泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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病みじんたん→→→→→めんま
バッドエンド
ちょいエロ救われない







数日前、俺は友人達に告げた。「めんまはもう消えてしまった」と。今までずっと見えていた幼なじみの幽霊が突如消えて、悲しみに暮れる哀れな少年。それが今の俺だった。わざとらしく落ち込んだ様子を演出し見えなくなったんだって力なく言えば、安城と久川は親身になって俺を慰める。あの時の事を思い出すと、駄目だ滑稽で笑っちまう。鶴見と松雪は……どうなんだろうな。あいつ等結構鋭いから。納得したように見えても何か考えを巡らせているかもしれない。特に松雪は、めんまに並々ならぬ執着心を抱いているらしい。でも、めんまがまだ俺の所にいるかなんて、わざわざ確かめに来れると思うか?来れないだろうな。めんまの事が好きだった松雪が、俺の所にいるめんまを頑なに認めようとしなかった松雪が、めんまを認識出来る唯一無二の存在である俺に。プライドを捨ててまで聞けるはずがない、そうだろ?
……と、まあ、前置きは以上にしよう。有り体に言ってしまえば、俺はお願いを叶えてほしいと言っためんまの望みを自分の望みと引き換えに放棄した。


****


カーテンの隙間から漏れる光が眩しく、とても恨めしい。出来るなら隙間さえも塞ぎたいぐらいだが、真っ暗っていうのも不便だからまあこのぐらいなら良いかもしれない。とか何とか妥協している内に手が伸ばされたものだから、慌ててカーテンを開こうとした手を制す。良いじゃねぇか。この薄暗さが今の俺達を表しているようで、とても心地いいんだよ。
不満げな顔でベッドの上におわすはさながら囚われのお姫様。だとしたら俺はお姫様を侍らす魔王ってとこだな、なんて一人苦笑い。

「じんたん、こんなのもうやめよ?」

太陽の光が照らすお姫様の細っこい左足首と左手首には、愛らしい雰囲気に似合わずロープが巻かれている。姫――めんまの行動を制限させる為に俺がやったもの。今やめんまが行動出来る範囲はわずかベッドとその周辺だけで、ハサミやカッターといった道具はどかし、ネットで簡単には抜け出せないよう結び方まで覚える気合いの入れようだ。いくら幽霊と言っても、めんまには実体があって、物は掴めるし外へ行くのには敷居を跨がなきゃいけない、そんな普通の人間と謙遜のない存在だから、こんな事だって出来る。そんなにキツくはしていないつもりだったが、抜け出そうともがいたのか見ればそこは少しだけ赤くなっていた。ごめんな、こうでもしなきゃお前は俺の元から逃げ出しちまうからさ。
悲しみと恐怖と思い遣りと失望と優しさが全部ごちゃごちゃに混ざったような声色でめんまは俺に向けて言う。

「目の下のクマさん。顔色もよくない。睡眠ちゃんととらなきゃダメだよ。そうだ、ねえお日様たくさん浴びるのはどうかなぁ。明るいところ、気分が晴れやかになって気持ちいいよ。『学校』には行かなくなっちゃったし、お外だってろくに出てないんでしょ? おじさん心配してるよ。みんなだってきっとじんたんのこと、」
「みんなとか関係ない。俺はめんまさえいてくればそれで良い」
「でも、じんたんっ!」
「めんまさえいてくれれば何もいらねぇよ」

かつての友達や、親だって、めんまを目の前にすればどうでもいい事に変わっていった。携帯も、パソコンも、ゲームも、別になくていい。もしも全部で引き換えられるっていうなら俺はそうするだろう。それらは全部めんまの前では等しく無価値なものにしか見えなかった。
本当はめんまにも俺がいてくれればそれで良いよって言ってほしい。でもわかってるんだ。めんまは俺一人よりも『みんな』が幸せでいる事が一番大事で、『みんな』がかつてのように一緒にいるのを望んでいるって事は。どんなに引き止めようと手を伸ばしたってめんまは俺を選ばず、するりと抜け出しては『みんな』の所へ行ってしまう。
次第にぽろぽろと、めんまの瞳から涙が溢れ出した。お前、相変わらず泣き虫なんだな。

「なんで、そんなこと言うの。……めんまのせい? めんまがじんたんのとこに来たからじんたんおかしくなっちゃったの?」
「違うって、そんなんじゃねぇよ」
「違わないよ! どうして……? めんまがいなければ、こうはならなかったの? ……っ、めんまがじんたんのとこ来なければっ?! うう、ごめんね……、ごめんなさい……っ」
「めんま!!」

