、ん、ひうっ!」
「はっ……く」
 挿入されると思っていた熱は、太ももの間を往復する。所謂スマタとやらで。
「ひぁ、あぁっ!」
「こらっ、緩めんな」
 驚いて思わずへたりそうになるのを、ぺちんと尻を叩かれ叱責された。
「な、な……なんで、これ?」
「あ? 問題ねぇって言っただろ」
「そういう事じゃなくて……っ、はぁっ、あっ」
 入れないのか問おうとしたところで、尻を揉みしだかれた。形と弾力を確かめるように、ぐにぐにと力を込められる。たったそれだけで息が上がってしまうというのに、指がつぷりと入ってきた。同時に肉傘で、敏感になった裏筋を擦られてしまえば、もう。
「ぁ、はぁぁ!」
「くっ、は……」
 堪える光秀の声は聞こえるが、確実に追い上げられているのは俺ばかり。辛そうにしていたのは光秀のほうなのに、怯える俺に遠慮したとでもいうのだろうか。
 居た堪れなさに視線を落とすと、淡い色をした俺自身と、その何倍もあるグロテスクなものが、にちゃにちゃと音をたてながら擦れあっていた。あまりに卑猥な光景に、喉をならす。そこをじっと見つめている俺に気付いたのだろう、光秀が興奮を滲ませながら、笑うのが気配でわかった。
「真琴クンのスケベ」
「なっ……」
「ここ、きゅんきゅんさせてる」
「っ、ちが……あ、はぁっ!」
 しこりをぐりぐりと刺激され、四肢が支えきれなくなる。しかしそれは自ら敏感になったものを、長大な光秀自身に擦り付けることになるわけで。
「ふあっ、あぁ、うっ! あ、ぁ」
「はっ……かーわいーの」
 体を捩らせ喘ぐ俺に、光秀がうっそりと笑う。
「……ずるい」
「あ?」
「光秀はずるい」
 追い立てられる体を叱咤し、大人と子供ほど見目の差異がある、互いの陰茎に手を添えた。片手では到底足りず、両手でゆるりと擦りあげれば、直接的な快楽が脳内に叩き込まれる。
「ふぁ、あ、あぁ……ぅぁ、ん、ふ」
「っ、く……真琴?」
「光秀も、ッ、ちゃんと気持ちいいのか?」
「は……? そりゃ、まぁ」
「嘘だ」
「嘘だって……コレが何よりの証拠だろ」
「ひ、あっ!」
「じゃなきゃココまでならねぇよ」
 俺の手に重ねるように、光秀が己の手を被せてくる。そのまま、互いの先走りを混ぜるように、音をたてながら手を動かしてくる。血管が浮き出て、ガチガチになった光秀自身。本人が言うのだから確かにそうなのだろう。
(……でも)
「好きにしろって言ったのに……っ、ふ……これじゃ、俺ばっかり」
「オメェだけじゃねぇだろ」
「っ、の意地悪! 俺がどうして欲しいかも、光秀が本当はどうしたいかも……わかってるくせに……なんで」
「そこは真琴だって分かってんだろ。お前を壊しちまう」
 沈んだ光秀の声。本当にこの男は。俺の為にこうしてくれていることも、俺の行動が光秀を困らせていることもわかっている。でも、それ以上に自分が苦しいときまで我慢はして欲しくなかった。
 ぎゅうっと、光秀を握る手に力を込めた。もちろん俺のモノは避けるようにして。
「い、っ!!」
 痛みにより光秀の肩が跳ね上がり、添えられていた手が解放される。支えを失った俺の体は、崩れるように寝具へ沈む。中途半端に高められた火照る体を動かし、未だ痛みに眉をしかめる光秀を見上げた。
 限界まで張り詰めた状態に、申し訳ないことをしてしまったと思うが、ここは譲れなかったから。
「光秀はほんっと、馬鹿!」
「はぁ!?」
