学パロ
「ねーー!聞いて降谷!!」
「なに」
「え、なんでこんな機嫌悪いの。諸伏!」
「いや知らないけど」
「で、なに?」
「あ!そう、昨日バイト中にイケメンに声掛けられたの!」
私にも春が来たよ!なんて嬉しそうに言うもんだから俺のテンションはがた落ち、もはや地を這っていた。
なまえがこの前フリで話しかけてくる時は碌な話じゃないと思っていたが案の定だった。隣にいるヒロに目を向けると眉を下げ何とも言えない表情でこちらを見ていた。
「また明日って言われたから、今日も会える!」
「へーよかったな。もう先生来るし席戻れば?」
「じゃあまた後でね!」
幼馴染のなまえの色恋の相談はこれまで何回もしてきたつもりだが未だ正解が見つからない。俺は昔からなまえが好きだからだ。
「ゼロ、どんまい」
それを知っているのは同じく幼馴染のヒロだけだ。
分かりやすくなまえを贔屓したりスキンシップを取ってみたりとアピールしているつもりだが彼女には全く伝わっていないようで毎回他の男の話を俺に持ちかけてくる。
“イケメンに声を掛けられた”という最悪な報告から数日、なまえは見事に腑抜けになっていた。
授業中もうわの空で先生にあてられているのに無視して怒られていたし体育のバレーでは顔面にスパイクを受けて鼻血を出していた。
「なまえ〜お前例のイケメンに心奪われ過ぎ」
「いや〜そういうんじゃないんだよ、うん」
部活のない日はなんとなく三人で一緒に帰るようになっていて、ヒロとなまえは今日あったことを楽しそうに話している。
俺はそのうしろをただついていくだけ、なんとなく話しに入ることが出来なかった。
「じゃあ、また明日な」
「またね〜」
別れ道でヒロがいなくなり二人きりになると自然と隣を歩くことになるのだが、微妙に遠い距離に少しの苛立ちを覚えた。
「なぁ、なんで俺のこと避けんの?」
俺が話し掛けなかったというのもあるが、ここ数日なまえとまともに話していない気がしたのは気のせいではなかった。疑惑は今日の昼休みあからさまに逃げられたことで確信に変わった。
「い、いや避けてないよ」
不自然なくらいに目が泳いでいる。まったく理由になっていない話を手をわたわた動かしながら説明してくる。
「…っおい!」
「きゃっ」
「信号赤、前見て歩けよ」
咄嗟に引いた腕に思っていたより強い力を加えてしまい道端で抱きしめる形になってしまった。
「ご、ごめん」
離れようとするなまえをより強い力を込めて抱きしめる。もう我慢の限界だ。
「お前例のイケメンでいつまで腑抜けやってるつもりだよ」
「…違う」
「何?」
「イケメンは関係ないんだってば!」
「は?」
「だから私がああなったのは降谷のせい!」
どうしてここで自分の名が出てくるのか見当もつかない。少なくともイケメンの話をされてからなまえには近付いていない。
「高橋さんが…イケメンさんが本当は降谷のことが好きなんじゃないの?って…」
見たこともないがイケメンは高橋というのか。正直そんな男の話聞きたくもない、意識半分でなまえの話に耳を傾けた。
「それで、降谷のことちゃんと考えてたらあんな感じになって…」
「それってさ、俺のこと好きってこと?」
「…ぅ」
「聞えない」
「〜〜〜!そう!!降谷はどうなの!」
「俺はずっと昔からなまえが好きだよ」
「えっ!」
「もうこれで我慢しなくていいんだよな。なまえ、好き。俺はずっとお前のせいで腑抜けだよ」
腑抜け
いくじなし、まぬけ
「これからは昔みたいに零って呼べよ」