泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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繁華界に来てから何週間経っただろう…。メガサイトに行く為、選考会に出る為に修業に明け暮れる毎日。
(といっても、大半はクリーニング店の手伝いなんだケド…)

「だから、どうやったらあんな風になるんだよっ!」

「お、お兄ちゃんっ」

「いやー、何故かこうなっちゃうんだよねぇ」

「ナガラっち、洗濯音痴だもんね」

繁華界での日常。ここで見つけた仲間達。今ではここが自分の居場所になっていて、とても心地の良いと思える場所だ。

「なぁ」

「ん、どうしたんだい?」

「ちょっと出掛けてきて良いかな」

「植木っちが?珍しいねぇ」

「ずっと家に篭りっきりだったもんな」

基本的に俺は買い出しの時ぐらいにしか外に出ない。周辺の地理に詳しくない事もあって、外に出ようとも思わなかったからだ。でも、今日は何故だろう。急に散歩に行きたくなったんだ。

「じゃあ、行ってくるよ」

「羊飼いさん、いってらっしゃい」

「いってらっしゃいー!」

「気をつけてな」

「あまり、問題起こしちゃ駄目だよー」

後ろで皆が見送ってくれるのを感じながらドアを開いた。

一歩外に出て、深呼吸をしてみる。すると今までとは空気が違うような、そんな気がしてくる。晴れた空、太陽が眩しくて思わず目を細める。新鮮な気分だ。

「散歩って言っても、ここらへんのコトよく知らないしな…」

(まぁ、何とかなるか?)

とりあえず適当にブラブラしてみる事にした。


街中を歩いていると、買い出しに来ていた時には見えなかったものが沢山出てくる。
よく通っていた道なのに知らない店があったり、よく行くスーパーの屋根に鳥が沢山止まっている事とか。色んな人々が様々な表情をして話をしてたり、よくある世間話に耳を傾けたりとか。

思えば今までの自分は余裕がなかったように思える。いつもメガサイトに行く事だけを考えて、周りを見ていなかったんだ。だからこんなにも身近な事にも目を向けず、人々の会話も耳に入って来なかった。

(そんな自分が変われたのは、皆のおかげだ)

皆と接する事によって、いつの間にか余裕が生まれたのかもしれない。…あぁ、そういえば二年前の戦いもそうだったな。やはり、仲間はいいものだ。

ぼんやりとにやけながらそう思った。



「やめてくださいっ!」


そんな時、ふと叫び声のようなものが聞こえた。
思わず声がした方向を見ると路地裏近くで女の子が数人の男に囲まれていた。
声の主は彼女みたいだ。中学生くらいの女の子と明らかに高校生の男達。
後姿しか見えない為、状況はよく分からないが何やらもめているらしい。

「あんた、可愛いよな」

「ちょっと付き合えよ」

「いやっ、嫌です!離してっ!」

一人の女の子に数人でナンパなんて、腹が立った。通る人々はその状況に無視していく。関わりたくないとでも思っているのだろうか。

血が上りつめて、気付いた時にはもう走り出していた。

『あまり、問題起こしちゃ駄目だよー』

ナガラのそんな言葉も忘れて。


「おい、嫌がってるだろ」


その女の子の前に立ち、庇った。男達は俺を思いっきり睨んできたケド、俺も負けじと睨み返してやる。

「………ぁ」

後ろにいる女の子がそう呟いた。
反射的に女の子の方を見てしまった。

そう、見てしまったんだ。


「………っ!?」


体が硬直する。動けない、震える。
彼女は、俺が知っている顔だったから。
俺の身近に居た人物だったから。


(何故、気付かなかった)

彼女の髪は短い。

(何故、後ろ姿で気付かなかった)

彼女の髪は、晴れた空のような水色だ。

(何故、声で気付かなかった)

彼女の声は、あいつに似ていた。



「…………も、り」



彼女は俺がよく知っている人物、
森あいだった。




「ありがとうございましたっ」


彼女はそう言ってぺこりと頭を下げた。顔が上げられる瞬間あいつとダブって見えてしまい、胸が痛む。

彼女は元の世界での仲間、森あいの顔をしている。だが正確に言えば彼女は森あいなんかじゃない。
前に繁華界へ来る時、ウールが言っていた言葉を思い出す。

『繁華界は俗にいうパラレルワールドだ。大昔に時空間の歪みによって別れた世界。可能性自体が別れてしまった世界でもある。…中には人間界と同じ顔の奴が居てもおかしくはない』

『どういう事だ?』

『そのままの意味だ。お前の知り合いと同じ奴が居る可能性もある。だが、正確に言えばそいつはお前の知り合いではない』

『瓜二つの別人って事か…?』

『あぁ。もしそいつと出会ったら、見知らぬフリをする覚悟はあるか…?』



(見知らぬフリなんて…、)


