いざ、という時こそ大人にはなれない。

    私は今、頭を悩ませている。非常に困っている。理由は唯一つ。
    高校生の勝手が分からない。正確に言うと、勝手を忘れてしまった。

    昇降口に貼りだされていた新入生のクラス表の中から自分の名前を見つける、というミッションは危な気もなくクリアできた。そして教室までも難なく到着致した。

    これは、ノープランで教室の戸を引いた私の痛恨のミスである。
    教室内では何やら既にグループに分かれて少年少女たちが談笑を楽しんでいる。

    それに関しては何ら問題はない。むしろ、アオハル☆って感じで何とも微笑ましい。




    「どこの席に着けば良いの……?」




    教室内を見渡す限り、少年少女たちが自由に自分の席に着席している。という感じは見受けられない。

    ならば規則性があるのだろうが、どういった規則性で席が振り分けられているのか皆目見当が付かない。といった具合である。




    「ちょっと。そこ、邪魔なんだけど」




    背後からの言葉に、教室の入り口でずっと突っ立っていたことを思い出し、慌てて「すみません」と端に避けた。
    その人の顔を見ようとしたが、想像の倍は顔を見上げることになる。


    (背、たか……ってツッキーやないかーい)


    優しい金髪に黒ぶち眼鏡、ついでに無愛想な顔。何よりこの背の高さ。完全に一致しているではないか。

    ツッキー生で見ると迫力あるなあ。現実でもちゃんとイケメンだな、おい。なんてツッキーに見惚れながら考えていると、物凄い嫌な顔をされた。


    「ツッキー知り合い?」
    「全然」


    あ、山口もいたのか。本当に2人で1つなんだね。うんうん、仲が良いのは良きことかな。

    ただね、「全然」っていう言葉遣いは頂けない。

    そういう嫌味っぽい感じとか毒舌な感じとか漫画なら余裕で許せるし、むしろいいキャラしてんなとか思っちゃうくらいだけど。

    現実でこんな無愛想だと唯の感じ悪いヤツだけど月島くん高校生活大丈夫なの?
    まあ私はもう齢26ですし、大人ですから。こんなことで腹が立ったりしませんよ。


    「いや、背おっきいなあ。と思って、見惚れちゃってたごめんね」


    それにツッキーがツンデレおぶツンデレなのは周知の事実。
    まあ、そもそも初対面の人にジロジロ見られると誰だって良い気しないしね。

    大人の余裕で返したるぜ☆ごめんね、ツッキー!!




    「あぁ、確かに。君、小さいもんね」




    そして月島蛍(15)はフッと人を小馬鹿にしたように鼻で笑ったのでした――。

    明智はるか(26)、東京在住(今は宮城県にいるみたいです)、恋人は居ません。残業、残業の毎日であります。俗に云われます社畜で御座います。

    それでも良いんです。趣味の漫画やアニメさえあれば、それで良いんです。孤独でも強く生きていくって決めたんです。今年でもう27歳になります。

    さっ、笑顔☆笑顔☆
    笑う門には福来るってね! きゃぴ☆




    「言葉遣いに気を付けないと、友達失くすわよ?」




    ツッキーてば、珍しく顔を引き攣らせてどうしたの?
    あれれ、山口顔色悪いけど大丈夫? そうだ! 保健室連れてってあげようか? 山口だけ特別だぞ! なんちゃって☆

    別に私、怒ってなんかいないよ。身長は確かに小さい方だし、特段気にしてなんかないしね。

    まあ強いて言うなら、ツッキーの人を小馬鹿にした態度にイラッとしたかも♡って感じだよね!


    「ごごごごごごごめんね!! ツッキーに悪気があった訳じゃないから!!!」
    「何で、お前が謝ってんの山口」
    「ごめん、ツッキー!!!」


    と、まあ冗談はさておき(キャラぶれ激しいとか言わないの♡)。初対面で何の謂れもなく皮肉をかまされるということは、イジりやすそう的なニュアンスで良いのだろうか。

    夢とか何だとか、私はこの際もう置いておこうと思う。それにしても、こんなことで年下を苛めちゃうなんてストレス溜まってるのかな。

    まあ、今朝からのパニック現象続きで異様なストレス負荷があるのは確実だけれど。


    「あはは、冗談だよ。入口塞いじゃってごめんね」
    「そ、そっか。良かった、怒らしちゃったのかと思ったよ……」
    「ちょっと小馬鹿にされたから、大人げなく仕返ししちゃった」


    素直に謝っても、月島は無言でそっぽを向いて立ち去ってしまった。
    山口もそれに倣おうと「あ。つ、ツッキーがごめんね」と一言だけ残して月島の後を追いかけた。


    そして私は、高校時代特有の思春期の匂いを感じながら、青春だな。と独り言ちた。











    ▼▼▼










    自分の席で誰とも喋ることもなく、私はスマホとにらめっこしていた。
    自室の机の上にあったスマホは、恐らく高校生だった時のスマホだろうと推測できる。

    スマホカバーもパスコードも全て私が高校生だった時のもので、それら全てに時代と懐かしさを感じる。

    この状況を打破できる何かしらの情報はないかと自分のスマホを調べているのだ。今の私の状況は、夢にしてはリアルすぎる。

    そして夢と言うからには覚めなきゃおかしな話だ。しかし、覚める兆しが全く以て無い。露程も無い。皆無だ。

    そりゃあ、それなりに冷静でいたつもりだけれど、これからまた高校生を一からやる。だなんて土台無理な話である。つまり、私は少々焦っているのだ。




    「どうしたもんかなあ」




    スマホ内に入っていた、緑色のアイコンのアプリを開いて交友関係をチェックしようとしたが、この世界の私は友達がいない設定なのか身内以外の連絡先がなかった。

    ついでに写真フォルダも調べたけれど、ホラーか何かなのかな?と疑うほどに何にも入っていなかった。
    写真が、1枚も、ナイ。なにそれ怖いむり。

    どうやらこの世界の私は孤独少女という設定らしい。


    (切ない、切なすぎる……)


    周りの入学式で浮かれているような空気や少年少女たちの瑞々しさをどこか遠い世界のように感じる。

    言葉では形容しがたい、何か。自分がこの世界の異端であるという、謂わば直感。

    ふと、昨日の夜のことを思い返す。私はちゃんと家に帰ったんだろうか。
    退社した後に駅へ向かって走っているところまでは思い出せるが、それ以降が思い出せない。

    思い出そうとすると、頭痛がするのは何故なのだろう。心なしか身体が怠いような気もする。




    (ま、深く考えすぎてもしょうがないか)




    できれば臨機応変に対応できるようになったのは、大人になった証と思いたい。