泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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時系列的には新約。
上イン、通行止め前提。









騒がしい打ち止めとの攻防が打ち止めの昼寝という結果で中断された時、一方通行はこれ幸いと黄泉川宅を抜け出した。
コンビニでいつもと同じように大量の缶コーヒーと少量のお菓子を買っていく。
これは、その帰りに起きた事だった。
道端の自動販売機の前でうーんうーんと唸っている顔見知りの白い少女がいたのだ。白い修道服に包まれ、銀髪を揺らす白い少女の横顔が。

「あァ?」

ここで一方通行は失態を犯す。無視してやり過ごそうと頭で考えつつも声を上げてしまった。
自分が言うのも何ではあるが、その白い風貌は現代科学社会では目立ちすぎるのだ。無視しようにも仕方がないかもしれなかった。
少女の白い頭が揺れる。

「あ、」

ワンテンポ遅れて少女の方も気付いたようだった。

「迷子の人だ!」

突っ込み所のある呼び方はとうの前に諦めたのでスルーするとして、一方通行を見た瞬間に笑顔を咲かせる白い少女を見た一方通行は溜息をつく。こうなっては躱せまいと、諦めた瞬間だ。

「今日はあの三下どォしたよ」

さんした?と一方通行の言葉を繰り返すように告げてからぽかんとクエスチョンマークを浮かべるように口を開けて首を傾げる少女を見て、一方通行がカミジョウと言い直す。すると、ああ、とうまの事だねと納得したらしい少女が左のてのひらに右の握りこぶしを押し付けて笑う。

「とうまはもう、学校が終わっている頃かも」

その口ぶりからしてどうやら今日はあの少年を探して出歩いている訳ではないらしい。

「で、自販機前で何してやがンだ」
「うーん、小腹が空いたからね。とりあえず、小銭は持っていたからコーンポタージュでも買おうかと思ったんだよ。でも……」

白い少女が目をやる自動販売機を同時に見る。ディスプレイを搭載したタッチパネル式の自動販売機だった。このような最新型の自販機は、学園都市では特段珍しくもない。

「選ぼうとしてたら、画面が勝手に変わっちゃって……」

時間が経つと広告が入る仕様になっているそれは、現代科学社会とは縁のなさそうな少女には難しかったらしい。一分や二分ぽっちで切り替わるような仕様ではない筈なので、タッチパネル式自体に四苦八苦していたのが安易に想像がついた。

「それでよく手ェ出そォと思ったな」
「うっ……だって前の人が買って飲んでいたのを見たら私も飲みたくなっちゃったんだよ!」

冬も本番という中温かいものに釣られるのも仕方がないといった様子の少女は目で助けを求める。
一方通行は溜息を吐いてから、画面をタッチしてやる。すると、画面が切り替わった。途端に目を輝かせる白い少女。目当てのものであろうコーンポタージュを押してやった。ガタン、とお目当てのものが落ちる音がすると、白い少女はすかさず下へ手を伸ばす。

