泣かない君へ

  1. Info
  2. Update
  3. Main
  4. Clap
  5. Memo
  6. Home
Last up...12/16 メイン追加
再会の才 / よろずりんく

Text




旧約でヤンデレ上条。












いつものように数々の不幸に見舞われながらも夕飯の買い物を終えて、無事に家路に着く。やがて部屋の前に立つと、鍵を取り出し、ドアを開けた。

「ただいま帰りましたよっと」

しかし、いつものように居候の少女から返事が返ってくることはなかった。それどころか、部屋の明かりすらない状況に上条は怪訝な表情で部屋を見渡す。

(インデックス……?)

明かりを付けるが、やはり人がいる気配はなく。
少女が一人で出掛けるのは珍しくないが、時計の針が指す時間はとうに6時半を超えて外は暗くなっている。

(いつもの不幸が続いた俺はともかく……)

上条の心に暗雲が立ち込める。
夕飯時になると、まだかまだかと心踊らせて急かす少女の嬉々たる笑顔がない。ただそれだけで、上条の心は晴れる事はなかった。
自分が言えた義理はないが、ただでさえあの少女はトラブルに巻き込まれやすいのだ。何があっても不思議ではない、と焦りを滲ませる。
何よりも不安なのだ。少女がこの部屋にいないという事実が。
──だって、本来なら少女はどこへだっていける筈だから。
少女がこの家に執心する理由は、かつて少女を自分ではない自分が救ったからでしかなくて、もしも少女が自分以外の拠り所を見つけたなら、その時は──。
居ても立っても居られなくなった上条は携帯を取り出して番号を呼び出し掛けるものの、軽快な音がベッドの上から鳴ったのを見届けてから舌打ちをする。
やがて痺れを切らした上条が玄関に向かったのと、その玄関先からガチャリ、と音がしたのは同時の事だった。

「ただいまー」
「インデックス!!」

何も知らずに微笑みさえ浮かべる少女の姿を見た瞬間、上条は堪らず少女の肩を引き寄せ抱きしめた。

「とうま……? 」

突然どうしたのか、とでも言いたげに困惑した様子を隠せないでいる少女は目をぱちくりさせながら上条の抱擁をただただ受け入れる。
次の瞬間、上条がばっと勢いよく離れる。ただならぬ雰囲気が引き、その顔があまりにもいつも通りだったから、少女は"それ"に気付けない。
バツが悪そうに上条は頬を掻きながら言った。

「悪い。遅いからさ。その、心配、したんだ」
「……そっか。ひょうかとクールビューティと話してたら、こんな時間になってたんだよ。心配かけてごめんなさい」
「いや、良いんだ。ここに帰ってきてくれただけで」

上条は心底ほっとした様子で笑った。
まだ少女の帰る場所がここである事実が何よりも嬉しかった。

(ここ帰ってきてくれただけで、か)

少女にはああ言ったけど、本当ならこの少女には自分の目が届く所にずっといてほしいと思っている自分がいる事に上条は否定出来ずにいた。
本当は他所になんか目を向けないで、ずっと自分の事を見ていてほしい。

(いっその事、本当にそうしてしまおうか。どこにも行かないように足枷をつけて、誰に目がいかないように目隠しをして)

でも、だけど、それを口に出したら、そうやって汚い欲望を表に出したら、この少女はどこか遠くにいってしまう気がするのだ。
肉体的に離れようとするのはまだ良い。言ってしまえば、鎖で繋げばそれだけで逃げられなくなるのだから。
けれど、心が自分から離れていってしまうのだけは耐えられない。その笑顔を向けてくれなくなるのは他の何よりも耐え難い。
……ああ、なんて醜い所有願望。
隠された本性を晒した時、きっと、少女は自分を拒絶するのだろう。

「晩飯できたぞー」
「わーい!!」

そんな時が少しでも訪れないように、少年はいつものように微笑みを投げかけるのだ。


22.4.16
//所有願望