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学パロ設定。
兄=ワタル。
突然だとは思いますが昔の話をしましょう。
それはまだ、僕が白い箱庭の中で生活していた時の事です。笑っちゃいますよ。
当時の僕は神様なんかこの世に存在しない。もしいるとするならば、死神だけだ。そう思っていました。
『成功率50%あるかないかの手術を受けなければ助からない』兄が重い口で語るのを流し聞くくらいに、当時僕は世界に絶望していたんですよ。
兄はゆっくり考えて答えを出せば良いなんて言っていたけれど、そんな猶予などもうないなんて事は分かっていたんです。お医者さんも看護師さんも口には出さなかったけど、重苦しい瞳で僕を見るから。
手術しなければ死ぬ。手術しても50%以上の確率で死ぬ。そんな状況の中で健気に平常で居ろだなんて酷な話でしょう?
だからもう何もかもどうでも良い思いでした。どうせ助からないのだから何をやっても無駄だ、そう思っていたんです。
『君、何してんの?』
『え……?』
そう、彼に会うまでは。
『世界に絶望した僕の数少ない日課と言えば、空を見上げる事でした。天気の良い日には庭下で、曇天の日には病室で。
その日の事は空が羨ましいと思うくらいに晴れやかだったのをよく覚えています。
日差しが直接当たらないように木陰のあるベンチでいつものように空へ視線を移していた時の事です。僕とさほど変わらない歳であろう男の子が視界を遮るように目の前に現れ、突然話しかけてきたのです。それはまるで前からの知り合いだったようにあくまで自然に。
当然ながらその男の子とは知り合いでも何でもありません。彼の左腕には包帯が巻かれているので入院か通院をしている事は見て分かったのですが、何せ見知らぬ他人。僕が呆気に取られていると男の子は申し訳なさそうに謝ったのです。見かねた僕はこう答えました。
空を見ていました、と。
そっか空を見ていたのか、納得するように頷きながら笑う男の子に僕は興味を持つようになりました。暗い闇の中から見つけた一筋の光を見るように、その男の子は眩しかった。妬ましい、なんて最も醜い感情を抱いてしまうくらいに。でも、光は光。そんな彼に惹かれていた事も事実で、もっと話してみたいと思ったのです。
その腕の怪我、どうしたのですか。僕が問いかけると彼は苦笑いを浮かべながら答えました。
「道路の真ん中に脚を怪我した野良猫がいたんだ。周りには車が沢山走っていて逃げられなかったみたいで。そいつを助けようとしたら車に轢かれちまったんだ。幸い軽い怪我で済んだけどな」
僕は正直、猫ごときで命懸けなんて馬鹿なんじゃないかと思いました。下手したら自ら命を捨てるような真似ですよ。否応なしに命を投げ捨てられる今の僕には、到底理解出来ない行動です。彼は分かっていないのです。命が続いていく事がどんなに贅沢な事か。その無謀な行動がどんなに傲慢な事なのか。
すると男の子は言いました。
「どんなに小さい動物にも命があるだろ?それに、やらないで後悔するよりやって後悔する方が俺は良い」
その言葉で僕は分かってしまいました。
彼は馬鹿だから無謀に走ったのではない事を。もし僕が健康で同じような状況に立った時、彼と同じように猫を助けようと行動に出せるだろうか?答えは否。きっと足がすくんで動けないだろう。結果的に見殺しだ。でも、この男の子は動いた。見る人によっては無謀で馬鹿だと呆れたように彼を見るだろう。先程まで僕もそうだった。でも、違うんだ。
『やらないで後悔するよりやって後悔する方が俺は良い』この言葉に男の子がどんな人間なのかが理解してしまったのです。
僕と同じ境遇になったとしても、彼はきっと……。
ああ、気になる事が一つありました。それは男の子が命懸けで助けようとした猫の安否。不安な眼差しで彼に問うと、彼は笑いながら言いました。
「それなら大丈夫。猫も動物病院に運ばれて、今は元気にしてるってさ。確か里親も決まったって」
僕は安心してそっと胸を撫で下ろし、笑みを浮かべました。すると、彼は何て言ったと思いますか?
「君は笑った方が可愛いよ」
なんて言ったんですよ。ほんの少しの赤色を頬に宿しながら。笑っちゃいますよね。
僕が何かを言おうと口を開けた瞬間、男の子はごまかすように慌てて、もう時間だからと言って走りながら去って行きました。その時の僕はと言えば、彼の背中が見えなくなっても、ぼーっと一点を見つめている事しか出来ませんでした。やがて、なかなか病室へ帰ってこない僕を心配した兄が呼び止めるまでそれは続いていました。
そこで僕は兄に告げたのです。
手術を受ける事を。
兄は驚きながらも只一言「俺がついてる」そう言ってくれました。
本当は何故決意に至ったのかも問われましたが、兄には内緒です。とある男の子に感化されたなんて恥ずかしくて言えないでしょう?それに、その男の子が同じくらいの歳の子だと言ったら多分、不機嫌になると思うから。
ああ、そうそう。僕が手術を決意した理由。それは、やらないで後悔するより、やって後悔する方が良いという彼の言葉が僕の諦めまいとする心を呼び起こすと同時に、名前すら聞けなかったあの男の子にまた会いたいという気持ちを生まれさせたんです。それはこの世への未練とも言えるのでしょうか。将来生きる事が出来ても現実的に会えるかどうか保証なんて出来ないでしょう。でも、僕は賭けてみたくなったんです。
あるかも分からない未来に。
最後に。
今僕は生きていますか?
