※順チド、荒主前提

灯りの付いてない俺の部屋。ベッドに腰掛けている俺の膝の上には、藤内が座ってる。ぎゅう、と俺の首に痛いぐらい強く腕を回して抱きついていた。それに対して、俺も負けじと藤内の腰に痛いぐらい強く腕を回して抱き締めていた。暖かくて、心臓の音が左右両方で鳴る度に安堵する。俺も藤内も生きてるんだ、って。


「藤内」
「…」
「顔見せろって」


涙でぐしゃぐしゃな顔が、ゆっくりと持ち上がった。ああ、ぶっさいくな顔なのに愛しく思えるのは、何て魔法なんだろうな。好きだ。そう言いながら額にキスをする。唇には、俺は出来ない。


「……い」
「…」
「せんぱい」
「……」
「あらがき、せんぱい」


ぐっと唇を噛み締めて俯いたかと思えば、服の裾を握りながら小さく小さく、呟いた。もういなくなったあの人の名前を、呟いた。人恋しくて、悲しくて寂しくて死にたくなって。でも俺にも藤内にもそんな勇気はない。互いに抱き締めあって、体温を共有して鼓動を共有して。そうするしか、俺たちは壊れてしまいそうで。


(嗚呼、チドリ。チドリ、チドリ、チドリチドリチドリ!)


俺たちは先輩やチドリが思ってるほど、強くなんかないんだ。






二人の影はない


title:彼女の為に泣いた
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