泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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アニメでの二人の絡み(?)が萌えた!っていう事で真剣考えてみた。
時期不明(というか考えていない)







幼い瞳と魔物の視線が俺を責め立てる。それはアクゼリュス崩落時に仲間から感じたものに似ていて、俺の心臓へ鋭利な何かが突き刺さっていくような、そんな痛みを只々感じる事しか出来なかった。

ママの仇――ッ!!

幼い少女は声にこそ出さなかったが、静かな怒りを俺に訴えている事は明白だ。地べたに座り込む少女の傍らで、少女を守ろうと唸り威嚇する魔物を前にしてたじろいでしまう。普段だったなら、ジェイドかガイが即刻彼女を取り押さえ、イオンが説得して事なきを得るのだろうが、生憎と今現在頼れる仲間はここにいない。冷たい汗が首筋から流れるを感じる。この場で少女達と戦いになった時、自分だけでこの場をしのぎきれる自信はなかったから。
何故一人なのかと言えばちゃんとした理由があって、アクゼリュスの時と同じように仲間達から愛想を尽かされたとかそんなわけではなく、単に魔物と戦っていたら切り立った崖に追い込まれ、不注意で足を踏み外してしまっただけだ。たいした怪我をしなかったのは幸いだったが、仲間とはぐれてしまうという失態を犯す事になった。なんとか合流を考えて歩いていた時に、魔物のライガに寄り添うようにもたれ掛かりながら、太股の辺りから血を流してぐったりと座っている少女――アリエッタを見付けてしまった。

「脚、怪我してるのか?」
「アリエッタ、ドジしちゃったから。動けないの……」
「ドジ、か。奇遇だな、俺もドジ踏んで仲間とはぐれた所なんだ」
「そう……」

冷静を装って声をかけてみたものの、返って来たのは今にも消えそうな程にか細い声で。可愛く飾られた洋服は所々ボロボロ。怪我をしてから差ほど時間は経っていないのか、左太股から覗く大きな切り傷からは鮮血が流れていて、見ていてかなり痛々しい。そんなアリエッタが心配なのだろう。元気をなくしたアリエッタを案じるようにライガがじっと見つめている。どうやら今の所、双方に敵意は感じられない。きっと敵意を向けられる程の体力や気力がないだけなのだろうが。だからといって、俺がアリエッタを傷付けようと素振りを見せれば、容赦なく魔物の爪と牙が飛んでくる事を想像するのはたやすい。

「……」

今何をすべきか考える。
俺は持っていた道具袋を下げると中を漁った。

「なにしてるの……」
「何って、脚痛むだろ?」
「……」
「俺、治癒術は使えないけど、応急処置なら出来るからさ」
「……そんな事をしてもママは帰ってこない。こんな同情いらない。優しくされたって、アリエッタの中の哀しみは消えない!」

アリエッタが敏感なのか、俺が分かりやすいのか。多分後者だとは思うけど、考えていた事をずばり当てられてしまう。

(馬鹿だよな、俺……)

せめてもの罪滅ぼし。浮かんだ言葉。そんなのは只の自己満足なんだって事は頭で分かっているつもりだった。こんな事をしても、アリエッタの母親代わりをしていたライガクイーンは帰って来ないし、アリエッタが俺に対して抱く憎しみや恨みの感情が晴れる事はないのに。これは俺自身がアリエッタへの気持ちを晴らす為に施そうとした、身勝手な行為なんだ。

「でも、アリエッタ……」

だからといって、俺はお前を放っておく事は出来ない。そう思ってしまうのは俺の我が儘なんだと思う。

「違うですの。ライガさんはご主人様のせいじゃなくてボクが、んぐっ」
「お前は黙ってろ」
「みゅう……」
「ごめんな、ミュウ。俺は大丈夫だから」

ぴょこんと道具袋から出てきたミュウを、ややこしい状況になる前に押し込んだ。耳を垂れて落ち込むミュウに詫びを入れ、その代わりに中から小さい箱を取り出す。それは塗り薬や包帯等が入った小さな救急箱。ティアやナタリアが居ない状況に陥った時、簡易ではあるが怪我の処置が出来るようにガイに持たされた物だ。これでアリエッタの脚に処置を施す。使い方は既にガイから習ってあるので問題はない。

