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41巻のあのネタ。
「分かってる! 自分でも似合ってないのはよーく分かってるの!!」
「いや、俺はそういう……」
「うちのお母さんちょっと変っていうか……、タイヘンな人で……! よく言えば大らか、悪く言えば大ざっぱで……!!」
ああ、私は何を言っているの。
この洋服の事を必死に弁解する私。
意味が分からないにも程がある。ほら、シルバーが困っているじゃない。若干引いているのは多分気のせいじゃないと思う。
それでも次から次へと心の底から湧いて出る羞恥心が、口をついて出てくる言い訳の数々を止ませてくれない。
だって仕方がないじゃない。こんな私なんかよりもずーっと可愛い女の子が着るような、とても可愛いらしいお洋服なんか今まで着た事もなかったし、これからも着ようなんて思ってもいなかったんだから。そもそも、私にリボンなんか似合わないのよ。
今の私には、この格好を、よりによってシルバーという仲間に見られた事への恥ずかしさでいっぱいいっぱい。
本当にこの場所にゴールドがいなくて良かったって、心から思っているわ。アイツの事だから、笑われて一生からかわれ続けるに違いない。
「だから、だからね……。ごめん、シルバー……」
「クリス?」
「船酔いかしらっ」
沢山の言い訳も尽きた頃には、船酔いを理由に私は彼から背を向けていた。無論、気恥ずかしさから出た嘘だという事は言うまでもない。
取り乱したあんな姿をさらしてしまうなんて、最上級に憂鬱気分だ。どんよりした気持ちを払う為に、私は深く息を吸った後に吐き、それを何度も繰り返した。
深呼吸。今の私には余裕というものが圧倒的に足りない。だから、少し落ち着こう。落ち着いた後に、彼にはもう一度謝ろう。
ゴールドとは違って、シルバーなら気を遣って洋服の事は触れないでいてくれる、と思う。
そうすれば普段通りの私に戻れるはず。
大丈夫。冷静になるのよ!
「俺は……、それ、可愛いと思うが」
(……っ!!)
……前言撤回。
やっぱり大丈夫なんかじゃないし、冷静になれるわけもない。
と思うのと同時に。そんな事を言わせてしまう程の気遣いをさせてしまった事に酷く落ち込んでしまうわ。
「……えっとね、シルバー。私を気遣ってくれるの分かるけど、お世辞なら――、」
(――……え?)
その時、私は優しい目をした彼を見た。
お世辞なら言わなくても良いわ、自分でも分かってるから。
咄嗟に頭に浮かんだ言葉。それを言おうと思って振り返ったのに、シルバーの顔を見たらそこから先へ何も言えなくなってしまっていた。
だって、彼は微笑んでいたから。
目を細めながら、優しい雰囲気で。
今にも消えてしまいそうな程の儚さを持った彼の微笑は、私の心の隙間を埋めるように浸透していく。そして心の底で感じたの。思いやりを、温もりを、彼の心を。
私、この微笑みを知っている。
彼がブルーさんへ時折向けるそれと同じで……。ああ、私達の最悪の出会いから随分経ったけれど、いつの間にそんな優しい表情を私の前でも見せてくれるようになったのね。
「本心だ。俺は、お世辞とかそういうのはあまり得意じゃない。その……、クリスはもっと可愛い服を着て良いと思う。……似合う、から」
「……っ」
とくん、とくん。
どうして。
とくん、とくん、とくん。
胸の鼓動が速まって、
とくん、とくん、とくん、とくん。
収まらないのは何故なの。
火照った頬に触れれば、熱を自覚する。まるで風邪を引いた時のよう。おかしいわ、私、風邪なんか引いていないはずなのに。なのに、徐々に胸がきゅうと苦しくなっていって。
自覚症状なしの風邪? 嫌だわ、体調管理が出来ていないなんて、私もなっていないわね。
―――違う。
ごまかすのは止めよう。
風邪なんかじゃない、なんて本当はもう分かりきっている事でしょう?
「シルバー……、あのね」
「どうした」
「ありがと」
私は、彼に恋をした。
12.7.1
//その男、盗人につき