泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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パンネロ→ヴァン→バルアシェ








それはフォーン海岸を抜けた辺りだったか。アーシェとバルフレア、二人がよく一緒に話すようになったのにヴァンが気が付いたのは。
アーシェらが小難しい話をする事は以前からよくあったが、耳を傾けた所で自分の頭で噛み砕ける程に理解出来るかどうかなんてとてつもなく怪しかったので、大体は遠くから見ているだけだった。彼女らも余計な横槍を入れられたくないのか、それをさほど気にしない。
アーシェを中心に難解な話をしている横でパンネロと無邪気に会話を楽しみつつ、アーシェらの旅に同行する。例え自分が蚊帳の外にいたとしても、それはそれで良かったのだ。自分は自分の目標を見つける為に、ここにいるのだから。生まれ育った街から一歩踏み出して、一緒に旅をして、アーシェ達を見ていれば自分の中にある答えを掴めると思っているからだ。
しかし遠くで見ていたヴァンだからこそ、誰よりもいち早く気付けたものがある。二人の些細な変化、一緒にいる事。何よりも、遠目から伺える程のアーシェが纏っていたピリピリとした雰囲気が若干和らいだ気がした。


足休めの為に一行が休憩時間を取った時、またもや二人は一緒にいた。バルフレアがすまし顔で軽口を叩き、アーシェが反応する。
この様子を遠くからじっと見つめるヴァンにパンネロは駆け寄り、どうしたの?と声を掛ける。思っていた以上に集中していたようで、ヴァンはパンネロの声に驚き退いてしまった。慌てて体制を整える幼なじみの姿にパンネロは不思議な様子で訝しげに見つめる。

「ヴァン……? 大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫」
「あ、……。バルフレアさんとアーシェ。最近よく一緒にいるよね」

このパンネロの一言はちくりと針が刺さったかのような痛みを感じさせた。ヴァン自身、どうしてこのような痛みを感じるのかは分からなかった。
気付いた時には、二人を呼んでくると言ったパンネロの腕を掴んで制していたのだから、答えは完璧な形を成す前に崩れ去ってしまう。

「ヴァン?」
「ダメだ」
「え、でも、もうすぐ出発するってフランが……」
「なら、その時に呼べばいいだろ」
「……ヴァン、何かヘンなものでも食べた?」
「いや、朝からパンネロと同じものしか食べてないけど」
「そう……」

パンネロは戸惑う。頭に落雷が直撃したかの如く驚き、戸惑う。何故ならば、この幼なじみはTPOという概念が存在しないんじゃないかと思ってしまうぐらいの鈍感さを発揮する事も多く、重い雰囲気も緊張感も持ち前のマイペースさでぶち壊し、自分を含めた仲間達に呆れる事が今まで山ほどあったからだ。それはヴァンの短所であり、長所でもあるとパンネロは考えているのだが……。
ともかく、このような性質を持った幼なじみが二人の雰囲気を察し、気を遣うなどと何か勘ぐりたくもなるのだろう。
ヴァンはパンネロの少しばかり失礼な意味合いが含まれた問いに興味を示さず、再びあの二人へと視線を向けた。
何故だかは分からない。分からないが、あの二人の間に割って入る事はしたくなかったのだ。いつもの気を張った姿勢ではなく、穏やかな顔をしているアーシェ。それを引き出すバルフレア。自分には到底あんな表情をさせられない。何か勘に障る事を言って怒らせるのがパターンとして多い気がする。だから、あのままで良い。

「……ねぇ、ヴァンはアーシェのことが好きなの?」

幼なじみの唐突な発言にヴァンは驚いたが、間を入れずに当然のように言い放ってやった。当たり前だろ、仲間なんだから。
パンネロが何かを言いかけた時、良いとも悪いとも言えるタイミングに前方からバッシュの呼びかける声がした。時間だ。ヴァン達の遥か後ろにいるバルフレアとアーシェも振り返る。
行こうぜ、ヴァンはパンネロを促すと、先で待つバッシュとフランの元へ一足早く駆けて行った。

(違うよ。そういうことじゃ、ないよ。ヴァン……。ねぇ、気付いてる?)

「ヴァンの視線は二人に向けられたものじゃなくて、きっと――……」

パンネロの小さな呟きは誰にも聞かれる事なく、先が紡がれる事もなく、やがて霧散した。
またもや答えは形を成す前に崩れていく。


13.6.8
//少年Aと少女Bの恋