「時間がたてば動けるようになるから放っておいて」
「確かに俺は、お前の母親の事があったから、お前に何か出来る事はないかなって思った」
「だったら、放っておいて……!」
「でも!俺が最初にお前を助けようと思ったのは、何も罪の意識だけじゃないんだ」

多分、ジェイドやティアには甘いと怒られるんだろう、なんて考えてから苦笑する。それもその筈。アリエッタを見掛けた時、無視しようと思えば出来たのに俺がしなかったのは何故だと思う?今すぐにでも逃げようと思えば逃げられるのに出来ないのは。敵だからと見捨てる事が出来ないのは。

「なんか、お前。放っておけなかったんだよな、小さくて」
「……な、そんな理由で?」
「血を流して倒れてるのを見たら、放っておけないっつーの。ほら、お前女の子だし?正直、もしシンクやリグレットだったなら、無視してたと思う」
「なんで……。アリエッタ、ただの子供じゃないよ。これでも軍人。生き延びるすべも耐え抜く力もある。それにアリエッタ、今まであなたを邪魔してきた、これからもあなたを殺そうとする敵だよ。それでも助けたいって思ってるの?」
「そうだよ」
「……それってただの馬鹿、です」
「知ってる。ティアにもよく言われるんだ」
「……」

それ以降アリエッタは何も言わなくなった。どうやら諦めて大人しく処置をさせてくれるのだと受け取った俺は、早速作業に取り掛かる。
ガイから教わった事は、可能ならまず綺麗な水で傷口を洗う事。周りに水場がないので、飲み水を使用して血だらけの太股を洗った。傷口がしみるらしく、今まで平気な顔をしていたアリエッタも相当痛がっていた。次に薬をに塗り、ガーゼを当てた。そこから包帯で固定する。ガイに教えて貰ったばかりの時は目茶苦茶だった包帯巻きも、練習したおかげで今では少しだけ不格好ではあるが、きちんと巻けるようになった筈だ。

「おっし、出来たぞ」
「……まだ痛いけど、ちょっと楽になった」
「そうか良かったな」

アリエッタはゆっくり立ち上がると、自分の脚を確かめるように動かす。
気が済んだのか、次にアリエッタの視線は俺へと真っ直ぐ向けられていた。

「アリエッタを助けた事、後悔しても知らないから」
「うん」
「おまえはママの仇。アリエッタは総長達の命令できっとおまえ達を邪魔しに行く。次に会った時はお互い敵同士、……です」
「分かってるよ」
「ライガ、行こう」

そう言ってアリエッタは魔物に乗り込んだ訳だが、直後にあっという小さな声が上がった。それはまるで、忘れていた何かを突如として思い出した時の感じによく似ている。何かあったのだろうかと心配をしていると、アリエッタが魔物から降りてきた。

「アリエッタ?」
「前にイオン様が言ってたから。人に助けて貰った時はちゃんとお礼を言いなさいって」
「イオンが?」
「そうだよ!イオン様が」

アリエッタの言うイオンとは、やはり被験者(オリジナル)の事なのだろうか。それとも、俺の知っているイオンの事なのだろうか。被験者の死を知らないアリエッタの前でその疑問を口にする事も事実を話す事も出来る筈がなく、先程とは打って変わってぱあっと嬉しそうにイオンの事を話すアリエッタに、平然と何でもないような顔をして合わせるしかないのが、もどかしい。同時に胸が締め付けられるように苦しくて、チクチクする。痛い。

「だから、助けてくれてありがとう、です。さよならっ!」

ぺこり。律儀にお辞儀をすると、アリエッタは再びライガに乗りこんだ。そして俺を一瞥した後、次に一目散に走り出して行ってしまった。残された風が通り過ぎ、髪や服を揺らす。魔物の脚はとにかく速い。そこから幼い背中が小さくなるのはあっという間の事だった。

アリエッタと魔物の姿が完全に見えなくなったのを見送ると、俺も当初の予定通り仲間との合流を果たす為、再び歩みを始める。


「次に会った時は敵同士、か……」


少しだけ残った胸の痛みを抱えながら。



12.2.4
//残ったのは、この胸の痛みだけ