悋気 / 赤葦

二年である俺が三年の教室を出入りすることは最初こそ戸惑ったものの今や当たり前の事象となっていた。
「木兎さん。」
「おー赤葦どうした?」
「申請書類に部長のサインが必要なのでいただけますか?」
「赤葦いつも悪いな。」
「さすが二年副主将!」
当たり前といえば当たり前なのだが、レギュラー陣は三年が主だ。先輩方は分け隔てなく接してくれてはいるがこうやって同じ教室で楽しそうにしているのを見ると正直うらやましくなる。
そしてそれ以外にもうらやましい要因がもう一つある。
「赤葦くん!また光太郎にこき使われてるの?もっと厳しくしていいんだよ?」
バシバシと木兎さんの背中を叩き良い笑顔をこちらに向けている。
「いてえって!お前馬鹿力なんだから加減しろよな〜。」
三年のみょうじなまえさん、俺の彼女は木兎さんを含め梟谷バレー部のメンバーと仲が良い。今こうやってなまえさんと交際出来ているのも木兎さんと同じクラスだからこそだ。
…とはいえ良い気はしない。
「…。」
「赤葦くん?」
「…いえ、そうですね。もう少し木兎さんに仕事を任せてみます。」
余裕のない自分が恥ずかしくなったので木兎さんに書類を丸投げして教室を出た。



「よーっす、赤葦大丈夫か?」
「木葉さん、お疲れ様です。トスだめでしたか?」
「いんや、そんなことないけど。なんとなく元気ない気がして。」
切り替えていたつもりだったが伝わってしまったようだ。まあ、教室での一件より今の方が深刻なので仕方ないとも言えるが。

「光太郎!すごいねナイスキー!」
「ヘイヘイヘーイ!オレ天才!」


「あれだろ?」
「ええ。まぁ。」
休憩中に木葉さんに指摘された以外は何事もなく部活を終えることが出来た。いつの間にかなまえさんもいなくなっていて寂しいと同時に安心さえした。
「後は俺がやっておくんで、木兎さんは帰っていいですよ。」
「マジ?じゃあおっさき〜。」
誰もいなくなった部室に自分のため息が大きく聞えた。
「あ、赤葦くん。」
「…っはい。」
集中していたからかなまえさんが入ってきたことに全く気付かなかった。
「あの、光太郎が…。」
「二人きりなのに木兎さんの話ですか。」
学生における年齢差はたった一歳でも大きな違いだ。彼女よりも一つ下ということで年下くんと呼ばれ、不愉快ではあるが年齢差は覆せるものではない。
せめてなまえさんと同い年に見えるよう努力してきたつもりだった。嫉妬しても噯気にも出さず。
「赤葦くん?」
「なんで木兎さんは名前で俺のことは苗字なんですか。なんでいつも木兎さんと一緒にいるんですか。なんで木兎さんの応援ばかりするんですか。」
必死に堪えていた嫉妬は一度溢れてしまったら留まるところを知らない。抱き寄せたなまえさんはうつむいていて表情が見えない。
「ごめんね、赤葦くん。光太郎とは中学からの付き合いだし、でも赤葦くんはか、彼氏だから恥ずかしくて上手く話が出来ないの…。」
だから光太郎に相談に乗ってもらってて、年上なのに…なんてどもりながらも懸命に本心を伝えてくれたなまえさんへの愛しさで胸がいっぱいになった。
「苦しいよ赤葦くん…っ。」
愛しさを抱きしめる力に込め改めて言葉にする。
「なまえさん、好きです。名前で呼んでくれませんか?」
「私も、好きだよ。…京治くん。」



悋気
 やきもちをやくこと

「さっきの…木兎さんがなんですか?」
「部室にけ、京治くんしかいないから襲ってこいって…。」
「襲われてませんけど?今からでも遅くないですよ。」