何だかんだでタルタロスの捜索が出来ない日、夜に暇を持て余してる俺が大抵することと言えば夜更かしだった。タルタロスに行けば疲れて即効で寝ちまう分、体力が温存されてしまっているのかすぐには寝付けない。意識がまどろんでくるまでゲームをして、そしたらよく眠れる。今日もそんな感じでベットの上に寝転がってゲームをしていた時、コンコン、聞き逃してしまいそうな小さなノック音が部屋のドアから聞こえた。

それを偶然聞き逃さなかった俺はゲームをベットに放り出して、素足をぺたぺたと鳴らしながらドアを開ける。そこに立っていたのは、薄いピンクのパジャマに身を包んだ俺の親友の藤内だった。


「藤内?どったの、こんな夜更けに」
「……夢を、」
「ん?」
「夢を、見たの。とっても怖い、夢」


俯いている藤内の表情はわかんねえ。でも、何かを堪えて我慢してるように見えた。例えるなら、怒られて泣くのを我慢してる子どものような。藤内がこんなにも弱弱しくなってるところなんて、俺は見たことがなかった。こいつはいつも明るくて、頑張りやで、前をしっかり見据えて、俺たちを引っ張っていく太陽みたいな存在だったから。でも藤内は実際ただの一人の人間だ。女の子。聞けば両親は子どもの頃に死んじまって、いろんなところを盥回しにされて来たらしい。でも可哀想だなって、同情するのはなんか違うと思う。同情するってことは相手を下に見てるってことなんだと、俺は思うから。

藤内と俺は対等。男女の隔たりを越えた親友なんだ。


「だーいじょーぶ。藤内には俺っちが居るっしょ?今度怖い夢見たら、俺っちが夢ん中乗り込んで助けに行ってやっからよ」
「……ほんと?」
「ほーんとほんと!俺がお前を助けないわけないだろ?」


俯いてる頭がゆったりと持ち上がって、俺を見上げた。泣いてはいなかったみたいだ。結われてない頭をやわやわと撫でてやると、安心したのか、猫みたいに目を細めて笑った。そうそう、お前はそうやって笑ってる顔が一番似合うよ。なんて、そんなクサイ台詞は俺には似合わねえから言わないけど。


「順平、まだ起きる?」
「ん、ああ、眠たくねーからな」
「じゃあ、一緒に居ていい?」
「おう!当たり前だろ」


そう言ったら、彼女は。


「ありがとう、順平」
「どーいたしまして」


俺の好きな太陽みたいな笑顔で笑うんだ。






太陽の欠片


title:リラと満月
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