孤爪Freak / 孤爪

「研磨せんぱーい!頑張ってー!」
「研磨ぁまた来てるぞ、お前のファン。」
「…はぁ。」


「なまえ!今日も来たんだな!」
「リエーフ!もちろんだよ!研磨先輩がバレーしているところを見ないなんて損でしょ!」
「じゃあじゃあ、あの研磨さんのツー見た?」
「見た見た!めっちゃかっこよかった…!」
音駒高校1年みょうじなまえ。入学してすぐに見た男子バレーボール部の試合を見て研磨さんの追っかけを始めました。そして通い詰めた結果本人に認知してもらえるまでになりました。でも未だに研磨先輩とは会話できていません。
「なまえちゃーん、たまには他の人を応援しても良いんだぜー?例えば俺とかさ。」
「いいえ!チーム全体は応援していますけど個人は研磨先輩だけです!今日もお疲れさまでした。失礼します!」
研磨先輩は部活が終わると早々に家に帰ってしまうので私の部活見学もここでおしまい。また明日までの我慢だ。

今日も今日とて研磨先輩は格好いい。朝から気だるげに歩く姿が見られたから今日一日頑張れる気がする。
「なまえ〜、なんか今日顔変じゃない?」
「バカリエーフ!女子に向かって顔変とは何事!?」
「いやー、なんか虚ろ?っていうの?そんな感じ。」
「確かにちょっと体調悪い気もする。」
最高の一日になるはずが、一時間目から節々が痛くなってきたところで同じクラスのリエーフが野性的勘を発動させてきた。そして体調不良ってやつは一度認めてしまうと悪化の一途を辿る気がする。
抗い空しく授業中に意識を飛ばしてしまい自宅へ強制送還。熱に浮かされる頭で考えたのは研磨先輩のこと。
「…研磨せんぱぁい。」

「あれ?今日もいねぇじゃん、あの子。」
「…知らないよ、飽きたんじゃない。」
ニヤニヤとこちらに笑みを向けるクロに少し苛立ちを覚えた。
「研磨さん!なまえはインフルらしいですよ!」
「…。」
「えっ、何で睨むんですか〜!」


「完全復活!!」
1週間ぶりの学校、やっと研磨先輩に会える。わくわくで授業を受けた記憶が全くない。鼻歌混じりで体育館へと向かっていると研磨先輩の姿が見えた。
「んー今日も格好いい…。」
あくまで独り言、小さく呟いたつもりの本心が、彼には伝わってしまったようだ。急に振り返りこちらに向かってくる。
「えっ、えっ。」
「…ちょっと来て。」
遠くから見ているだけでは分からなかった手の大きさ、ぬくもり。突然の出来事に頭がパンクしてしまいそうになりながらも掴まれた腕がこのまま離れなければいいのに、と小さく願った。

連れてこられたのは告白の定番スポット体育館裏。研磨先輩は少しの間目を泳がせてから意を決したように深呼吸をし一言。
「…体調大丈夫?」
「は、はい大丈夫です!!!」
「ちょっと声が大きい。」
「すみません…。」
「今度からはもっと近くで見ていいから。」
いつも見学は邪魔にならないよう二階席、練習終わりの号令が聞こえるまでは一言も発しないようにしてきた。それでも研磨先輩に嫌がられているような気がして少しだけ悲しくなることもあった。
「迷惑じゃないんですか?」
「なまえなら、いい。」
「名前!!嬉しいです!研磨先輩好きです!…あ。」
「知ってる。」
研磨先輩は獲物を射止めるかのように私を真っ直ぐに見据え、口端を上げた。無気力そうな先輩が試合中に見せたその表情に惚れ込んで始めた研磨先輩の追っかけ。その大好きな表情を向けられ湧きあがる何とも言えない感情に胸がいっぱいになった。


Freak
 一つのことに熱中している人

「これからは研磨先輩公認ファンということでよろしいですか?」
「……うん。」