 痛みと俺の悪態に、若干ドスの効いた声が降ってくる。
「お前言ったよな、俺に吸血されたとき『これぐらいなんともない』って。俺も同じなのに……」
「や、でもオメェ……ビビってたじゃねぇか」
「こんなデカいもの見たら、誰だって驚くだろ」
「けどよ―」
 再び口を開きかける光秀の腕を引っ張った。
「なっ、真琴、あぶねぇだろ」
「ごちゃごちゃうるさい! 好きにしろって言ったのは俺だ……いつも好き放題やる癖に!」
「うるさいってなぁ……その『いつも』と状況が違うから、俺ァ言ってんだよ」
「それも分かってる。けど……俺ばっかりは嫌なんだ。光秀も、俺で気持ちよくな、っ、んぅ」
 言葉の続きを阻むように、口付けで塞がれる。
「ん……っ、くそ……それも分かってんだよ」
「だったら、入れろ、っ、ふぁ!」
「ッ、だぁーから! これ以上煽るなっての! 抱き潰すぞ」
(いつも、言うだけで本当にしてこないくせに)
「痛かったり、無理だったらちゃんと言えよ」
 そう言いながら、挿入した指を、中で拡げるように動かされる。
 言動は乱暴だが、俺のことを配慮してくれるところが好き。その毛皮を一度剥いでみたいと思いつつ、与えられる甘い刺激と快楽に身を委ねた。

 みちみちとこじ開けるように、俺の表情を窺いながら僅かずつ光秀が入り込んでくる。
「っ、んぐ……ぁ、ぅ……」
 痛みこそないものの、凄まじい圧迫感に呻きにも似た声が押し出される。光秀に抱かれ慣れた体ではあるが、やはり受け入れるのは息苦しさを伴う。
 光秀がぐぅと堪えたように低い息を吐く。いつもより肥大したそこ。光秀も苦しいはず。そんなことを考えていると、ふと前に触れられた。
「んぁ……やぁ、ッ、ぅ!」
「オラ、こっちに集中してな」
「ふっ、あ!」
 萎えたままの前を擦られ、直に感じる刺激に腰が揺れてしまう。俺の意識がそちらに逸れたことで、光秀が再び腰を進めてくる。奥まった場所にいつもの熱を感じ、ほぅと息を吐く。
「は、いった?」
「あー……まぁ、入ってはいるが。辛くねぇか?」
「ん……圧迫感凄いけど」
 大丈夫と、へらりと笑って見せれば、光秀の端正な眉が歪められる。
「わり……ちょっと加減出来ねぇ」
「ん、ふ、大丈夫だから……それに、ッ、今更だろ?」
「あ*……そうなんだが、本気で嫌だったらちゃんと言えよ?」
 首を傾げる俺に、光秀は何でもないと告げ、緩やかに動き始めた。
 そして俺はその言葉の意味を、身を以て理解することになった。
「んあっ、ぁ! ひっ、あぁ、ッ、ぁ、ふっ、ア!」
 俺を気遣ってか、いつもよりゆっくりなペースで抜き差しされる。けれど肥大した陰茎により、ただ抽挿するだけでしこりを押しつぶされ、幾度となく高みへと追い詰められていた。
「ぁ、やらぁ……また、くる……っ!」
「まぁたイくのかよ、ッ」
「んっ、ぁ! だって、こんな、こんっ、な……あぁっ、ヒ、ァ、っ〜〜〜!」
 幾度となく吐き出した欲でシーツを汚すだけで足りず、上りつめる体は小刻みに痙攣し、出すものも出せないまま絶頂を迎えた。
「っ、と……さすがにもう出ねぇか」
「……み、つひれ……も、むり、っ……」
「おう、俺もそろそろ」
 は、と荒い息を吐きながら告げられた言葉に、やっと開放されると、そう思った。
 片方の太ももを持ち上げられ、光秀の胸元に添うように抱えられた。奥まで腰を進めた光秀が、一度動きを止める。いつも光秀が届く限界の場所。そこをコツコツとノックされる。
