どうしてこうなってるのか、今の俺には全くもってよくわからない。


「はあー…モフモフ最高…」
「……」


何だか愛着を持ってしまった獣石を磨いていると、突然頭を撫でられて慌てて後ろを振り向くと、そこにはルフレさんが居て。何するんですか!なんて軽く声を荒げてみても、気にしないでなんて言いながら獣石を磨くことに気を向けさせてくる。余裕綽々なルフレさんに少しムカッとして、絶対構ってやるもんかと獣石磨きに専念しようとした時だ。頭を撫でていた手がふと止まって、ん?と後ろを振り向こうとしたら、どふっと背中に鈍い衝撃。思考が一瞬止まって、何かに巻き付かれている腹に目を向けた、ら。


「ル、ルフレ、さん…?」
「モフモフ…」


白くて小さな手が、俺の腹の前で繋いでいて、それは誰のかと言えば間違いなくルフレさんの手で、俺の背中にはルフレさんの頭が乗せられていて、背中からルフレさんの体温が伝わって、つまり体勢を考えると。俺は、ルフレさんに、抱きつかれて、いる。


「っ…!」


ぶわっと全身が燃えてるみたいに熱くなって、身体は時が止まったみたいに硬直してるのに、心臓だけはばくばくと尋常じゃない早さで脈打ってる。この人にスキンシップをとられるのはよくあることだけど、それは頭を撫でられることであって、こうして抱きつかれるのは初めてで、どうしたらいいのかよくわからない。というか俺はタグエルだけど性別は男で、ルフレさんは女で、これは普通おかしいはずなんだけど。なのにルフレさんは普通。あれ?もしかすると人間は普通なのか?いやいやそんなわけない。


「、あの、ルフレさん…?」
「うん?どうしたの?」
「あ、いや…なんでもない、です…」


いやいやいや、なんでもなくないですよ!なんて声を荒げようにも、ルフレさんが普通なのにそんなこと言ったら俺が意識してるって言ってるみたいなもので。それは流石に恥ずかしい。とはいえこれはこれですごく恥ずかしい。それに誰かに見られたら俺はどうしたらいいんだろうか。サーリャさんに見つかったら絶対殺される…!絶滅しちゃう…!というか、普通にこうされるってことは、俺はルフレさんに男として見られてないってことだよな…。ペット的な…?空しすぎる…!


はあ、俺がついた溜め息は思いの外重たかった。






あいにく余裕なんてものは持ち合わせておりません






シャンブレーの頭を撫でたり、腕のモフモフ部分を触ったりはいつものことなんだけど。
こうして抱き着いてるのに、こうも反応がないっていうのは…なんていうか、あたし女としてそんなに魅力ないかしら…。シャンブレーの広い背中に抱きつきながら、そんな事を考えてると虚しくなる。だって普通、振り払ったりどきどきしたりするんじゃない?シャンブレーは平然としてる感じで、あたしは背中にくっついてる部分から早い早い心音がばれないか不安でいっぱいなのに。

はあ、無意識のうちに吐き出した溜め息は、思いの外重かった。




title:彼女の為に泣いた
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