「あ、あのっ」


彼女の声で現実に呼び覚まされる。
彼女は森あいじゃない。
着ている制服だって違う、いつも頭に乗せていたメガネだってない。…でも、見れば見る程、あいつに見えてきてしまう。何も言えない。

「…じゃ、俺は行くから」

やっとの事で出た言葉だった。
早くこの場から離れたい。
この世界に森は居ないんだ。
そう思いたかった。

だけど彼女はそんな俺の気持ちなんて知らずに、後ろから腕を掴んで呼び止めた。

「待ってっ!」

「…っ」

俺が恐る恐る振り向くと彼女は優しく微笑んで、

「お礼、しますから」


そう言った。




「ここのお店、紅茶とケーキが凄く美味しいんですよ」

「……」

「紅茶って、良いですよね」

「……」

「私、まだコーヒー飲めなくて…」

「……」

「でも、いつかは飲めるようになって、大人になりたいなぁなんて」

「……」


…凄く、困る事になっている。
あの時、お礼をすると言って聞かない彼女に折れて喫茶店でご馳走してもらう事になったのだ。
正面に座る彼女が一生懸命に話してくれる。そんな姿を見て、彼女を森にダブらせている事が申し訳なくて、思わずそっぽを向いてしまう。
…やはり、あの時無理にでも帰れば良かったと後悔した。

「………ごめんなさい」

「……え?」

「私ばかり、一方的ですよね。助けてもらったって言うのに。迷惑ですよね」

やはり似ている。森と彼女。
謝る時も、自己嫌悪に陥る姿も、全部。
別人でも本質的には同じなのかもしれない。そう思うと同時に、彼女が悲しむ姿はもう見たくないって思った。

森と同じかどうかじゃなくて、只笑っている姿が見たかったんだ。

「…いや、聞いているだけで楽しいよ。だから、もっと聞かせてくれないかな」

「……はい!…ぁ、貴方のお名前を聞いてませんでしたね」

「植木耕助」

「植木さんですね、私の名前は…」

「いい」

「え?」

「君の名前、言わなくていいから」

「えっ、でもっ」

「このお礼だけで十分だし」

もし彼女が森あいじゃなかったら、俺は彼女を別人なんだと認識しなければならない。
もし彼女が森あいだったなら、俺は彼女を別人なんだと認識出来ない。
矛盾する思考。彼女の名前を聞いてしまったら、俺の中の全てが崩れるような気がした。

「楽しい話、聞かせてよ」

「ぁ、はい…!」


彼女の話を聞くのは楽しかった。他愛もない話だったり、世間話だったり、学校での出来事を語ったり。まるで、数週間前に戻ったような、そんな幸せな気分に浸る事が出来た。




「今日はありがとうございました」

「いいや、俺も楽しかったし」

もう空はオレンジ色に染まっていた。何時間話していたんだろう。こうして振り返ってみると、彼女と話した時間はあっという間で名残おしくなってしまう。
だけどもう彼女と別れなければならない。

「じゃあ、俺行くよ」

「あのっ!」

「…?…まだ何かあるの?」

「私に出来るコト、まだありませんか?」

「どうして?もうあれで十分だと思うけど?」

「……だって、」


彼女の瞳が、真っ直ぐこちらを射抜く。
何故か視線が反らせない。

やめろ、やめてくれ。
その先を言わないでくれ。
その先の言葉を言ってしまったら…。


「だって、貴方は淋しそうな瞳をしているから」

「……っ!!」


今までこらえてきた想いが、苦しさが、悲しさが、彼女の一言によって溢れ出す…。今自分はどんな顔をしているんだろう?泣きそうなんだろうか。厳しい顔なんだろうか。そんな顔を彼女に見せられなくて、彼女に背を向けた。

「植木さ―――、」

「一つだけお願いがあるんだ」

彼女に言えば、また俺に会ってくれるのだろう。彼女は優しい人だから。
俺が願えば彼女は何回でも会ってくれる。そう確信できる。
でも、それでは駄目なんだ。
それでは前に進めないんだ。

「良いかな?」

「はい、私に出来るコトなら」

「……"行ってこいバカ"って言ってほしいんだ」



あの時、森が泣きながら言ってくれた言葉。涙を流しながら強がって、俺を見送ってくれた言葉。それを聞いたら、また前へ歩ける気がするんだ。だから…、



「……行ってこい、バカっ!!!」



もう後ろを振り向く事はしなかった。彼女は最後にどんな顔をしていたのかも分からない。彼女には悪い事をしてしまったと思う。
ごめん、ありがとう。
……だけど、これで前に進める。



(あの時も、この時も、)
(君が居たから、強くいられるんだ)


10.3.22
//君がくれた強さ