Text
「あーつーいー!」
「暑いなぁ……」
私達に容赦なく照り付ける太陽、ジリジリ遠くで揺れる景色。地面から漂う熱気。
暑い…、暑すぎるわ…っ!!
台地から少し高い場所にある土手で歩いているせいで、灼熱の太陽がより近くに感じる。草木がないので、少しでも安らげる陰がない。
あー、もう!なんで、こんなに暑苦しいとこが通学路なの。
植木の奴は、こんなくそ暑い中でも冷静に耐えているようだし、その冷静さが少しばかりむかつく。蒸すような暑さに植木のそれも加えて、さっきからイライラが募るばかり。騒がずにはいられないのだ。
「あついあついあつい!!」
「そりゃあ、そんなベスト着てるからだろー」
「う、うるさいわね!」
今日は終業式だった。夏休み直前の最後の日だった。つまり、分かる?まだまだ夏本番になったばかりなのよ。
なのに、この暑さ。35度…だっけ、今日の温度。温暖化が進んでるとはいえ、ふざけてるわよね。もう、いっその事水でもかぶりたい気分。
「プールはいりてえ…」
「プール?ええ、そうねー…。そういえば、夏休み中のプール解放日ってあったわよね」
「でも、学校行くまでが憂鬱なんだよな」
「そうそう、行っちゃえばどうって事ないのにね。水の中に浸かるのって気持ち良いし、冷えるから帰りは暑さを気にしなくなるし…」
「プール、冷える……。あ、そうだ!」
植木が何かひらめいたみたい。
でも、その楽しそうな顔。何だか嫌な予感がする……。
「水、あるじゃねぇか」
「植木っ!?」
突然下へ駆け降りていく植木。向かう先は行き止まり。ゆっくりと流れる川しか見当たらない。
川……?まさか…!
植木は鞄を放り投げると、自らシャツを脱ぎはじめた。何をしでかすか呆気にとられていた私が口を開こうとした時、既に植木はシャツを投げ捨てていた。Tシャツ一枚の姿になった植木は、口を開いたまま、唖然としている私にこう言った。
「森も来いよ。きっと気持ち良いぞ」
「気持ち良いって……、あっ…」
靴も靴下も放り出した植木は、川へばしゃばしゃと入っていく。
私も一緒に水遊びをしろと言っているのか。今、この場所で。
「ちょ、ちょっと!制服汚れるよ?」
「どうせ、今日で終わりだったじゃん」
「ばか!部活があるでしょ」
「体育着で登校するから良い」
しょうがないわね。
私も植木のもとへ降りていく。投げすてられていた植木の鞄のそばに私の鞄と、暑苦しさの原因となっていたベストをそっと置いて。
植木の奴が涼しくなってるっていうのに、一人で帰るのも何かしゃくだしね。仕方がないから付き合ってあげるわよ。
ぱしゃり。
放たれた水は、頭上で太陽の光を通してキラキラしていた。透明に光っているように見えるそれは、植木目掛けて飛んでいく。
気付いた時にはもう遅い。ツンツンしたいつもの髪には滴る雫が。呆然と私を見ている植木が、たまらなくおかしかった。
「な、何するんだよ」
「水遊びってこういう事でしょ?」
「森がその気なら、俺だって…!」
「きゃっ!」
「お返しだっ」
「やったわねー!覚悟しなさいよ!」
先程の暑さも忘れて、真っ青に澄み渡る晴れた空の下で笑いあう私達。
長い長い夏休みは、まだ始まったばかりだ―――。
10.8.13
//入道雲と在りし日の少年少女