距離感バグ


Attention!
決して近親相姦ではなくこいつらにそんな気持ちは互いに1欠片たりともございませんが、距離感がバグりすぎた姉弟に嫌悪感のある方はこの場で閉じてくださいませ。
マイとお姉です

* ケンチン視点

 飴玉を口に放り込んだとたん、マイキーが顔を思いっきりゆがめた。そしてすぐに「万里子」と姉貴のほうを向く。こっちはその意図が分からなかったけど、万里子さんは顔をみただけで分かったらしく、「えぇえ…」と嫌そうな顔をした。

 「何味よ…」
 「いちごだって」
 「マイちゃん的食レポ」
 「プラスチック系」
 「絶対イヤ!…やっ」

 身体を引いた彼女を、マイキーは逃がさなかった。肩をとらえ、その場に押し倒してがっつり深めのキスをする。「「「えっっ」」」衝撃映像に外野の声がかぶったときにはもう、二人の身体は離れていて、万里子さんの口の中に飴玉が移っていた。…。

 「はーマズかった。なんか飲も」
 「なにこれめっちゃマズい!!プラスチック味!!」
 「だから言ってんじゃん。出せば〜?」
 「なんでわざわざわたしによこすの!?」
 「オレだけこんな思いすんのヤだもん」
 「最悪。自己中」
 「かわいいだろ」
 「かわいくない!!」

 …。

 「……あのな、女兄弟がいるからオマエに聞くけど」
 「違う。アレは違う、ああはならねぇ、絶対に」
 「……だよな」

 素早い三ツ谷からの全否定を受けて、改めてオレらは言い争う二人を、もうテレビでも見るような、マジックミラーとかを何枚も隔てたような気持ちで眺めた。「かわいいだろ!」「あーもううるさいこれ返す!!」「ヤだ!!」再上映まであるのか。

 「てかさ、妹ともああなの?」
 「え。……あー…???」

 三ツ谷にそう聞かれて、初めて気付いた。あまりにここの距離感がバグっているせいで、エマとマイキーも同じ関係だったのをすっかり忘れていた。あのふたりが揃った画面を頭に思い浮かべる。よくケンカはしてるけど仲はいいし、二人で遊びに行ってることもある、けど、キスとなると…。全く想像つかない。

 「…わかんねぇ。けど、なんとなくエマは悲鳴上げて嫌がりそうな気ィする」
 「…まあフツーそうだよな………え?なんで?」
 「オレが知るか聞くな」

 今度はくすぐりあいで付き合いたてかっつーほどきゃっきゃとじゃれ合っている二人は、何にも知らなきゃただ幸せそうで微笑ましいけど、こっちとしてはいつか一線超えるんじゃねえかと、タブーなものを見ている気分で普通に直視はできない。「あははっやだ、やめて万次郎、ッあ」笑い声の隙間に漏れた万里子さんの甘い声に、くすぐっていたマイキーもオレも他も、全員の時が一瞬止まった。あ、ヤな予感。見てません聞いてませんのていを作ろうと顔をそらすも、マイキーのぎらついた視線が、聞いたヤツコロス、とびりびりこっちを威圧してくる。オマエのせいだろが。

 「帰ろっか万里子」
 「…へ?なに、急に」
 「んーなんでも。オレちょっとコイツらに話あっから、ちょっと向こうで待ってて。1分」
 「はぁ…?もうちょっとゆっくりしてていいよ?一人で帰るし」
 「待ってろっつったら待ってろ」

 圧がすげぇ。そんでオレらは1分で殺されるやつ。腑に落ちていなさそうな万里子さんを向こうに追いやり、彼女の視界に入らなくなったとたん、マイキーは張り付けていた笑顔を秒で剥がしてマジ顔になった。

 「わかってんな?」
 「わかってるわかってる見てねぇ聞いてねぇ」
 「一瞬でもエロい目で見てたらクビだから」
 「大丈夫たまたま素数数えてた」
 「思い出しもすんなよ。オレそーゆーの分かるから」
 「「怖ぇよ」」

 人殺しそうな顔で最後に威圧して、マイキーは立ち上がった。早い。これでエマでもいて、万里子さんを送らなくていい立場だったらもっと長引いただろう。この唯我独尊男が待たせたくないってちゃんとするんだから、あの人はやっぱりすげえなと思う。

 「…ホント姉貴大好きな」
 「はー?なにケンチン、いまさら。当たり前じゃん」
 「昔違ったろ」
 「…それ大昔だから!」

 思い出したくないらしく、恥ずかしそうな顔で一喝される。小坊の頃は万里子さんにうぜぇって言ってたのを知ってるオレと場地が顔を見合わせてぬるく笑ったら、普通に拳骨が降ってきて「忘れろ!!」を最後に、マイキーは万里子さんのほうへ帰って行った。

 「…え、そーなの?最初っからじゃねぇの?」
 「イヤ?少なくともオレらが会ったばっかの頃はめっちゃくちゃ反抗期だったぜ。あの頃のマイキーが今の自分見たら卒倒するぐらい」
 「すげぇ嫌ってたもんな。構うなっつって」
 「……それがなんであーなっちまうワケ…」
 「さぁ、聞いてねぇけどなんかあったんだろ。マジ急だったよな?」
 「気付いたら万里子万里子ーってなってたな。当時オマエ嫌いっつってなかったっけ?って聞いたら、そん時も『大昔だから!!』ってキレてたワ」

 二人の帰る後ろ姿が、最初はただ並んで歩いているだけだったのが、マイキーが万里子さんの腰を抱き寄せて、万里子さんもその肩に頭を乗せてバカップルみたいになるさまをちょうど見てしまった。ちょうど見えたマイキーの横顔が、遠目でもめちゃくちゃ穏やかに幸せそうな顔で、変な方向に心配したのを反省した。あれはもう、究極の親愛だ。

 「…万里子さんケッコンできんのかな」

 同じく後ろ姿を目で追っていた一虎がぼけっと呟く。それは常々オレも思っていたことだったし、他2人も同様だったようで、場地は無理だろと半笑いになったし、三ツ谷はうーんって唸って眉間に手を当てた。

 「……まぁ、あそこんちの兄弟全員認めねえとダメだから…石油王でギリだな」
 「いや、海外暮らしはNGだろー…」
 「たしかに……」

 兄弟全員どうよって感じだけど、そのなかでもずば抜けた独占欲のマイキーが折れる日はいつか来るのか。少なくとも万里子さんももう少し弟離れしないとどうにもならなそうだ。

***