#sozai1895#
-黛灰に関する所長の記録-
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1999年11月7日

新しい子が施設にやってきた。黛灰君というらしい。

事故でご両親を亡くし、この施設に引き取られることになった。


──とても物静かな子だ。2歳と思えないほど、悟った表情をしている。

子どもは存外鋭い……もう両親に会えないことに気づいているのだろう。


それでも彼はただ寡黙に、現実を受け入れているようだった。




1999年11月27日

黛君が引き取られてからもう3週間ほど経つが、未だにあまり馴染めていない。

職員にもサポートやヒアリングをするよう指示はしているが、どうもあまり会話をしたがらないらしい。

気がつけば、ゲームや電子機器に触れていることが多いという。


事故のトラウマか、それとも育った環境によるものなのか……なんとかしてあげられる方法はないものだろうか。


1999年12月23日


職業指導に来ていた野老山(トコロヤマ)教授から「黛君と話してみてもいいか」と提案があった。

2歳の子に職業指導士が接触することなどあまりないのだが、
学習心理や行動心理を専門とする彼の力が必要だと感じ、彼に任せてみることにした。


──早速機会を設けてみたが、野老山教授が気さくに「ど〜も〜」なんて話しかけてみても、無視をされていた。
……本当に任せて大丈夫なのだろうか。


1999年12月25日

野老山教授から黛君にパソコンをプレゼントしたと聞いた。
そんな高価なものは支援として受け取れないと伝えたのだが、

「今後パソコン産業は広く普及する。インターネット冷蔵庫だって今はバカにはされているが、
いつかその時代が来るぞ。灰君にはその知識に対する欲求がある。だからこそ彼に賭けてみたいんだ」
と、いうことらしい。

そこまで言われればこちらも食い下がることはできない。
パソコンの取り扱いに注意するよう、職員に伝えておくことにした。






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2007年9月14日

灰君が小学校へ行かなくなった。学校の雰囲気との不和が原因らしい。
施設(ここ)が大人に囲まれた環境であるために、同年代とのコミュニケーションが上手く取れないのだろう。

稀なケースではない。

勉強に遅れがあるわけではないが、施設の最終的な目的は
自立だ。
いずれ社会に出ることを考えると、通学を促してあげた方が彼のためではないだろうか。




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2011年7月30日

野老山教授に相談する機会があったため、変わらず不登校を続けている灰君の様子を聞くことにした。
教授も、コミュニケーション能力には問題が無く、キチンと外側の世界や他人への関心もある(むしろ強い方だ)と評価しているらしい。
私たちの対応が間違っていないと言われたようで、正直ホッとしたような気分だ。

また、彼のプログラミング技術は目を見張るものがあり、
退所後の就職先としてエンジニアの道を進むのはどうかと話もしてくれたようだ。
教授には助けられてばかりだ。



2013年1月2日

新年の挨拶に、以前から施設の支援をしてもらっている加賀美社長がお越しになった。
いずれ社長業を息子さんに継がせるつもりのようで、その引き継ぎも兼ねての来所らしい。
一通りの説明が終わった後、ハヤト君に好きに見学するよう加賀美社長は伝えた。

──加賀美社長としばらく話した後、ふと談話室を見ると灰君とハヤト君が二人でゲームを遊んでいた。
灰君は相変わらず控えめであまり話す方ではないが、
こうして人と関わっているのを見て、改めて成長を実感した。



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2014年6月11日

灰君から高校卒業後、「施設の支援をするために残りたい」と申し出があった。
子どもたちの面倒と、資金援助をする代わりに残らせてほしいと。

……彼から何かをしたいという言葉を聞くのは初めてかも知れない。
下の子たちの面倒はよく見てくれているし、仕事に関しても
野老山教授の紹介で取引先も決まっているらしく、願ってもない申し出ではあるのだが──


──私は彼を少し、心配している。

施設に愛着を持ってもらえることは嬉しいが、彼には少し依存的な面があるのではないだろうか。
周囲の人間への関心が人一倍強く、そのため人が求めていることにいち早く気づくことができる……それが彼の魅力だ。
だが逆に言えば「自己が薄く他人に形成される部分が大きい」とも言える。


「既に私室がPCルームになっているから拠点を移したくない」とのことらしいが、
それは理由の一つで、環境の変化や失うことを恐れているのではないだろうか。


……単なる杞憂で済めばいいのだが。
しかし、施設の人手や支援が足りないことも事実。彼の申し出は受けることにするつもりだ。


(ご本人様より引用)






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