uso to honto







_

no.06








 慣れない人と話す時いつもより大きく笑うようにしている。だからきっと、ヘンなところで妙に笑っていることがあると思う。

 少し俯きながら、そう言葉を漏らした誰かのことを思い出したりする。なんだか居心地の悪そうな様子で目線を逸らす姿に愛想の悪さを感じなかったのは、自分にもその行動に対し共感する部分が痛いほど存在するからなのだと思う。なぜならそういったことを繰り返すのは大いにして体力を消耗し、重なった疲労はやがて人との距離を広げてしまうことが多いからだ。無論、そこには相手に対し嫌な感情を抱いたからという理由はなくて、言ってしまえば自分の感情表現を大きくアピールするというパフォーマンスを全力で披露したことにより、帰りの電車から家に着くまでの1人になった時間にはゲッソリとしてしまうのが原因。
 上手いこと行かないな、と思う。
 自分が会いたいと思った人に会って楽しい時間を過ごしたという100点満点の日にも関わらず、頭の片隅では反省会が始まるのだから。
 たくさん話をしてくれてたくさん笑ってくれる人が好きなのは勿論で、受け取った会話を頑張って大袈裟に返してくれる人には心から共感する一方で、声色が一定で淡々と自分の意見を述べるような人への憧れも大きい。眉ひとつ動かさなそうな対応に一瞬ムッとするのは本音だけれど、そこには装飾品が一切付いていない本心のこもった言葉が流れてくるからだろう。淡々とした物言いなだけで言葉の中になんの毒も含まれていないのならば、当然嫌われたりなんてしない。そんな彼らのようなヒトになりたくて、なれない人生を続けて早数年経ってしまった。

no.05








 植物が好きで
 植物を育てるのが苦手だ



 最初はいい
 最初は愛情を持ってそだてるから。
 毎日お水をあげてお日様にも当ててあげる。土の様子は〜とか、伸びすぎた枝や枯れた葉を剪定したり。
けれど、それがいつまでも続くわけでもない。育て主の生活の余裕が無くなったり慌ただしくなると、植物にかける時間は消えてゆく。すると露骨に変化が現れて、みるみるうちに植物はしょんぼりと茶色く染まる。私はその過程を見ているのがなかなか辛い。
 それと同じくらい、同居人が買ってきたばかりの植物を生き生きと育てる初期から枯らしてしまうまでの過程を見届けるというのもなかなかつらい経験だ。時にそれは虐待された幼児を見てているかのような、あるいは将来の自分への対応と重ねてしまったりなどするからだろう。そして何より、そんな様子をただ見ているだけで元気をなくしてゆく植物を助けようとしない冷たい自分に嫌気が差し、やがて最後に自己嫌悪が襲ってくる。
 ちなみに私発端で植物や動物を飼って自ら育てようなんて思った事は、実はほぼ無い。家に連れ帰ってしまったからには責任が生じ、例えば旅行へ行ったとして、家の中に残されたその子たちの事が気になってしょうもないメンタルに磨きが掛かってしまうだろうし。死なせてしまった、枯らせてしまった時の自己嫌悪と罪悪感を恐れ、自ら何かを育てるという選択肢を自分の中で存在しないものとしている。
 しかしだからといってその価値観を他人へ押し付けるのは間違っているのは当然なので。
 私は同居人の状況/気分次第で育ったり枯れたり、はたまた死ぬ寸前から復活したりする様子を、気にしないフリをしながら横目でチラチラと伺う生活を続けている。


 私の母も、沢山の小鳥を飼っている。
 いやその数は「飼っている」なんて可愛いものではなく、数十羽という尋常じゃない数の鳥たちの面倒をみている。
 それはきっと、ほとんど飼育に近い。
 一羽一羽に名前なんてきっともうつけていないだろうから、ピーちゃんとかアオちゃん、キーちゃん、みたいな名前の子が無数に存在しているのだと思う。本人は愛情持って育てているし、ブリードさせて儲けようだとかそういった金銭的な目的で数を増やしているわけでもないらしい。母のインスタグラムからは確かに鳥たちへの愛を感じ取れるが、その裏側でにこれまでに無数の鳥が亡くなっているのも事実だ。鳥たちの死後、母は確かに悲しんでいた。が、悲しみに浸る間もなく次々と卵が還り、新しい命が爆誕する。それを恐ろしく感じる機会が自分の年齢を重ねる毎に増えていった。


