儘ならない / 澤村

「さーむらー!おはよう!」
「あっ。」
何かを書いていた澤村の手元を見ると大きくはみ出してしまった黒いペンの跡。
「ご、ごめん。」
「いやいいんだ。おはようなまえ。」
向けられた笑顔に今日も癒される。…あぁ今日も頑張れる。
「そういえば今日体育合同でバレーだね。澤村の活躍期待してる!」
「お、おう。任せとけ!」


…というのが朝の話。今はその体育の時間。
「澤村〜〜!おいどうした!」
「おいおいどうした澤村〜。」
「ははは、すまん。ちょっと調子悪いみたいだ…。」
サーブはネットに引っ掛かり、レシーブは明後日の方向へ。極めつけは顔面ブロック。
クラスメイト達も最初はからかっていたものの失敗の連続に本気で心配し始め、交代したところで声を掛けに行くことにした。
「澤村、大丈夫?おでこ赤くなってるよ。」
「なんか上手く出来ないんだ。…保健室行ってくるよ。」
入部したてとはいえ曲がりなりにもバレー部である彼があの失敗を気に病まないはずがない。体育館を出る前にも躓いた澤村を放っておけず保健室へ向かった。
「失礼しまーす。」
澤村は誰もいない保健室のなかで呆然と椅子に座っていた。振り向いた顔がまるで捨てられた子犬のようで居ても立ってもいられなくなった。
「なまえ…。情けないところを見せたな。すまん。」
「情けなくなんかないよ!そういうときもあるって!私なんて一日一回は転ぶよ?」
「…なぁなまえ俺さ、お前がつ…。ああ!」
「つ?」
「噛んだんだよ、流してくれ…。儘ならないな。」
「ふふ、いいよもう一回聞かせて?」
「なまえが好きだ。」
「私も!大人な澤村もおっちょこちょいな澤村も全部だーいすき!」


儘ならない
 思い通りに行かない、自由にならない

「なんかなまえの前だとうまくいかないんだよな〜」
「私だけに見せる一面って感じで嬉しいよ。」