泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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知られざる物語の主人公ヴァンの話






――戦いの果て。
次元の狭間とやらでイミテーションの大群と戦い続け、やがて力尽きたオレはそのまま消えるはずだった。はず、だった。そう、何故だか分からないけどオレは変わらずここにいる。気が付くとこの世界にいて、まるで長い夢を見ていたかのように目が覚めたんだ。
イミテーションは復活すら望めない死をもたらすんじゃなかったのかよ!ってどっかの誰か(なんて言うんだっけ、あいつ)に突っ込みたかったけど、どうやら何かが違うらしい。この世界にいる住人、オレの事を忘れた知り合いは確かに言ったんだ、コスモスとカオスの戦いなんて知らないって。
よく分からない事が沢山あった。頭を使うのは得意じゃないってのに考えて考えて、頭がぐるぐるになったよ。本当に夢だったんじゃないかとどうしようもなく不安に駆られて、隠れてこっそり泣いたりもしたっけ。それから立ち止まったままくよくよ悩んだって仕方がないからと、手掛かりを探すことにしたんだ。やっぱりオレは頭で考えるより身体を動かしている方が好きだって改めて思ったね。
途中で鎧のオッサンに出会い、話を聞いた。この世界に迷い込んでくる者を戦いの舞台に送り帰す。こうしてオレが知っている世界が存在している事の確証を得たわけだ。
救われた。今ならオレの心は模造品なんかじゃない、本物だって確信出来る。オッサンの言葉により、元の舞台に戻れる事さえも理解した。でも結局オレはここに残ることを選んだ。だって、原理とやらは分からないままではあったものの、この世界にいる奴を放ったままにしておけなかったし、何よりオレはあっちの世界で残った奴らの可能性を信じていたから。きっとアイツらなら大丈夫、終わりのない戦いを終わらせてくれる。だから、この世界にいるオレはオレが出来る事をしようと思ったんだ。
暫くしてヘンなモーグリとも会って、数えきれないくらいの色々な事があった。

それも、もう終わりだ。
いや……、もう終わったんだ。
混沌の神の成れの果てを倒し、大いなる意思を解放する。役目を終えた世界はやがて終わりを告げるかのようにゆっくり、ゆっくりと、淡い光に包まれ始める。
オッサン臭いモーグリ……いや、ルフェインのシド(って言ってたっけ?)とは解放の後にその力を用いてオレを元いたオレの世界に返すという約束だ。
周りの景色が消えていくのと同時に色濃くなっていく眩い光の中で、女の子の姿だけがはっきりと見えた。この世界に来てからというもの、ずっとずっと、オレの傍にい続けてくれた女の子はいつもと変わらず顔を俯かせたまま、口を開く。

「……あなたとは、これでお別れね」
「何言ってんだ。行くぞ」
「え?」

オレは気弱そうに俯いている女の子――ティナの手を取った。案の定だ。前もって予想した通り目をまん丸にぱちくりさせて驚くティナの姿に思わず笑みが零れる。それは、あの日見たものと一緒だった。
思えば、こうやってティナの手を取るのは三度目だ。一度目はカオスのふざけたピエロから逃れる為。
二度目はこの世界で俯いていたこいつを見つけた時。元いた世界で最後に見た、柔らかく微笑んだあいつの姿とはまるで違う、初めて会った時の、操られていた時に戻ったような、覇気をなくして夢も希望もありませんって様子のこいつをどうしても放っておけなくて色々な場所に連れ回していた。今にして思えば、そうする事で果たせなかった約束の代わりにしたのかもしれないな。

「駄目だよ」

透き通った芯のある声が響く。覇気がなくずっと連れられるままに行動してきたティナがはっきりと自分の意思を示した。信じられないものを見るような気持ちでオレはティナの方を向いた、瞬間、ざわざわとオレの心が揺れて掻き乱される。さっきまで見せていたおどおどとした様子とは違う、丸くて大きな瞳は力強く真っ直ぐとオレに向けられていた。意志の宿る瞳がオレを硬直させる。
逆に引っ張られた手が表しているそれは、明確な拒絶の意思だった。変だよな、動揺と裏腹にそれを嬉しいと思うなんてさ。拒絶は強い意思の表れ。オレという支えによって消極的に歩いてきたティナがようやく自分の足で立ち上がった事への証明だ。

「大いなる意思から聞いたでしょう? 私の居場所なんて最初から存在しない。還る場所があるならそこに還るだけであなたについていく資格なんか私には、ない。だって、私は……」

でもさ、悪いけどそれとこれとは話が別なんだよな。
言い終わる前にオレも負けじと引っ張り返す。予想外の反抗だったのだろう。簡単に体勢を崩され思いっきり前に倒れ込むティナをすかさず抱き寄せた。有無を言わさないように胸に押し付けて、逃げないように腰にまわした腕にぐっと力を入れる。

「関係ない。居場所がないなら一緒にオレの世界に来ればいいし、オレが連れて行きたいと思ったから連れて行く。それだけだ」
「ヴァン……」
「例え離せって言われても絶対に離してやるもんか」

――三度目の今、オレは決心をしていた。腕の中にあるこの確かな温もりを決して離さない。離したくないんだ。あいつと同じだとか、守れなかった約束だとかはもう関係なかった。一緒に過ごしていく内に胸の中で育まれた想いがオレを突き動かす。こいつを笑わせたい。絶望の淵にいるこいつに希望を持って欲しい。後ろばかり見ているこいつに明日を望んで欲しい。人の温かみを、寄り添う事への安心感を感じて欲しい。広大な砂漠や栄える都とでっかい王宮……生まれ故郷、今日という日を懸命に生きている人々の熱意、待っている温かい人達、オレの好きな花、好きな食べ物、目指している夢、とか、偉大なる空はどこまでも続いていてそこには自由がある事、全部全部知って欲しい。
だから。

「私の中で微かに残る記憶は、戦いのものだけだった。そんな私でも望めるのならば、自由……見てみたい」
「行こう、ティナ」
「あなたとならどこまでも」

ティナっていい名前だよな。
一度はド忘れしてしまった事を棚に上げて考えていた。でも、口にしようとは思わない。そんなのはこれからいつだって言える。焦る必要なんかないんだ。
眩い光が俺達までもを飲み込んでいく。
さあ行こう、この先にある彼女と過ごす未来へと。

15.11.7
//地獄の果ての虹色の空