 自分の都合で連れて帰ってきた生命を、自分の都合で簡単に亡きものにするような人間になりたくない、というのが本音なのだけども。
 けれどそういう受け身な人間が何も産まない生物であることはきっと確かで、少子化の世の中にこの類に値するヒトが増え続けているのだろうな、なんて思う。そもそも責任感が強いので、不安定な選択肢は最初から用意しないしそれ故に自分は誰も殺めない、傷付けたりしない。
 多分そんな自分が大好きで、こんな文章を書いてしまう自分が大嫌いなのだろうなと思う人生を何度も繰り返すのです。ええ。

no.04








 眠る前の話し
 深夜を過ぎてもはや早朝、私は布団の中へ足を入れる。あたたかい。正しくは、温められている。先に寝床へ入りスヤスヤ寝息を立てている人が居るからだ。ぬるま湯のような心地いいその中へ潜り込むその瞬間に、いわゆる幸せを感じる。これこそが幸せというものか、なんて安っぽい言葉しか私には浮かばないが、それでいいとも思う。寝返りを打ったあの人が、冷たい私の手を握り迎えてくれる。こんな時間まで何をしていたんだ、なんて怒ったりしない。思ってはいるかもしれないけれど。私の体はコンニャクみたいなの。芯がないような私のぐにゃぐにゃな体は、その場の環境温度に合わせて冷えたり熱されたりする。冷凍庫に入ればすぐに凍るし、熱湯へ落とされたら数秒でアツアツになる。コンニャクだからだ。

 深夜の布団へ潜り込むと、時間をかけて湯煎されるように私の体は暖かさを取り戻す。
 あたたかくなる
 眠りにつく
 この二つが合わさって生まれるものが安心、なのかもしれない。今日も(きっと日付をまたいでしまうから、明日かな?)お仕事をしてからお風呂に入って、眠れない時間を過ごしながら体を冷やし、やがてぬるま湯の入ったお鍋みたいなお布団の中へ入る時間がやってくる。

no.03








 それぞれ他の個室を持ち、離れた距離でそれぞれ別々のことをしてのんびり過ごしている。本を一人で読みたいだとか絵を描きたいだとか写真記事の編集をしたいだとか文字を書きたいだとか、日々色々思っているのに、いざその日が来ると大抵それは3時間程度で満足してしまい、だんだん一人の部屋でポツンとしていることに虚しさを感じてくる。夕飯になればきっとまた顔を合わせるので、その時は何を話そうかな、などと考えてみたりする。まあ大抵その話題は出ることなく、その日が終わってしまうのだけど。
 こういうどっちつかずの休日はなんだか、何をしているのかね?と客観的に眺めている自分がいるのだけど。それでも、こういう休日は無くなることなく続けばいいと思う。すぐに寂しくなる自分のままでいたいと思う。

 存分に好きな事をして、寂しくなったらちょっかいを掛けて、構ってもらえる。身勝手ながらそういう幸福の中で感じる小さな孤独、温まりきる前の湯船の中に一部だけある冷たい場所みたいな、そういうのは好きなのだと思う。暖かい場所と冷たい場所を交互に繰り返す事で、幸福なことにも悲しい事にもどちらにも浸かることなく、敏感でいられる気がするからだ。

no.02








 涼しい顔した熱い奴
 ミントグリーンの電子レンジがやって来た。冷蔵庫に合わせた色のやつ。見た目の良さを優先してしまったので今の時代では珍しく?オーブントースター機能やコンビニ弁当温め専用といったような気の利いたボタンなんてものも勿論存在しない。でもいい、かわいいから、いい。オーブントースターは、また気にいる佇まいをした子を見つけたら迎え入れるつもりだからだ。古いトースター、ステキなデザインが多いよね。果たして動くのかなという心配もあるけども。動かなければ、インテリアにしよう。飾られる為にやって来たことにして、写真を撮ってあげよう。


 今のお家に引っ越して来てから約2ヶ月ほど経とうとしている中、なんとウチにはまだガスコンロも無い。実家から持って来た家電といえば炊飯器くらいで、それ以外は何もない。新しく購入するにも一通り一気に揃える必要も然程感じなかったので、家電は1ヶ月おきに一台ずつ迎え入れようかなと思う次第。一番最初は冷蔵庫。


 次に来たのが、この電子レンジ。
 ガスコンロも無い為、家の中でお湯を沸かすことすら出来ない生活。季節が夏だというのもあり、特にひもじい思いはしなかったものの、こうして秋めいてくると何だかんだマグカップに入った温かい飲み物を啜りたいな、なんていう気持ちも湧いてくる。この電子レンジが唯一持った特別機能「drink」のボタン。これは言わずもがな冷水を温めるのに特化した専用機能なので、さっそく水道水をマグカップに注ぎレンジの中にセット。drinkボタンを押すと真っ黒な電子版にキミドリ色で表示された「1:30」の数字。1分30秒。スタートボタンを押すとヴォォーという音と同時に「チン」までのカウントダウンが始まった。実際になった音は「チン」ではなく「ピピピ」のタイプだった。チン、はどちらかといえばトースターかな。やはりトースターは買わねば、と改めて思った。朝に聞く「チン」は特別だし。


 あっという間にお湯が生成された。
 いい塩梅になった湯にインスタントコーヒーラテの粉末をサラサラと入れる。掻き混ぜながら入れなかったせいで所々ダマとなってしまったが、時々ジャリってする砂糖菓子みたいな甘みが口の中に広がるのが、意外と嫌いじゃなかったりもする。とはいえ、次回から気をつけるよ本当だよ。



no.01








テスト


←prev | next→










_