泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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バッドエンドで物理的に酷い。















手加減などしようとも思わなかった。か細くて小さな身体を力の限りに押し倒し、上がる抗議の声は気にもせず馬乗りになって抑え込む。続く悲鳴。まず邪魔な脚を使えなくさせて、次にこちらを払いのけようと必死に抵抗を続けている手を抑えにかかった。これから事に及ぶ時、片手を塞がれるのは少々面倒だったので能力を駆使して両の手を頭上でぴったりと固定させる。それからいい加減、煩わしくなってきた口を左手で塞ぎ、塞いだ所で抵抗そのものを止めて貰えなかったので手っ取り早い方法として顔めがけて思いっきり殴った。流石に歪な顔面崩壊に至っては萎えるだけだと、かなりの加減付きだ。すると次は絞り出すように名前を呼ぼうとしたので、右手がひりひりするのもお構いなしにもう一度殴ってやった。
暫くしてから抵抗はぴたりと止んだ。もう無駄だと理解して貰えたらしかった。無駄な労力を使わないで済むからこちらとしても大変有り難い。これでようやく事に及べる、そんな風に思ったら薄く笑いが込み上げてきた。
こんな自分をコイツはどう思うんだろうとか、今まで積み上げてきたものが崩れ落ちる恐怖とか、本当に小さな声で泣きじゃくりながら呟かれたどうして…という言葉だとかは全て無視をした。ただ、ぶち壊せれば良かった。砂で出来た城をぐりぐりと踏み潰すように、膨らみきった風船のひとつひとつに針を突きたてていくように。壊して壊して壊しきって、元には戻らないという確証を得られればそれで良かった。


***


初春飾利という少女は垣根帝督にとって救いだった。比喩でも何でもなく、ただ事実としてそうだった。あの一件によるわだかまりは確かにあったものの、それだけで終わらなかったのだ。結果として、初春飾利は垣根の救い手となった。
……否、なってしまった。


***


とっくに意識を失い、無惨な姿になった少女を見下ろす。身に付けていた衣服はビリビリに破かれ、酷く散乱していた。顔は涙でぐちゃぐちゃになり、頬は痛々しい程に青く腫れ、透き通っていた白い肌には赤い痕がまばらに散らされている。下腹部には汚した跡が生々しく、最中に流れた血はカラカラに乾いていて己自身が入っていた場所は未だ濡れたまま。
常人が見れば、目を覆いたくなる光景が目の前にある。
全部自分がやったものなのだ。あれもこれもそれも、全部全部、自分がやったのだ。そう思うと、腹の底から思いっきり笑えてきて抑えきれそうにもない。

「これでッ。く、くく、は、ははははッ!!」

可笑しい、可笑しすぎて狂いそうだ。
これでもう、己に救いという選択肢はなくなった。恐らく少女が描いていたであろう暖かい時間、少女に救われ、幸福を享受し、不器用ながらも共に生きていくという未来は消えて失われた。全部跡形もなくぶっ壊れた。
この結果を自分はずっと求めていた。待ち焦がれていたと言っても良い。
だって救いなんか耐えられない。こんな血にまみれた自分がのうのうと救いを得て良いはずがない。
けれど、少女の温もりをもった微笑みは持ち前の暖かさで垣根の全てを包み込もうとした。それは間違いなく自分にとって救いだった。だが、それを与えられる度に幾度となく優しく優しく傷付けられていった。彼女は闇夜を照らすともしびのようだ。昼間の太陽の下で目立たなくても、何もない静かな夜の中でただぽつんと灯るだけで安心してしまうような弱いけれど確かな光だ。
光なんか届かないずっと汚くてどす黒くて深い闇の底が自分の居場所だったのに。暗闇こそ許された場所で、暗闇こそ安らぎに等しい。だから戻りたかった。
良かったのだ。これで、元の自分に戻れるのだから、良かったに決まっている。
決まっている、……はずなのに!
目の奥がジリジリと熱いのは何故だというのだ。まるで心臓をわし掴みされたように胸が痛んで息苦しいのは、唇が震えガチガチ歯と歯がぶつかって煩いのは、頭の中で少女の自分を呼ぶ声が繰り返し再生されるのは、目から溢れる涙が止まらないのは、
一体、何故なのか?

「あー……、なんだよ、コレ。ふざけやがって。ちく、しょう。ッく、は、あッ? はは、は、はははははははははははははははははははははははははははははははははははは……ッ」

可笑しくて可笑しくてたまらなくて、そんな答えすらも無視をして認めたくなくて、ずっと笑い続けているしかなかった。


13.12.29
//光からの救済、そして僕は闇に堕ちる