ちょろい / バーボン

バーボン(notトリプルフェイス)×隠蔽処理班


「うわぁー…また派手にやりましたね。ぅぇっ」
「仕方ないでしょう。ターゲットが暴れたんです」

あるホテルの一室、凄惨な現場を目撃するのはこんな仕事をしていればもちろん初めてではないがせり上がってくる胃の内容物は本人の意思と関係なく口から出ようとする。

「ここで吐かないでくださいね」
「…っうえわかってますよ。袋持ってきてるんで」

血は平気だ。でも臓物は無理。もはや恒例となった嘔吐を済ませ極力目を細めながら手早く片付ける。
鏡の前で身なりを整えているバーボンは気になっていたと言いながらも興味なさげに問いかけてきた。

「以前から気になっていたんですが何でこの仕事をしているんですか」
「私ずっとこの世界で生きているんで他のこと出来ないんですよ」
「これも出来ていないと思いますが」
「まぁその通りなんですがね」

刺さる事実に押し黙ると少し空気が重くなった気がした。

「早くしてください。僕おなかすいているんです」
「車下につけてあるのでいつものように先に行っていただいていいですよ」

組織内でも一二を争うこの綺麗な顔が歪むのを見たのは私が一番多いと思う。ポーカーフェイスのこの男も私の前では(喜)怒哀楽を明確に示す。しかしそのおかげで気楽に話せているわけですが。――ジンにこんな態度をとったら即射殺だと思う。


「…誘っているんですが」
「奢りですか?」
「奢りです」



□ □ □



万年金欠の私に差し出された魅力的な提案はやる気を出す為に投下された燃料としては多すぎたかもしれない。二倍速で片付け、うきうきで後をついてきた数分前の自分を呪いたい。


「なんでわざわざ今日焼き肉なんですか」
「急に食べたくなったので」

さらりと言ってのけたこの人はホルモンを美味しそうに頬ばっている。一方私は先程の光景が脳裏に浮かび空腹にも関わらず一切手が付けられない。

「サイコパスですか?ついでに私への嫌がらせですか?」
「そうですね…なまえさんと一度食事に来たかった、というのが一番の理由ですかね」

…きゅん、ってなるか!!!
ベル姉にはまともなくせに私相手のときだけチョイスがおかしい。次々と運ばれてくる高そうな肉から目を背けてひたすらナムルを食す。

「人の金で肉が食いたいと言っていたじゃないですか」
「そ…れは言いましたが。今度は別のところがいいです」

元々大きな目をさらに見開いて私の顔をじっと見た。気恥しくなりナムルに視線を落とした。

「また誘ってもいいということですか?」
「まぁそうですね」
「では次はなまえさんの好きな所に行きましょう」

初めて向けられたはにかむような笑顔に今度こそ本当にむねがきゅんと音を立てた。