泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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ヴェイ←アニ(←ティトレイ)。
クレアの事情が判明している終盤です。





最初は無口で怖い人だなと思いました。
表情がころころ変わっていくマオとはうって変わって、彼はいつも無表情そのもので。彼の表情が大きく変わる時といえば、戦闘で前へ切り込んでいく時の勇ましい姿と、"彼女"の事を話す時くらい。
それに加えて口数が極端に少ない人だから、喋り辛かった事もあって、自分勝手に気まずさを覚えていたりした時期もあったりしました。
彼は冷たい人だと。
でも、本当はそうじゃなかった。何を思っているのか分かりづらくて、冷たそうに見える彼だけど、わたしが怪我をした時にはそれがどんなに軽症でも必ず大丈夫かと一言声をかけてくれるし、戦いで後方にいるわたしをさりげない動きで庇ってくれる事が何回もあった。
そうやって無口なりの彼の優しさに触れて、わたしは次第に彼が無表情に見えても、よく見ると眉が若干釣り上がっていたり、逆に下がっていたり、瞳に優しさが込められていたりとか、感情によるほんの些細な変化を見分けられるようになっていきました。
そして知ったんです。彼は冷たいんじゃなくて、ただ不器用なだけなのだと。

そこまで深く知ってしまえば、わたしが彼に惹かれていくのもそう時間はかからなかった。
わたしはヒトとして、そして男性として彼を好きになってしまったのです。

本当は分かっていた筈でした。
わたしは彼の隣には決して立てないという事。
彼の隣にはわたしじゃない"彼女"がいつもそこに居たから。
物理的な距離など関係なく、いつも寄り添う二人の姿がわたしの目には映っていた。
それでも彼の傍にいられるならと、せめて、この旅が終わるまでは……。
でも、


――彼の笑顔を見た時、わたしの中にある何かが崩れていった。


宿屋のロビーで二人がいたから、ただ話しかけたかっただけなんです。
でも、わたしには出来なかった。
だって、その時の彼といったら笑顔だったんですよ?
あの彼が。不器用な筈の彼が。彼女と一緒にとても楽しそうに談笑していた。
少し困ったように眉を下げながら、今まで見てきた中でも、とびっきりの優しい表情をしながら。
わたしは、あんな表情をした彼を他に見た事がない。あんな顔、わたしどころか、マオにもティトレイさんにだってきっとさせられやしない。
彼女にしか、クレアさんにしか出来ない。
姿は全く違う彼女なのに、心はまさしく本物だ。

わたしは、たまらなくなって、思わずその場から逃げてしまいました。
見たくなかったんです。心から笑う彼と、それを自然に引き出せてしまう彼女を。

二人との距離を遠く離すように、わたしは夢中で走りました。
途中で転びそうにもなったけれど、気にも留めずに走りました。
そうやって息が苦しくなってきた頃には、人気のない街のはずれにさしかかる辺りまで来ていました。
家の壁に背を預けて、疲れた身体と心を落ち着けるわたし。
……多分、無理だ。
時間が経って身体は癒されても、きっと心はどんなに落ち着けても元には戻らない。
医者が身体を治しても、心まで治せないのと同じ事だ。
ううん、思えば元に戻らないのは最初からだった。
恋という名の病気にかかってしまった時から、わたしの心はもう治せない。
もし治す方法があるとすれば、それはこの恋心を捨てる事だけ。

……もう、いいかもしれない。
せめて、旅が終わるまでは抱えていきたかったこの淡い恋心。
もう限界なんです。彼を見るのが辛いんです。苦しいんです。
だから、もういいよね……。

さよなら、わたしの恋心。
さよなら、わたしの初恋。
さよなら、わたしの……。




ぽつり、ぽつり、ぽつり。
雫が落ちてきて地面に水玉作ったかと思えば、やがてそれは激しさを増しながら全体を覆っていく。
わたしも例外ではない。濡れる事さえも構わず、落ちてくる雫を全身で受け止める。
雨。わたしの手の中にある能力と同じ。いつもだったら慌てて雨宿りが出来る場所を探すというのに、今はこの冷たい雫を感じていたい。
まるでわたしの代わりに空が泣いてくれているような、そんな気がしてしまったから。

「アニー?」

「ティトレイ……さん」

「雨、いきなり降ってくるものだからさ、雨宿りできる場所をーって……、泣いているのか……?」

「何言っているんですか。気のせいですよ」

「でもよ」

「雨、ですから」

「……」


降り注ぐ雨よ、わたしの想いも痛みも全部、洗い流してください。
この涙と一緒に。








ティト→アニになる前に力尽きました。
緑(あお)と青をかけてます。
以下おまけ。



「風邪、ひきますよ」

「アニーだって同じだろ」

「……何も、聞かないんですね」

「おれは、言いたくないことを無理に言わせる趣味はないつもりだぜ?」

「……」

「気が済むまでそうしてればいいさ。そしたら後で、一緒にユージーンに怒られに行こうぜ」

「ティトレイさんが一人で怒られたくないだけじゃないですか」

「へ、ばれたか」

「(ティトレイさんの、ばか)」


12.9.5
//雨緑