泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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なんでだ。

何故?
目の前に立っていたそいつを見た瞬間、俺の思考は停止した。


「植木耕助、あんたを殺すわ――」


そう"そいつ"に宣言されても、思考が動き出す事はなかった。
やっとの事で巡った考えは、何故、どうして、なんでだと疑問だけ。それだけしか浮かばない。どれだけ考えても疑問だけ。
だって"そいつ"がここに居る筈がないのだ。

何故ここにいる。
どうして彼女はここに―――。



「…森、何故ここにいる?」



森あい。
2年前の戦いで一緒に戦った仲間であり、俺にとって大切な奴。
全ての始まりの事件が起きた時、大切な者との記憶を維持出来ない彼女をこの異世界へと連れて行くわけにはいかなかった。
森は涙を堪えて見送ってくれたのだ。
世界で一人、大切な者との記憶を保った俺に全てを託して。
だから、今ここに彼女が居る筈がない。
異世界で全てを取り戻す為に戦っている、俺の目の前に立ちはだかる筈がないのだ。

頼む、間違いであってくれ。
こいつは森じゃない。
俺の知ってる森じゃないんだ。
そう、別人なんだよ。
森と同じ顔をしてるけれど、繁華界の住人なんだろ?

パラレルワールドなんだから同じ姿の奴がいたって、


「そうよ、私は森。森あい。何であんたが知ってんのよ。私はあんたの持ってるキューブを取り戻しに来たの。私の記憶が入ってる、そのキューブを!」


―――っ。
その言葉で全てが打ち砕かれた気がした。
俺の必死に導き出した仮説が、森の言葉で崩れた。
ご丁寧に自分で森あいと名乗った事。
キューブを取り戻すのが目的な事。
そのキューブに自分の記憶までもが入っている事。

その三つから弾き出される答えは、やはり最初に考えたもので。
一番、あってほしくないものだった。


彼女は紛れもなく、俺の知っている森あいだ――。


「森っ、俺はお前と戦いたくない!だから、そこをどいてくれ!」

「何を言ってるの?元々あんたがキューブを奪ったんじゃない。あんたが私からキューブを奪わなかったら今頃私は…っ、だから、あんたを倒すの。あんたを倒して、記憶を取り戻すの!」

俺がキューブを奪った?
俺を倒す?
倒して記憶を取り戻す?

もうわけ分からない。

だが一つ言える事は、目の前の彼女は、俺を敵と認識している。俺を殺す気でいる。

…何も考えられない。
森を傷付ける事なんて、俺には出来ない。

「私は記憶を取り戻すのよ…」

すると森が何かを構えた。
チャキ、と音がした。
森の持つ物。…あれは、銃…?!

「…お、脅しじゃないんだからね。…でも、大人しくウールを渡してくれたなら、見逃してあげるんだから」

カタカタと音がする。
森の銃を持った手が震えているのだ。
無理もない。銃なんて一般人が持つ物ではない。
ましてや、彼女は人を傷付けたがらない性格なのだ。こんな人を傷付ける物、森が持ってちゃいけないんだ。

「……はははっ」

「…っ!?何よ、何がおかしいの?」

森には似合わないと思った。
こんな場面。
命を賭けた戦場という名の舞台。だけども、彼女は必死に舞台に上がろうとする。俺達について行こうと、必死に戦おうと、守ろうと傷付いていく。
だけど、そんな森を守りたいって思ったんだ。
武器なんて似合わない。だから俺が戦う。
傷付くのは見たくない。だから俺が守る。

遠い2年前の記憶。
だけども、それは今でも変わってない。


「森――、」

「な、何よ。やめて、近寄らないで!」

俺は一歩ずつ森に近づいていく。
なるべく、ゆっくりに。
怖がらせないように、なんて無理かもしれないけど。
森には微笑みを浮かべて。
安心させるように。

森に間違えを犯させてはいけないから。

一歩、また一歩と。


「…やめて来ないでよ。撃つんだからっ!」


パンッ!!

森のてのうちにある銃が、煙りをあげていた。
真横を一瞬遮った気がする。
肩を掠めたみたいだ。

「来ないで…、次は当てるわよ!本当なんだから…!脅しじゃないのよ!」

カタカタ震えながら銃を構えて、森が叫んだ。
それでも俺は歩みを止める事はない。
俺は森のもとへ行くんだ。

「やめて…っ、いや…。来ないで――っ!!」


パン、パン、パン、パンッ!!!


一斉に放たれた弾丸。
カタカタ震えた森の手にあったせいか、その弾丸は的外れな場所にとんでいく。
しかし思いもよらない一発が、俺の肩を貫通した。

左肩を走る激痛。
その突然の痛みに膝をついた。
服には赤い染みがじわっとできていた。


「――あ、…わ、私…」


森は動揺を隠せないでいた。
森の性格だ。脅しじゃないと言いつつも、脅しのつもりで本当に当てるつもりもなかったのだろう。

「…あ、どうしよう。…私っ!」

肩から溢れる血を手の平で抑えながら、一歩、また一歩森のもとへ歩く。


「大丈夫、俺は大丈夫だから」



そして森の目の前に立った時、パニクる森を安心させたくて。
痛みをやせ我慢して、俺は笑った。



「なんで…?なんで、そんなに笑ってられるの…」



森は泣きながら言った。
あぁ、昔から変わらないその姿。
思えば森に泣かせてばかりだった。
戦う俺を気遣う時。
敵を目の前にした時。
俺が消えそうになった時。
この世界来る前に喧嘩した時も泣いてたっけ?

…森を守るとかいいながら、泣かせてばかりなんだ。



「森…」

「やめてっ!何も聞きたくない!私は大切な記憶を取り戻すんだからっ!」

「俺が全てを取り戻すから。…森の大切な記憶…、佐野や、鈴子、ヒデヨシ達の記憶を取り戻してやるから…」

「さ、の…?りんこ?ひでよし…?…私、その名前しってる…。嘘よ、信じられない…!信じたくない!やめて、私の記憶をかえし――」


森の言葉を遮るように、俺は森を抱きしめた。
森は突然の行動に動揺したのか何も言わない。

そして俺はあの時言った言葉を再び言うんだ。


「俺が何とかしてやる。断ってもダメだ。俺の勝手だからな」

「…―――っ、」


(願ったのは君の笑顔)
(知りたいのは貴方の笑顔)
(叶ったのは―――)




09.11.2
//願ったモノ