泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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ポケモンの気持ちを読み取り、傷を癒す少女。
最近、俺はこう思うんだ。この少女は人の心を癒す能力まで持っているんじゃないかと。


***


自身の生まれが分かってから、頻繁に足を運ぶようになった故郷とも呼べる森で少年は傍らの木に寄り添いながらくつろぐ。
目に映るは柔らかな風によってゆらゆら揺れる緑と川のせせらぎ、そして長い髪を揺らしながらメスのピカチュウと駆け回る少女の姿。
少年は目の前で繰り広げられるその光景に目を細めて小さく微笑んだ。

「あまり走ると転ぶぞ」

「もう、子供扱いしないでくださいよっ」

「………」

ぷくっと頬を膨らませて顔を赤くする少女の姿は、とても大人には見えなかった。
ちょっとからかってやると少女はいつもこうだ。頬を赤色に染めながら膨らませて眉を吊り上げて、拗ねるように自分は年上で先輩なんだと主張する。

もう何回も聞き慣れた少女とのやり取りだったが、彼はおかしさに堪えきれずくすりと笑みを零した。一体この少女のどこに年上である要素があるというのか。
男女の違いはあっても身長差は頭一つ分と随分下の辺りで顔立ちも幼い。おまけに言ってしまえば行動が時々幼稚に見えるのだ。子供扱いするなと怒る彼女が転んだりドジをやる事は珍しくはない。
悪に森を汚されそうになった際、激しい怒りを見せたあの時と同一人物なのだと思うと、あまりにも掛け離れすぎて笑ってしまうのだった。

「これでも僕はお姉さんなんですよ、シルバーさん!」

「草原駆け回って転ぶくせに?」

「あれは…、たまたまです。そう、たまたま」

「俺がいる傍で能力を使ってもいないのに気付けば昼寝してる」

「うっ…、それは…お昼寝が好きで…」

「そうやってムキになる所」

「!!」

「どこかお姉さんなんだ、イエロー"先輩"?」


少女とふざけたり笑ったりする日々。
それはもう、切り離す事の出来ない少年の生活の一部となっていた。
ふと彼は思う。かつて己が他人に対してここまで人間らしく感情を表に出せた事があっただろうか。

(俺が人間らしさを取り戻せたのは、彼女のおかげだ)

あの事件の後、一番最初に森で散歩していた少女と出会った時、馴れ合うつもりもなかった彼は暖かく歓迎した彼女を、冷たい態度でほんの少しの会話を終わらせて背を向けた。
しかし去り際に少女は彼の手を掴んで優しく微笑みながら言ったのだ。『ここは貴方の故郷なのだから、またいつでも来てください』と。

結果、その言葉に甘えて彼は何度も足を運び、何度も少女と接するようになった。

その時からだ。少年が少年らしく笑い始めたのは。


「実は、ほんの少し前までシルバーさんの事を無愛想で怖い人だなって思っていました」

「姉さんにもよく言われるよ。纏う雰囲気が重々しいから女の子が怖がる。ちょっとくらいは直せって」

「でも、今はとてもやわらかくなりました。笑ってくれるようになったし、シルバーさんの笑顔、素敵です!」

そう言ってふわりと笑う少女につられる形で少年は微笑む。

「きっと故郷に、この森に触れたからですよ。大自然は人の心を癒すんです。冷たい氷を溶かした森の力は偉大ですね」

遥か高い場所へ伸びている木々を見上げて少女は言ったが、彼は何も言わずに首を横に振った。
この少女は気付いていないのだ。彼の笑みがどこから来て、どこへ向かうのかを。
少年はとっくに気付いていた。己の笑みがいつも彼女によって引き起こされ、いつも彼女へ向けるものだという事を。

「俺はいつも思っていた。貴女はポケモンの思考を読み取り、傷を癒す事が出来るけれど、もう一つ能力を持っているんじゃないかって」

「え……?」


(俺の中にある氷を溶かしたのは森なんかじゃない。故郷に触れたからでもない。誰でもない、貴女の優しさが、笑顔が、言葉が、貴女の全てが、)



「俺を癒したのは貴女だ」



11.10.9
//僕を満たす音