泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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図鑑所有者トーナメントでの話。




彼女との約束、彼女との思い出。僕はそれらを忘れてしまっているんだと彼女は思っているようだけど、本当は違っていた。
別に彼女が嫌いだとか、約束自体を忘れてしまっているだとか、そうじゃない。僕は幼い頃の記憶の中にある彼女をずっと想っていたし、それがなくても僕の中での彼女の存在は再会したその日から考えられない程に大きくなっていた。そんな僕が彼女を好きになるのはごくごく自然な事だったと思う。
世間で言うならばそれは相思相愛。それでも僕は彼女に何くわぬ顔で接し続けたし、彼女の方もそれを何となく分かっていて僕に笑顔を向けていてくれるように思える。

我ながら情けない。
時々思うんだ。僕が想っているのは幼い頃の彼女との思い出であって、今の彼女ではないのではないかと。
確かにあの時の彼女の告白がなくても僕は彼女に惹かれていたし、彼女は彼女であって過去も今も関係なく紛れもなく彼女である事は理解しているつもりだ。
それでも、あの思い出の彼女なのだと自覚する度に自分が怖くなるんだ。また自分が彼女の心を汚してしまうのではないか。本当の自分を見せる度に傷付けてしまうのではないか。そう思うと身体が震えて何も言えなくなる。
だから僕は今の彼女と過去の彼女を別の存在だと認識し、冷静を装った。すると不思議な事に身体の震えはぴたりと止まり、彼女と今まで通りの関係を保つ事が出来た。そんな中で僕はこう思うようになる。

僕が守りたいものはなんだ?

今の彼女の心?
昔の彼女との思い出?
それとも……、

本当は自分がどうすべきなのか答えは決まっている筈なのに、一歩が出せない。こんなにも臆病な自分がもどかしく堪らなく嫌悪した。


図鑑所有者達で行われるトーナメントで、恐れ多くもカントーリーグ準優勝者及び現ジムリーダーである先輩と戦う事になった。
僕は前までジョウトに住んでいて、少なからず彼等の事を知っていたからこうやって彼等と戦う事はとても名誉な事だと思った。

知識と経験が勝る先輩に勝てるとは思わないが、決して負けるつもりもない。
身体中から沸き立つ血が、昔のように僕の中で戦いたいという気持ちが生まれている事を感じさせていた。
心の中では戦いたい。強い相手と戦ってみたい。そう強く願っているのに、恐怖という感情が頭の中を支配する。
彼女を傷付けてしまう。怖い。僕の本当の姿をさらけ出してしまう。怖い。戦いに呑まれてしまう。怖い、怖い、怖い。


結果として、僕は先輩に勝った。
先輩に勝ったけれど、心の中で僕は敗北した。言うなれば試合に勝って勝負に負けたってやつだと思う。

全力を出せないならばお前はアイツに勝てない。

去り際に言われたその言葉が重々しく僕の胸に深く突き刺さっていた。
僕は全力で先輩とぶつかりあったつもりだった。手を抜いて勝てる相手じゃないし、本気だった。
でも、先輩は分かっていたんだ。僕が本当の意味での全力を出せていない事。迷いを背負いながら、戦っていた事を。
戦いで全力を出さない事は勝負を軽んじる行為でもある。勝負を重んじる人にとってそんな行為は許せない事だろうし、負けたとあっては屈辱的だろう。
だけど、彼は怒る事もなく、悔しいというような表情を顔に出す事もなく、冷静に言った。

勝って嬉しい。痛い指摘をされて悔しい。何故?という疑問。どうしたら良いのかの戸惑い。そして先程から頭をぐるぐる回っている怖いという様々な感情が入り交じり、誰かに声をかけられるまでその場に立ち尽くすしかなかった。

他の試合が始まっても、僕は深く目を向ける事はなかった。先輩の言葉を思い出しながら考えていたからだ。
彼等の中には、いきなり始まったこのトーナメントを腕試しとして挑戦する者もいれば、戦いを純粋に楽しむ者もいた。でも僕はどちらにもなれない。迷いを背負いながら本気で戦わない僕には純粋に楽しむ事など出来ない。
意思も答えもうやむやにしながら、あと少しで僕の出番だという所だった。



「ルビー。あたしの事ば気にしてるんだったら、謝るったい。ごめんなさい」

「何、を……?」

「あたし、ルビーの色んな所が好き。コンテストに夢中になってるルビーも、バトルに夢中になってるルビーも、そして、あたしばボーマンダから守ってくれた全力で戦ってくれたルビーも、全部、全部好きったい。どげん姿もルビーな事に変わりなかよ。どげんルビーも、あたしは大好き。だから、ありのままのルビーを見せてほしか。あたしはどんなルビーも受け入れる。これが、ありのままのあたしったい」

「サファイア……」



守っていたのは自分の心だった。

戦う姿をさらけ出したくなかったのは彼女を傷付けたくなかったから。彼女を傷付けたくなかったのは自分が傷付きたくなかったから。戦いに呑まれたくなかったのは自分が自身に恐れを抱いていたから。結局自分を守る為の言い訳でしかなかったんだ。

ありのままの自分を受け入れる。
そう言ってくれた彼女の言葉によって、僕の心の中で何かが変わった。
僕を見てくれる人がいる、どんな僕でも僕と言ってくれた人がいる。只、それだけで救われた気がしたんだ。
戦わない自分も全力な自分も僕なんだ。そんな僕を受け入れてくれる彼女がいるのに何を恐れる事があるんだろうか。
だから僕はもう迷わないよ。
彼女が傍で見ていてくれるから。

ねぇ、知ってるかい?
次の僕の対戦相手、カントーリーグ優勝者なんだよ。そして僕が幼い頃に憧れを抱いた人なんだ。
昔の約束、覚えているよね?
あの人は僕達の目標だった。彼がいなかったら僕達はこうして仲良く話せなかったんだ。あの人が僕達の始まりだった。
…もし、あの人を越せたなら遅くなってしまったけれど君との約束を果たせたも同然だよね。
彼は戦う者。きっと生半可な覚悟で挑むならば絶対に勝てない相手。もう恐れも迷いもない。僕は君との約束を果たす為に全力で戦うよ。


ねぇ、サファイア。僕が本気で戦う時は2つあるんだ。
1つ目は守るべきものの為に。2つ目は好きな女の子に格好良い所を見せる為に。
さぁ行こう。背中を見守ってくれる彼女の為に。


「始めましょう。リーグ優勝者だろうが何だろうが関係ない。貴方に絶対勝ちますから」

「…あぁ、本気で来い」



10.7.2
//約束を果たすために