微酔計画 / 五条

仕事終わりのサラリーマンでごった返す大衆居酒屋、こんなところに日本に二校しかない呪術学校の先生方が本当にいるのか。
送られてきたGPS情報と看板を見比べ意を決して扉を開けた。いらっしゃいませー! 元気に出迎えてくれた店員に迎えに来た旨を伝えると快く案内してくれた。

「…硝子さん」
「悪いね、お迎え御苦労」

十二帖ほどの座敷にはなまえに連絡してきた家入硝子、表情を一切変えず冷酒をあおる七海建人、京都校教師庵歌姫、なまえの同僚伊地知潔高が座っていた。

「なまえさん仕事終わりにすみません。五条さんがどうしてもとおっしゃるので…」
「いえ、こちらこそご迷惑をおかけしまして」

いつものように駄々をこねて伊地知を困らせたのだろう、想像に難くない。なまえが言うことではないが今までの分も含めて謝罪した。
当の本人は回復体位ですやすや眠りについていた。サングラスはテーブルの上に置かれていてきっと七海がやってくれたのだろうと察しが付いた。

「硝子さんですか、飲ませたの」
「久しぶりにこいつの痴態が見たくなってね」

でも二勺だけだからな、 と家入は念を押したが酒に滅法弱い五条にとってはそのお猪口一杯が命取りなのだ。

「なまえも飲むか?」
「いえ、飲み過ぎてしまいそうなので遠慮します」

また誘ってくださいと言うとすぐに次の約束が取りつけられた。家入はザルなので同じくらい強い人間と飲まなければつまらないのだ。その気持ちが分かるのでなまえは申し訳ない気持ちになった。

「悟さん起きてください、帰りますよ」
「…ん、ぅあ、なまえだぁ」

覚醒しきってないのか舌ったらずな喋り方はなまえの庇護欲を掻き立てた。うるんだ瞳でなまえを視認するともぞもぞと動き出し手を頬に添えた。

「冷たくてきもちいい…」

五条は満足そうに顔を綻ばせ艶っぽい雰囲気を醸し出した。なまえはその場にいる全員から向けられる様々な感想を持った視線が突き刺さり居た堪れなくなった。慌てて少し大きめに声を掛けるが起き上がる気配はなく上がった体温を冷やすのに夢中になっていた。

「五条さん、みょうじさんが困っています。早く帰ってください」

見かねた七海が五条の上半身を起こし座らせ伊地知がすかさず水を持ってきた。素晴らしい連携プレー、普段から振り回されているだけはある。
七海も顔に出ないだけできっと酔いが回っているのだろう少し足元がおぼつかないようだった。

ぽつぽつ文句を言いながらも何とか動き出した五条に肩を貸し呼んでいたタクシーに押し込んだ。鬼太郎袋とミネラルウォーターは来る前に買ってきていたので五条に持たせた。

「なまえ今日来れないって、言ってなかったっけ」
「二年生のみんなが優秀で想定より早く終わったの」

ぽやんとした表情と上気した頬のコンボでなまえのメンタルHPはかなり削られ、むくむくと疾しい気持ちがわき上がってきた。

「そうなんだぁ」

いつもより幼い笑顔になまえの胸はきゅんと音を立てた。五条が至極嬉しそうに、投げ出されたなまえの手をいやらしく撫でるのでなまえは視線を逸らしながら生唾を飲み込んだ。

「なまえ、色っぽい顔してる…家まで待てない?」

運転手に聞かれないよう耳元で囁かれたことでなまえの理性は決壊寸前だった。人の気も知らないで、可愛らしく酔うことが出来たなら絶対に五条をメロメロにしてやるのに。今度は私が迎えに来てもらおうと意味のわからない決意を新たにした。


「なまえ、僕が酔ってるの好きだよね」

ミラーに映らないように覆いかぶさり軽いキスを一回。
ニヤリと笑う顔はほろ酔いながらもしっかりと正気でそれでいて目はギラギラとした色を湛えていた。