泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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帝春 >> index


爆音と共に撒き散らされた力の塊が牙を向く。
炎、雷、空間移動、ベクトル操作。どんな能力を用いてどのような超常的な現象が起こされたとしても、結局はこの世の物理法則に従って巻き起こされる。例えば原子崩しだって、どれだけ威力があろうとも本質的には電子の操作であり、ベクトル操作によって起こった暴風攻撃だって、簡単に言ってしまえば空気の塊をぶつけているにしかすぎない。それらは全て科学的な法則に従っていて、だからこそ常識にとらわれない未元物質は強い。
なのに。
翼で衝撃を受け止めた瞬間。頭に叩き込まれた数式は、この世の法則に従いながらも、僅かな部分がぐちゃぐちゃに歪んだものだった。読めない攻撃、読めない法則。小さいけれど確実に無視の出来ない空白は、ズレとなって表れる。
なまじ力を受け止める自信があったのがいけなかった。ただのそこらの能力で引き起こされた現象だと早とちりして振り払おうといつもと変わらぬように受け止めてしまった。結果、認識と現実のズレが生じて上手くいなす事が出来ず、まともに食らってしまったのだ。
(中略)



無防備に投げ出された身体が軋んで、悲鳴をあげる。どくどくどくと、赤いものが腹から、頭から、全身から、吹き出していく。
全身どこが痛むのかすら最早分からない、痛みを超えた痛み。それらが意味するのは、自身がもう助からないという絶対の事実であり、現実だ。

「……喜べ、よ。テメェを酷い目に遭わせた悪党が、目の前で……、いなく、なるんだぜ……」

ゼェゼェと息を吐きながら、言い放つ。
絶望的な状況とは裏腹に、彼はいたって冷静だった。
元から並列処理が得意なのもあるだろう。何よりも、いつかはこうなるであろう事を垣根自身が一番よく分かっていたからなのかもしれない。

「そんな……、そんな事……」
「な、ん、で、……テメェ、の方が、んな顔してんだよ……」

それとは逆に。顔面蒼白といった様子で分かりやすくうろたえる少女に、思わずその場に似つかわしくない笑みさえ零れる。
当たり前だ。初春飾利という少女は、人の死に慣れすぎた自分とは違う。少女にとって垣根帝督という存在がどうであれ、反射的にこういう反応をを示したとしても無理はないのだ。
だからといって、それを割り切れるかどうかは別問題なのだが。

「そんな事言われたって……っ。貴方が、悪党である前に人間だからじゃないんですか……」
「…………」

何をどこまで行っても、少女との関係は変わらない。被害者と加害者。光と闇。文字通り住む世界が違う。初春飾利と垣根帝督の関係とは、本来ならそういうものだった筈だ。
なのに、これはどういう事だ?
垣根は閉口する。
きつく握り閉められた手に零れ落ちた雫は、苛つく事さえ忘れて、確かな温もりを与えてきて。
(なんで、)
垣根は死というものが自分に訪れるとしたら、それは酷く冷たい感覚で、醜く惨めな姿を晒しながら死ぬのだとずっと思っていた。数々の罪を犯してきた者に対する相応の罰。相応の苦しみ。相応の終わり。呆気なく逝くにしろ、もがいて逝くにしろ、何にせよまともなものではないと。
でも。だけど。ああ──、

「垣根さん……?」

動かない身体、段々と薄くなっていく意識。
眠くて眠くて仕方がない。傍らの少女がもう何を言っているかも分からない。

(もう、良いよな。眠っちまっても良いよな……)

「──……」

例え反射的なものであったとしても、冷たくなる手を握り締めて泣いてくれる事が、悪党にとってどれだけ耐え難い救いであったかを少女が知る事は、ない。