あの男の子に再会出来ましたか?
会えなくても、絶望しないでください。生きていて辛い事は沢山あると思います。そんな時はあの男の子が言った言葉を思い出してください。今ある命を大切にしてほしい。
そして、もし手術が失敗して僕の命が散ってしまっていても、彼の言葉を果たしたのだから後悔はないと思います。
願わくばこれを再び読む事がありますように。
過去の僕から未来の僕へ。』
ばたり。
少女は静かにノートを閉じると、ほっと一息ついた。
「…みんな帰っちゃったんだよね」
少女の呟きは誰もいない生徒会室に消えていった。
ふと時計の針を見れば、丁度7時を過ぎようとしていた所だ。窓の外はとっくに闇色に包まれてしまっている。
会議を終え、会長が解散を宣言したのは30分も前の事。書記の仕事がまだ残っていたイエローは生徒会室に残る事を告げ、黙々と仕事を片付けていた。そして全てが終わり、帰り支度をしている時に鞄の中にある一冊のノートが目に入り、彼女はそれを取り出してしまう。
それは彼女自身の命の軌跡とも呼べるもの。
彼女の『日記』だった。
(本当は仕事を片付けるだけの筈だったのに…)
二度目の帰り支度を始めようと急いでいたその時、教室のドアが勢いよく開かれる。
ガラララ。大きな音にびくりと身体を震わせた直後、目の前に現れた人物に驚きながら固まるイエロー。視線の先にいる人物はぽかんと呆気にとられた顔をし、彼女を見るやいなやすぐさま顔を綻ばせた。
「やっぱりイエローが残ってたのか」
「レッドさん!」
そこに立っていたのはこの学園の生徒を束ねる立場である生徒会長のレッドだった。イエローより一学年上だが、実際はイエローと同い年である彼。そして彼女にとっては特別な存在でもある。
彼の姿を見ただけで頬が赤色に染まってしまう。それは、イエローが彼の事を想っている何よりの証だった。
「レッドさん、どうして?帰ったんじゃなかったんですか?」
「バスケ部の連中に練習に付き合えって言われてさ、少しの間だけバスケやってたんだよ。そしたら、生徒会室の明かりがまだついてたから。イエローはまだ終わらなかったのか?」
恥ずかしさのあまり自分の日記を読んでいましたとは正直に言えず、だからと言って書記の仕事を長々と片付けられずにいたとは言えず、イエローは慌てるようにごまかしをを入れる。
「い、いえっ。僕は只……、そう、思い出に耽っていただけですよ。ぼーっとしてたらこんな時間になっちゃいました」
「ぼーっと……?」
「そう、ぼーっと!」
「そっか、じゃあ仕方がないな。もう遅いし帰ろうぜ、送るよ」
「あっ、はい!」
深く考えず納得してくれた彼に安心し、イエローは思わずそっと胸を撫で下ろす。これがブルーやゴールドだったら深く突っ込まれていたに違いない。そういった場面を軽く想像し苦笑しながら、イエローは薄暗い廊下の中に見えるレッドの背中を追っていった。
***
暗い夜道を歩く男女が二人。
彼と肩を並べて歩いていく事に何よりの幸せを感じる彼女。
彼女は思う。ああ、生きてて良かったと。
「……レッドさん、僕達が初めて会った時の事を覚えてますか?」
「覚えてるよ。病院の庭でいつも空を見上げていたのが印象的だったから」
「いつも?…もしかして、その前から見ていたんですか?」
「俺が怪我で病院に通っていた時によく見かけたんだ。ずっと天を見つめていたから何をしているのかなって」
「その後、しばらくして見に行ったらいなくなっていたから気になっていたんだ。だから学園で再会した時は驚いた」
「僕も驚きました。またあの男の子に会えるなんてって」
「お互い、ぽかーんと口を開けて凄いびっくりしてたよな。未だにあの時の事は忘れられないぜ」
「あははっ!僕もです」
(ああ、レッドさん。こんな事を言ったらきっと貴方は冗談まじりに笑って謙遜するでしょうけど、あの時の僕を救ったのは貴方なんですよ。世界に絶望し己の運命を呪いながら死んでいく筈だった僕に貴方が勇気と希望をくれた。本当にありがとう。そして僕の命を繋ぎ止め彼と再び出会える奇跡をくれた神様へありがとうございました)
Andante
(精一杯歩いて生きたい)
11.9.16
//歩くような速さで