がたんごとん、控えめなようで重みのある音と同時に身体が小刻みに揺れる。閉じていた瞼をのろのろと持ち上げた時、お手洗いに行った綾時が帰って来たところで。おかえり、そう言った私に柔らかく微笑んでくれた。


「寝ててよかったのに」
「綾時がいなきゃ、落ち着かなくて」
「…本当に、可愛いね藤内は」


毛布をかけ直してくれて、ほどいた髪を一房取るとわざと音を立ててキスをされた。かあ、と顔が赤くなるのがわかって鼻上まで毛布を引き上げる。そんな私を見て綾時は満足そうに微笑んでから、悲しそうな微笑みになる。ずきりと胸が痛くなったのが綾時に移ったみたいに、癖のように綾時は胸辺りを握った。八の字眉毛。泣き黒子がその表情に拍車をかけていて、気が付いたら私の目から涙がぼろぼろと溢れていた。綾時の白い指先が、一粒一粒丁寧に涙を掬いとってくれる。

そんな綾時も、今にも泣いてしまいそうな、顔をしていて。


「………藤内」
「っ、な…に、?」


ちゅ、と控え目に額に唇が降ってきた。じわりじわりとそこから温かい何かが広がって、胸に明かりが灯ったみたいに安心感に満たされる。


「まずは京都に行こう。修学旅行じゃ一緒に回れなかったから一緒に回って、露天風呂もこっそり一緒に入っちゃおう。藤内も僕も行ったことのない場所をたくさん回ろう。たくさんたくさん、僕と藤内の思い出を作ろう。ね?」


そう言って微笑んだ綾時の目尻から、とうとう涙が溢れ落ちる。私たちは手を握り合って眠りについた。

もうすぐ影時間が来る。





僕らのエンドロール


title:リラと満月
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