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“Two adults”
演目、時間、いろいろと他の指定はあるが、この数字と人間の組み合わせはここに座ると一日何十回と聞く。反射で料金に、申し訳程度のプリーズを添える。お国柄なのか、やり取りはあらゆる無駄を省かれて簡潔なので、慣れてしまうと変に頭を回転させなくてよくなる。楽なバイトだった。
時たま観光客で日本人が来ると、いきなり人数じゃなくて、空席はあるか、といったふうにまるく聞いてくるので、発音がよかろうと悪かろうと、ワードチョイスで同郷は分かる。そういったわけで私は、安室さんと初めてカウンター越しにあったときから、流暢な英語や日本人離れした面差しに関係なく、彼が同郷だと分かった。
「本日分のお席ですか?」
「…驚いた。よく日本人だとわかりましたね。発音ですか?」
「いえ、日本の方は言い回しが丁寧だから。発音はすごくきれいです」
今夜一人分のスタンダードシートを買ったのちも、後ろに並ぶ人間があまりいなかったので彼は開演ちかくまで話していった。先週から仕事でしばらくNYに滞在することになったんだそうだ。日本人離れしたくっきりした顔立ちからはあまり結びつかなかったけど、生まれ育った日本の味がこの上なくお好きだそうで、滞在二週間目にしてもうジャンキーな味がつらいとこぼしていた。年齢は25歳。名前は安室透。生まれ育ちは東京。
「香織さんはこっちで就職するんですか?」
「いえ、卒業したら日本に戻ります。4年いたことを売りにするだけです」
「こちらに残ることは考えなかった?」
「まったく。アメリカにも日本にないいいところはたくさんあるけど、結局祖国がいちばんって4年かけて学びにきたようなもんですよ」
いちいち回りくどい言い方もやりすぎなほどの気遣いも、一時はいらないと思ったけど価値観は一周回って結局それが美徳に戻った。同感だ、と安室さんは笑っていた。初めて会ったときは、そんな感じ。