自白作用/虎杖

成人済み、呪術師



単独任務を終えた虎杖の元に掛って来た一本の電話。面白いものが見られるよ、位置情報送るから早く来てね。 と一方的に用件を告げられ切られたそれ。
正直行きたくなかったが卒業後もお世話になっている恩人からの呼び出しを無視するわけにもいくまい、身だしなみを軽く整え件の場所へと向かった。

こぢんまりとしたその店はどうやら彼の馴染みの店のようで、入店するやいなや五条様のお連れ様ですね、 と空費時間なく案内された。
その個室には二人の元担任五条悟と高専所属医家入硝子、虎杖の交際相手みょうじなまえが座っていた。

「悠仁―おつかれサマンサー」
「おつかれ、先生」

なぜか小声で話す五条に合わせ虎杖も小さな声で挨拶をし、家入には会釈をした。

「先生聞いてる?悠仁ってば全然かまってくれないの…」
「それ、本人に言えばいいじゃん」

なまえの前には徳利が何本も並んでいて、言動から分かる通り泥酔していた。テーブルに伏せながら五条と話すなまえは虎杖の存在に気付いていないらしかった。なるほどこれが先生の言っていた面白いものか、 虎杖はようやく呼ばれた意味が分かった。

任務のせいでデートが台無しになっても文句一つ言わない彼女の本音に口元が緩んだと同時に猛省した。

「酔いが回った途端これだよ。元生徒ののろけを聞かされるこっちの身にもなって欲しいね」

家入もなまえに負けない位、もしくはそれ以上に飲んでいるようだが酔っている様子は微塵も感じられない。現に追加の熱燗を女将に頼んでいた。

「虎杖の分も頼んだからな、少し付き合え」

家入に促されるまま五条の隣に座り、すぐに運ばれてきた酒を家入のお猪口に注いだ。なまえは斜め前に愚痴の対象がいることに未だ気が付いていない。


「俺なまえに甘えてたんだ」

虎杖は注がれた程良い熱さのそれを一口で飲み干した。それだけで酔うことはないが鼻を抜けるアルコールの香りにくらりとした。

なまえのことが本当に大切なのに自分の中の優先順位の一位は呪霊討伐であり、物分かりのいい彼女の胸の内を考えようともしなかった。
同じ呪術師だから理解してくれるだろう、 と家入に吐きだしたように甘えていたのだ。

「あれぇ?五条先生、私悠仁の幻覚が見える…」

手酌をするために身体を起こしたなまえは視界に入った彼を見て ? を浮かべた。酔いが回ってぼやけた視界で勘違いするなまえがまぬけで可愛らしく見えたのか五条は上がる口角をグラスで上手く隠した。

「なまえ、幻覚なら素直になれるんじゃない?」
「せんっ「悠仁、私寂しい…」

切実に絞り出したような声音にその場にいた全員の胸が締め付けられた。厳しい鍛錬でも残酷な任務でさえ弱音を吐かなかったなまえが初めて晒した弱い部分。

「先生、俺ら帰る」

二人分の支払いをしようと財布を出した虎杖を制止しおごりだから早く帰りな、 と気を使ってくれた。酩酊状態で現状を全く把握できていないなまえの身体を支え店を出た。
何で?二件目行くの?もう飲めないよ。 と一人しゃべり続けているなまえに悠仁は適当に相槌を打ち店員が呼んだタクシーを待った。

「先生、縮んだ?」


まだ虎杖のことを五条と勘違いしているようだ。相当な量をハイペースで飲んでいたようだから無理もないが他の男と間違えられるというのは少し癪に障った。

「なまえ、俺先生じゃないよ」

なまえはだらりと下げていた頭を勢いよく上げ、虎杖の顔を見た。うるんだ瞳と強い眼光がかちあった。


「悠仁、なんでここに」
「五条先生に呼ばれた」

少しぶっきらぼうすぎたか、反省する前になまえは悲しみを含んだ声音で謝罪した。

「悠仁、怒ってる?」

眉を下げるなまえがたまらなく愛おしくなり思わず抱きしめた。

「怒ってないよ、なまえの我慢に甘えててごめんな」
「私が悠仁に嫌われたくなくて言わなかっただけだから…」
「なまえ、好きだ。大好きだ」

桜色の唇に触れるだけのキスを一つ落とした。なまえから香るアルコールと色香に酔ってしまいそうだった。虎杖はなまえから離れ自らの頬を思い切りはたいた。
いくら人気のない路上とはいってもこれ以上はまずい、 痛みで上手く自制が効いた。

「破廉恥ですねぇ悠仁くん」
「気持ちは分からなくもないが帰ってからにしろよ」

虎杖は恩師二人に一部始終を見られていたことを知り大絶叫した。

「いや、あ、あのタクシーが中々来なくて!」

羞恥で混乱した頭はまともな言い訳を生成しなかった。その慌てようは五条を喜ばせるだけだった。

「タクシーはここには来ないよ、僕が止めたからね」
「はぁぁ?!先生そういうのよくないよ!」


キャパオーバーで眠ってしまったなまえを背に乗せ大通りまで歩きタクシーに乗り込む頃には恥ずかしさも薄れ明日に思いを馳せるまでになっていた。

なまえが起きたらもっとたくさん話をしよう、なまえの好きな甘くない卵焼きとたこのウインナー、赤だしの味噌汁を作って一緒に食べよう。 なまえの喜ぶ顔を想像すると自然に顔が綻んだ。
あ、五条先生と飲むときは控えめにして欲しいとお願いもしなければ。 と虎杖は柔らかななまえの頬をつついた。