「やったー!!ありがとうなんだよ、迷子の人!!」

まるで、とても凄い事を成し遂げたような喜び様に一方通行の方が呆れてしまう。
そして、

「あ、」
「今度はなンだァ」
「あ、あのね、……このぷるたぶーも開けてくれると嬉しいかな」
「……、」

一人でいた時は本当にどうするつもりだったのか。白い少女がプルタブ恐怖症である事までは読めずに、一方通行は今日何度目かも分からない溜息を盛大に吐いた。



ここまで来たらヤケだ。
一方通行はいよいよ白い少女に付き合ってやる事にした。
コンビニで買ったコーヒーを袋から一つ取り出し、開けて飲む。コーヒーの苦味が口の中に広がり、心なしか気分も良くなる。
少女も温かいコーンポタージュをそっと一口飲むと、その余韻の為か一方的に話し始めた。
それは最近の食事情だったり、友達との事だったり、少女から"とうま"と呼ばれる少年の事だったり、だ。特に少年の話になると唯でさえ夢中になって話す白い少女が最も夢中になって煩くなる話題であり、共通の知人という数少ないノれる話題だったりするのだが、口を挟むのも面倒になってしまうのだった。
やれとうまは一人でどこかに行ってしまう事が多くて困るだの、やれとうまの傍にはいつも女の子がいて呆れるだの、やれとうまに傷付いてほしくないのにそんな事もお構いなしだの、やれとうまは鈍感すぎるだの、いつかも聞いたようなそんな内容だ。くるくると次から次へと表情が移り変わる様は打ち止めを思い起こさせた。
……何故だかイライラする。
コーンポタージュとコーヒーがなくなる頃には喋りずくめで白い少女が若干疲れてしまう程だった。少女が缶に残ったコーンの粒と格闘していた頃、

「オイ」
「なに?」
「オマエ、携帯は持っているか?」
「携帯……ケータイデンワーの事?それなら、とうまが持たせてくれたやつを持っているんだよ、ほら。でもどうし、あっ……」

差し出された携帯を引ったくった一方通行は素早い手つきで操作して目的の人物の連絡先を呼び出す。
持っていても持っていなくてもどちらでも良かった。自分の携帯にもあの少年の連絡先は入っている。だが、少女の携帯からの方がより深いダメージを期待できるのは確かだった。
数回の呼び出し音。その後にもしもし?と間抜けな声が耳に届く。

「よォ上条ちゃン。突然だがオマエのとこのお姫サマは預かった」
『その声は一方通行?!っていうか姫っ
て!?預かったって!!!?』
「そォいう訳であばよ」
『ちょっ待っ』

通話を終えて電源そのものを落とすと、口をぽかんと開けて唖然としている少女の目の前に携帯を戻す。それから、はっと我に返った白い少女は携帯を受け取ると途端にうるさく抗議をしてきた。

「とうまに何言っているのかな!?お姫様とか!預かったとか!!」
「こォでもしねェとヤツは気付かないだろォがよ」

少女が吐露してきた本人には隠している本当の気持ちの内の一部。もっと自分に構って欲しい。他の女の子の所に行かないで欲しい。自分を見てほしい。そういった年頃の少女らしい、普段は巧みに隠されている本音というものが少女には確かにあるのだ。

「要はオマエと同じ目に遭えばイイ」
「……な、なるほど??」

頭にクエスチョンマークを沢山浮かべて、分かっているんだか分かっていないんだか曖昧な表情で少女は強引に納得する。

「適当にその辺歩いてろ。死ぬ気で探し出してくれンだろ」
「……前にも思ったけど、あなたはやっぱり良い人だね。私を心配してここまでしてくれるんだもん」

一方通行は何を言っているか分からない、とでも言うかのように不思議な顔をして少女を見た。
良い人?それは違う。自分は只イライラしただけだ。理由は……分からない。上条が嫌な奴だから?聞くだけでも面倒だから?かつて打ち止めを救ってくれた恩人だから?いいや違う。一方通行はこの感情を認めたくないと思いながら、冷静に分析していく。
──嗚呼、この白い少女には曇った顔が似合わないと、真に隣に居るべき者と笑っている姿が一番良いと、そう思ってしまったのだ。
打ち止めに抱いているものと似たようでいて違う想い。
それは、なんてらしくない事か。

(クソッたれ)

一方通行は内心でそう吐き捨てながら空になった缶を自動販売機の隣にあったゴミ箱に乱暴に突っ込む。白い少女はそんな彼の様子を見て、何が嬉しいのかにっこりと微笑んだ。

「もォ面倒見きれねェ」
「うん」
「あとは勝手にやるンだな」
「うん、ありがとうなんだよ」

一方通行は少女に背を向けて歩き出す。そろそろ打ち止めも起きている頃かもしれない。
振り向きはしなかった。
白い二人の少年少女は、自分を待っている人のいる所へと帰っていく。


22.4.16
//White boy and girl