泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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虚ろな少女の瞳。
その奥に秘められた感情があるのを知っている――。


まだ自分が何をどうしたいのか、自信も意味も見い出せていないその足取りは非常に重く、いつ止まってもおかしくはなかった。
折角逃げて来たというのに、このままカオスの連中に捕まったら意味がない。だからといって、自分はカオスの戦士だからと、気弱に俯いたままのこいつを放っておける訳があるはずもなく、だからこいつの手を再び取ろうと思った。逃げる為に、こいつが自分の意思で歩いていけるように、オレが道しるべみたいなものになれば良いと思いながら。手を取ろうとした、んだけど……。

「うわっ。おまえ、手冷たいなぁ」

こいつの手を握った時に思わず漏れ出た感想がそれ。
顔も態度もふざけたピエロから逃れる為、そして、当初の予定通りコスモスがいる聖域に辿り着く為に、オレ達が雪山からひずみに入り込んでから大分経ったはず。それなのに、オレより小さくて柔らかい肌から伝わるのは、ひんやりと冷たい感触だけだった。もしかして、冷え性ってやつなのか。露出した腕と脚、白い肌を見れば見る程、心配になってくる。女の子は身体を冷やしちゃいけないっていうし……。

「えーっと」
「……、だから」
「ん?」

『着るもの貸そうか』
なんて言おうと思ったのも束の間だ(と言っても、オレも大して変わらない格好だけど)

「何か言った?」
「破壊しか出来ない、何も感じない心だから」
「は?」
「ケフカが言っていたの。お前が破壊の力を持っているのは、キンキンに冷えた氷の心を持っているからだ。凍えて何も感じない、それがお前のあるべき姿なんだって」
「ケフカって、さっきのふざけたピエロの事か」

オレの問いに一瞬答えを迷っていたものの、最終的にはこくり、と静かに肯定した。

「なんだ、それ。どこまでもふざけた奴だな」

あのふざけた奴がふざけた事を言っている姿が安易に想像が出来てしまい、この上なく腹が立った。
冷えた氷の心? 何も感じないだって? ふざけるなよ。
こいつは確かに言ったんだ、戦いたくないって。これを意思と言わずして何と言うんだ。
あいつはこいつを自分の所有物みたいに扱っていたけれど、奴らに従うがままの意思のない模造品(イミテーション)と同じだなんて言わせるかよ。それがこいつのあるべき姿? そんなの、絶対に違う。

「私、自分が怖い……」

だが、今の一番の問題は、肝心のこいつが自分が意思を持てる事、いや既に持っているという事を自覚していない所だと思う。破壊の力と冷たい心を持った自分と教えられてきたこいつは、自分を恐れている。どうすれば、こいつは自分の意思を掲げて前を歩いて行けるようになるだろうか。

「なぁ、知ってるか? 手が冷たい奴は、その分心が温かいんだってさ」
「えっ? どうして……?」
「オレもそこまでは知らない」
「……」
「あ、信じてないって顔だな。だったら、これでどうだ」

オレはこいつの手を取ってぎゅっと握りしめた。手のひらにじんわりと冷たさが広がって、熱の中へ混ざり合って溶けていくのを感じる。

「あ……」
「こうしていれば、じきに温かくなるだろ。な?」
「……貴方の手はやっぱり温かいのね。私とは違うわ」

その言葉を聞いたオレはおかしさのあまりに思いっきり笑って見せた。おかしい事を言ったのかとでも言いたげに呆然と目をぱちくりさせるこいつ。
ほら、やっぱりおまえは何かを感じられる。そんな心をちゃんと持っているじゃないか。

「おまえの手は、心は、感じているだろ?」
「うん……」
「おまえの心はやっぱり温かいよ」
「そう、なの?」
「そうったらそうなんだよ!」

半ば納得させるように言った言葉、ちゃんとこいつに届いただろうか。
手の中でぬくもりが感じられるようになるまで、オレはこの手を決して離さなかった。


13.2.27
//あの日のうた