「もうちょい奥、入れてもいいか?」
「お、く……?」
 疑問形ではあるものの、既にぐぅっと、時折奥をこじ開けようとする感覚に息を呑む。
「ここ、入れたい」
「っ、あぁっ、ぐ、ぅ!」
「受け入れてくれんだろ? な、真琴」
 低く囁く声。同時に耳たぶを嬲られ、腰がジンと痺れた。
 光秀を受け入れているところが戦慄き、奥が疼いてくる。自ら迎え入れるかのように、口を開けた奥の奥が光秀によって暴かれる。
「ぁ、ァ……は、ッ……」
「っ、は……やっべぇ、吸い付いてくる」
「……ふっ、ぅ、うぅ」
 声を出そうにも、紡がれるものは喘ぎを伴った吐息だけで。
 足を抱えられたことで、光秀の腰がより密着する。小刻みに揺すぶられ、奥の入口がカリによって捲られる感覚。がくがくと全身が震え、体が大きく仰け反った。
「ぁ〜〜ッ、く!!」
「ほんと、かっわいーのな……俺の真琴」
 軽い絶頂を迎えてもなお、緩まることのない攻め手に、自分を見失いそうな恐怖さえ覚える。溢れる涙もそこそこに、もう無理だと、そう告げようと視線を光秀に向けた。
 その先には、雄の色気を纏い、恍惚とした顔で汗を滴らせる獣の姿。
(……ぁ)
 ぞくんと、腹の底が熱を孕んだ気がした。
 身体の全てを暴かれ、征服されている感じ。この雄の獣には逆らえないと、本能的に悟った。もとより逆らう気も無いのだが。―そうでなければ、こんなはしたない姿見せられるはずもない。
「真琴……出すぞ」
「ひっ、ぃ、あぁぁっ!?」
 瞬間、陰茎の根元が膨れ上がる。それに驚く暇もなく、奥へと迸る熱い飛沫を受け止めることとなった。

 あれからどれぐらい経っただろう。光秀の吐精は止まることなく、続いている。
「……は、ンだこれ」
「ヒ、ぅ……み、つ、ぅ……ァ、あぁ、も、はいん、らぃ……」
 膨れ上がった根元により、抜くこともままならない。ふといつか書物で読んだ、イヌ科の亀頭球を思い出す。雄の射精が終わらないことには、抜けないのだと。
 そのことに絶望を感じていると、光秀が再び腰を揺すり出す。
「ふ、ぁあぁっ……ぃ、あぁっ! ひ、ぁっ」
「わり、まこと……もうちょいだから」
「んふ、ぅ……ぁ、ァ……」
 ぷちゅぷちゅと、こじ開けられた先に出された、多量の体液をかき混ぜられる。抽挿できないかわりに、ぐるりと腰を回されたことに逃げうつも、陰茎の瘤のおかげで無意味に終わる。
(……もう、おかしくなる)
 もう数日分の精を貰っているというのに、光秀の欲が治まる様子はない。荒い息と共に、つぅと口の端から飲み込みきれない唾液が伝う。揺さぶられ、意識を飛ばしかけては、過ぎた快楽によって引き戻される。永遠に終わりなどないのではないかというほどに。
 それでも耳元で甘い吐息交じりに『真琴』と呼ばれることで、はしたなく体を震わせてしまうのだから、どうしようもない。
 このまま、光秀と、ずっと、ずっと二人だけの世界で、ずっと、離れずに、いられたら、俺は……。

 気が遠くなるほどの年月を重ねた満月の夜。ひっそりとした山の中に佇む、美しい黒髪と紫水晶を模した見事な色合いの瞳の眉目秀麗な青年。その傍ら、寄り添うように大きな狼が在った。黒い毛を愛おしそうに撫で「光秀」と名を呼ぶ。それに応えるように、狼は目を細め青年に擦り寄るのだった。




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