泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

Text


 


あの決戦の後、後輩に修業をつけてくれと頼まれシロガネやまに篭った日以来、彼――いや彼女と会う事はなかった。
今ではあの気まずい雰囲気を強引に何とかしてくれた後輩には正直感謝している。

けれども、このままじゃいけないとも思ったんだ。今きちんと向き合わなければ俺も彼女もこの件について引きずったままだ。
だから俺は思い切った行動に出てみる事にした。



「お久しぶり、ですね」

「そうだな…」


ブルーの助力も合って彼女を呼び出す事には成功。何とか彼女と話がしたい。
しかし、その先が続かない。

「………」

「………えっと」

おどおどと気まずそうにしながらも彼女の視線は真っすぐ俺を捉えている。
そう言う俺の方も何を言えば良いか分からず、言葉を紡ぐ為に必死だった。

だって仕方がないじゃないか。
今まで男だと思っていた奴が女の子だったなんて、どうすれば良い?何て言葉をかけてやれば良い?

ぐるぐる巡る思考を整理しながらふと目に入ったのは、彼女の頭上にある見慣れた麦藁帽子。


「……帽子、まだつけてるんだな。もう俺には隠す必要はないだろ?」

「癖、みたいなものです。今はこれがないと淋しくて…」


そう言って目を逸らした彼女。
……嘘だ。
すぐに分かってしまった。
揺れ動く瞳から読み取れる彼女の動揺が、それ程までにこの件について気にしている事を示していた。


「なぁ帽子、外してみてくれないかな?」

「……分かりました」


両手でゆっくりと、静かに外されていく帽子。その過程で現れる後頭部。やがて、ぱさりと音を鳴らしながら後ろのポニーテールが彼女の背に落ちていった。
恥ずかしそうしながら斜め横に俯くと同時に揺れる長い髪。彼女の名前と同じである黄色に、気付くと見とれていた自分がいた。

……変だな。見たのはこれが初めてではないのに。


「やっぱり、君は女の子なんだよな。ごめんな。知らなかったとはいえ、今まで無神経な事を沢山言っていたと思う」

「い、いえっ、隠してたのはこっちの方ですし、謝るのもこちらの方です。今まで騙しててごめんなさい」

彼女が頭を下げた時、不意に視界の奥に映る黄色い生物が見えた。

ぴょんっ。

「あ…」

「へっ?」

だらしなく声を上げた時にはもう遅かった。
黄色い生物は勢いよく彼女の頭に飛び付き、バランスを崩しかけながらも何が起きているのか把握出来ないでいる彼女。
ここで彼女と会った最初の時、イエローに連れられたメスのピカチュウ、チュチュと再会して喜びながら遠くへ駆けて行った筈の"ヤツ"。
呆気に取られてぽかーんと立っていた俺のすぐ傍らではチュチュがくすりと笑っていた。

やがて上がる小さな悲鳴。

「わっ、駄目だよピカっ。今レッドさんと大事なお話中……っていうか帽子かぶってないんだからっ」

「あはは!イエローの髪、ぐちゃぐちゃだ」

「わーっ!ピカっ離れてってば!」

楽しそうに彼女の後頭部ではしゃぐピカを慌てて引きはがそうとする度に髪はぐしゃぐしゃにされていく悪循環。
事態が悪化していくその様に段々堪えられなくなってきた俺はいつの間にか腹を抱える程に笑っていた。


「ははははっ!!」

「レッドさんも笑ってないでピカを止めてくださいっ!」



やっとの思いで引き離した後の彼女の頭はお世辞にも状態が良いとは言えず、纏められた髪からは所々ぴょこんと飛び出していたり、大袈裟に飛び出ていたり。
とにかく酷い有様としか言いようのない状態だった。

涙目になりながらむすっと怒りを見せる彼女。
男だと思っていた時にこうした場面に遭遇してもやれやれと苦笑いを浮かべて慰めていたのだが、今では可愛いとすら思ってしまう。

これが、女の子。
これが本当のイエローの姿なんだ。


「もうっ、本当にぐちゃぐちゃ…。今軽く直しますから待っていてください」



髪留めを外した彼女の髪が広がる。
その刹那―――、

(…………!!)

吹き抜ける風が彼女の髪を揺らした。
風に乗って微かに香る甘い匂いは彼女が使用しているシャンプーの香りだろうか。
抑えた右手から零れ落ちるようにふわりと舞い上がる彼女の長い髪。

目が離せない。ああ、この瞬間時が止まってしまえば良いのに。

そう思ってしまう程、彼女に心を奪われてしまっていた。




「風が出てきましたね。……レッドさん?」

「………なわけない」


「え?」


「いや、なんでもないさ。せっかくだから、どっか遊びに行こうぜ。男同士としてではなく、今日は女の子として君を誘うよ」

「ありがとうございます。行きたいですっ!」


無邪気に笑う君。
ごまかすように俺も笑顔を見せた。

あるわけがない。
今まで男だと思っていた奴に恋心を抱くなんて、あるわけがないんだ。








(追われる側から追う方へ)




〜おまけ〜

「……なぁ、イエロー。今日は髪、降ろしててくれないか…?」

「えっ?……〜〜っ。わかりました。レッドさんが、そう言うのなら…」



一番やりたかったのはおまけだったりする。

11.8.8
//逆転する恋