友情は成立するか / 虎杖

男女の友情が存在するか否か、という問いはいつの時代も議題に上がる。初めて聞いたとき私は悩んだ末成立すると答えた。けれど今はーー

悠仁は私のことを野薔薇と同じ“女友達”とカテゴライズしているから私は想いをひた隠しにして今日も彼の隣に居座るのだ。





「ねぇ悠仁、私達って一年だよね?」
「そうだな」
「人手不足っていうのはわかってるし任務もしょうがないけど、これだけは無理!!!」

なまえが指差すこれ、 は顛末書である。
対呪霊、一般人に見えないものと戦っている以上建造物等の破損に対しより詳細な報告が求められる。なまえはその文章をまとめることが何より苦手だった。中学校で習う小論文の書き方では役に立たないのだ。

補助監督が同行する任務であれば彼らが作成してくれるのだが今回は単独だったためなまえの報告に全て掛っていた。

「祓うことでいっぱいいっぱいで状況覚えてないよ…」
「それはわかる、…よし終わった!」
「抜け駆けだーひどい…」

虎杖はなまえの吐きだす不服に相槌を打ちながら着実に書き進めていたようだ。伏黒と釘崎は疾うに書き終え自室に戻っている。同類だと思っていた虎杖も書き終えてしまった以上今からは一人寂しく苦しみ悶えなければいけないのか、 と項垂れた。
筆記具を机に置き紙を持ったが虎杖は立ち上がる様子はなかった。


「終わるまで待ってるから早く書いちゃえよ」
「ゆ、悠仁ぃー!!」

虎杖の微笑みと優しさが胸に染みてなまえは目を潤ませ、彼は鞄から取り出した漫画を読み始めた。初対面で釘崎から散々な言われようだった虎杖も黙っていると顔は整っていて格好いい、となまえは思った。

「ん?」
「(ツラがいいぃかっこいい好きすきすきすき…)」

なまえは発現した感情を自分の内側に留めておくことが出来ずぷはぁ、 と息を吐きだした。

「何で俺ため息つかれてんの?!」

実際はため息ではないのだが説明出来るほどの語彙力がなまえにはなかったのでごめんごめん、 と適当に謝罪した。

潔く振られてしまえばどんなに楽か、何度も考え何度も逃げた。四人でいるときの心地よさを擲ってまで気持ちを伝える気にはなれなかったのだ。

「まじでどうした?調子悪い?」
「好き…」

つい先ほど回視したばかりだというのに想いが口をついて出てしまいなまえはとんでもない失態を犯したことに気が付いた。虎杖はぱちぱちと複数回瞬きをしながら頬を赤らめた。

「(やってしまったー!!!どうするどうするどうすれば…)」
「なまえ、今からナナミンのところ行こう」
「え、なんで」
「書き方教えてもらって早く提出して。話があるから」

変に真剣、且つひきつったような顔でなまえを見つめるものだからその話とやらが良いものではないと覚悟した。
ぎゅう、 と喉を締め付けられ鼻の奥が痛み自分の安易な考えを猛省した。

「なまえ?なんで泣いて…」
「ごめんね悠仁、ごめん」

わけを聞こうとする虎杖の言葉はなまえに届いていなかった。現在進行形で困らせていることが分かっているのに勝手に溢れてくる涙を止める術をなまえは持ち合わせていなかった。

「なまえ、聞いて」

虎杖は己の両手でなまえの頬を挟みこんで前を向かせた。うぅ…、 と小さく唸りながらぼろぼろ大粒の涙を溢すなまえを見て虎杖は笑った。

「なっ、何で笑うのぉ…」
「なまえ勘違いして大泣きしてるからさ」

親指でなまえの頬を伝った涙を拭い、ニカリと笑った。それからよく聞いて、 と泣き喚く子供を諭すように話し始めた。

「俺なまえのことが好きだ、でもそれ伝えちゃったらなまえが困ると思ったんだ。だから我慢してたんだけど、なまえも同じ気持ちだったんだな」

やっぱ言いたいこと我慢するなんて身体にわりぃよ!なまえにも我慢させてごめんな、 と続けなまえの頭をゆっくりと撫でた。



Q.男女の友情は成立するか
A.成立しない