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パル→→嬢←ダイ
バルコニーには月夜に照らされながら佇む俺達の姿。内側から聞こえる賑やかな音ときらびやかに漏れる光。暗闇の中で淀む俺達とは全くの正反対と言って良い。
「ねぇ、これで本当に良いの?」
先に口を開いたのは親友の方だった。
正装に身を包む親友の姿は、頼りない常時のものとはどこか違っていて。答えを求めるように真っ直ぐと注がれる視線を横目に、俺はぶっきらぼうに答える。
「良いも何も、ダイヤも分かっているんだろ?」
俺達と彼女とじゃ棲む世界が違うって事。散々話し合ったじゃないか。
月が照らさなければ日の目を見る事すら叶わない俺達と、輝かしい光へ立つ事を許された彼女と。こうして出会えた事すら奇跡なんだって。
「それでも、オイラにはお嬢様が望んでいるようには到底思えないよ…」
キィ…、背後の扉がゆっくり開いた後、カツンと鳴り響くヒールの音。
振り向いた先に居たのは今日の宴の主役であるドレス姿の彼女。高鳴る鼓動とは裏腹に不幸にも今一番会いたくない彼女だった。
「お嬢様…」
「パール、ダイヤモンド。二人とも捜しましたよ」
「婚約、おめでとうございます」
口をついて出てくるのは心ない言葉。ダイヤと彼女の表情がほんの少し曇るのを、不本意ながら見逃す事は出来なかった。
口で言わずとも、ダイヤは咎めるようにこちらを見て抗議している。
彼女はといえば、少しばかり俯いた後でにっこり笑ってこう言ったんだ。
ありがとうございます―――と。
今日はベルリッツ家の御令嬢と、とある大企業の御子息との婚約記念パーティーだった。大富豪同士の婚約と言う事でシンオウだけではなく、あらゆる地方の金持ちや有名人が大勢呼ばれている。
俺達も招待された者の一人だったが、いつの時も有名人の中心に立っていた彼女と接する機会等与えられなかったし、幸せそうに微笑む彼女を見たくなかったからそれで良いと思っていたのに。
「主役がこんな所にいて良いのか?」
「ええ、大丈夫ですよ。挨拶は一通り済ませて来ましたし」
「こうして三人で会うのは久しぶりだね。ねぇパール、お嬢様?」
「そう、ですね。婚約の事で色々忙しかったものですから…」
歯切れの悪い彼女の言葉。ああ、分からない。俺には全然分からない。世間から注目も期待もされているこの婚約は彼女にとって良い事の筈なのだ。なのに。なんで、どうしてなんだよ。なあ、どうして、
「どうして、そんなに泣きそうな顔をしているの?」
「………っ、」
まるで俺の今の心を代弁するかのように、漏れ出たダイヤの言葉。この言葉が彼女の心を崩すのはさほど時間はかからなかった。
「…貴方達だって分かっているのでしょう?この婚約が、私が本当に望んだものではないという事」
ああ。
そんな事、とっくに理解してたさ。
最初にこの話を彼女の口から聞いた時、無理して笑っていたじゃないか。
パーティの時だってそうだ。あの笑顔が造り笑いだって事、今までずっと一緒にいた俺達には分からない筈なんかなかったよ。
「私は、今までベルリッツ家の為に生きてきたし、これからもそうすべきだと思っていました。だから今回の政略結婚も受け入れました」
俺だってそう思ってたし、それが彼女の為になると思ったんだ。だから、今まで葛藤してきた自身の気持ちを無理矢理封じたって言うのに。
「でも、そんなの私の人生じゃないんです…っ。誰かに決められた人生なんて、…本当は嫌なんですっ!」
今まで抑え込んできた感情を次々と吐露する彼女。黙ったまま耳を傾ける事しか出来ない俺達。
遅い、もう何もかもが遅すぎたんだよ。君が選択するのがもう少し早かったなら、俺達が掻っ攫ってやれたのに。いや、本当は掻っ攫ってやりたかったんだ。
自嘲気味に笑う俺と苦しそうに顔を歪めるダイヤ。そんな様子の俺達を見て首を横に振る彼女。
「パール、ダイヤモンド。私をさらってください」
「お嬢様、何を言って…、」
「そんな事…、」
何を言っているんだ。そんな事今更出来きるわけがない。出来たら苦労はしないだろう?
馬鹿馬鹿しい、彼女に背を向けて吐き捨てるように出た言葉。対して彼女が起こしたリアクションは諦める事でも泣く事でも縋る事でもなくて。俺は彼女のその一言で振り返らざるおえなくなった。ダイヤも彼女の突拍子のない発言には目を丸くしている。先程まではうんざりしていたというのに、真っ直ぐ見据える白金色の瞳は確実に俺達の心を掴んで離さない。ああなんて彼女らしい――、
「私が貴方達をさらいます」
The day when we lost our minds.
(その日、少年と少女は失踪した)
10.6.19
//僕らが理性を失った日