俯いて泣きじゃくるめんまの両腕を咄嗟に掴むと、涙に濡れて光るめんまの瞳が真っ直ぐ俺を捉えた。
ああ、お前の言う通りだ。俺おかしくなっちまった。これでも十分自覚はしてる、俺は異常だと。だけど、これだけは言えるんだ。めんまが俺の所に来てくれた事、後悔なんかしてない。めんまがいなければ?そんなの今更考えられる訳ねぇよ。
なあ、どうしてお前はこんな状態で、こんな状態を作り出した元凶である俺なんかの為に泣いてくれるんだ。何故俺じゃなく自分を責めるんだ。馬鹿だお前、お人好しにも程があるぞ。昔っからお前はそうだったよな。

「んな事……、言うなよ。俺はさ、嬉しいんだ。何も見いだせず惰性でただ生きているだけの腐ってたあの頃とは違う。めんまと一緒にいられて、毎日が楽しくてさ、明日を生きていこうって思える。俺、今とても幸せなんだ。だから」

ごめん、一つだけ嘘だ。
本当は明日なんか来てほしくない。ずっと、ずっと、今日が続いていけば良いのにって、満ち足りたこの時間で世界が全部止まってくれれば良いのにってずっと思ってる。でも無情にも明日は待ってくれないだろ。待ってくれないから、ここにめんまを繋いでおくしかない。
めんまの頬を拭ってやるけれど、でも止まらなくて、溢れ続けて……。
なんていうか、こんな状況だっていうのに俺の為に泣いてくれているめんまが可愛くて愛しくてたまらないって思う俺は、とんだ異常者の変態だなって痛感する。松雪の事、何も言えねぇや。濡れている頬につい唇を寄せて思わずぺろり。するとひゃあって悲鳴のような声を上げ、濡れた瞳で呆然とめんまは俺を見つめる。戸惑いの表情、瞳はこう告げていた。どうして?めんまの涙を飲み干したくなったんだ、仕方がないじゃないか。俺の為に流しためんまの涙。しょっぱいけど、めんまのだったら一滴残らず飲み干せると思うんだ。
…………。

「じんたん……?」

無垢な瞳は俺を煽る。昂ぶった熱を持て余すのも、もう限界のようだ。小さなめんまの身体をベッドに押し倒して、覆うように被さると求め始める。他には何もいらない、今はめんまの全部が欲しい。
めんま、めんま。例え歪だったとしても俺は。

「あっ、じんた……っ、んん」
「めんま、すげーかわいい」
「だ、め、……こんなの、やあ……っ」
「っは、めんま……、好きだ、めんま……!!」

それはあの時に言えなかった言葉。ずっとずっと、秘めていた俺の気持ち。なあ、めんま。お前を繋ぎとめる為ならなんだってするよ。友達は騙すし、倫理だって簡単に踏み越えてやる。例えお前を傷付け裏切る事だって平気で出来る。お前となら俺はどん底まで堕ちていけるんだ。
めんまが泣き叫ぶ。こんなのはいやだ、いやだと。そんなめんまのSOSは誰にも届きやしない。めんまの姿は俺にしか見えなくて、めんまの声は俺にしか聞こえないから。逃れようともがく細い身体を押さえつけて穿つ。白い肌に映える痛々しい無数の痕がどうしようもなく俺を昂らせていった。これは証だ、こいつはもう俺からは逃げられないその為の。みんなのじゃない、そう、俺だけに見えて、俺だけに聞こえて、いつも他人の為に泣くめんまが自分の為に俺の前でだけ泣いてくれる、愛しい俺だけのめんま。
唇を落としながら温もりを求めて、力なく開いた右の手のひらに左手を重ねる。弱々しく握られた手、絡まる指と指はまるで恋人のそれだ。
めんまが俺に応えてくれている?
なんて、そんなに都合が良い訳ないだろ。きっと反射的な動きでしかない分かってるさ。けれど、知ってるか。たったそれだけで俺の心は満たされる。また大好きなお前に溺れていくんだ。
めんま、めんま、めんま、めんま。

「愛してる、めんまっ」

――だから、ずっとここにいてくれよ。
透け始めた手の平に気付かないフリをして、目の奥が熱くなるのを自覚しながら何度も何度も名前を呼んだ。


14.9.14
//君に縋り恋を満たす