泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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彼女は一言で言えば頑張り屋だった。
例えば、何かでかい壁にぶち当たったとしたならば、普通は傍にいる人間を頼るなり相談するなり行動を移すだろう。しかし彼女はしなかった。彼女はせっせと一人でこなそうとした。
要領が良い彼女は、それを難無く片付けてしまう事もあったし、例えそれが自分一人では出来ない事だとしても、彼女は決して周りに助けを呼ぶ事はなかった。彼女は頑なに人の手を拒否した。

彼女が一生懸命頑張りながら、物事を解決する度に、周りはそんな彼女をしっかり者だとか、偉いとか褒めたてる。彼女は、それらの言葉に笑みを浮かべて応えるのだ。
…だが、彼女は決してしっかり者などではない。彼女は只強がっているだけなんだ。俺には分かる。傍らで見続けていた俺には分かってしまうんだ。
…それが、自分のせいだと言う事も。
全て。


「森先輩、ありがとうございました」

「それはもう良いって言ってるじゃない」

「いえ、言わせてください!森先輩が居たからこその勝利ですから」

「そう、かな…。皆で頑張ったからこその勝利、でしょ?」

「上手い事言いますね。森先輩って、優しくて、強くて、何でも出来ちゃう頼れる先輩って感じで、私達の憧れなんですよ?」

「…もう、褒め言葉として受け取っておくわ」

下校時刻が迫る中、部活を終えた俺は、帰宅しようと靴箱からスニーカーを取り出した矢先だった。玄関前でもうとっくに帰っていたと思っていた森が、後輩と何やら親しそうに喋っていたのだ。
会話の内容から、森が所属している部活の話だと思う。勝っただとか、頑張っただとか、勝負事を思わせるような単語がちらほら耳につく。それを、熱く語っている後輩に対して、森は静かに頷いてた。
これは、同級生の間で偶然耳にした事だが、森は後輩に人気があるらしい。何でも、誰にでも優しく、厳しく接し、そしてそれは他人だけではなく、自分をも律する姿勢が後輩に、特に女子から支持されているらしい。

靴を片手に持ちながら、待ちほうける事何十秒。森は、玄関内で突っ立っている俺の存在に全く気付いていない様子。仕方がないと思いつつ、靴を床に放る。玄関内に、渇いた音が響いた。
後輩とのお喋りを邪魔したくはなかったが、素通りして無視するのも癪だと思ったので、思いきって挨拶する事にした。

「……森」

「えっ、あ、植木……?」

振り向いた森と、きょとんと不思議そうにこちらを見つめる後輩。
親しい人と話している中で、自分の知らない人が介入した事に戸惑っているのだろう。先程まで、後輩の口からマシンガンのように繰り広げられていた熱いトークがピタリと止み、まるで嘘のように静まり返っていた。
そんなシーンとした静かさに、気まずさを覚えた俺は早々に立ち去る事を選択する。

「俺、もう帰るから。じゃあな」

「あっ。待って、私も行く!」

後ろから、ごめん、また明日と後輩に言う声が聞こえた。すると、間もなく走ってきた森が俺の隣へとたどり着く。少々息を荒げながら。

「植木、あんた歩くの早過ぎよ」

「良かったのか?」

「あぁ、良いの。あそこで話してたのは、植木を待っていたからだもの」

「そっか…、ありがとな」

わざわざ待ってくれていた事に感謝を示すと、森は頬を染めてはにかんだ。そんな森がいちいち可愛いらしくて、こちらもつられてにやけてしまう。
多分、今の自分の顔はとてつもなく赤い。こんな自分を森に悟られたくなくて、ごまかす為に、頭の中で必死になって話題を探した。

「えーと、さっき話してたのは部活の事か?」

「そうよ。バレーでね、今日他校との練習試合だったのよ」

「あぁ、そういえば前にそんな事を言っていた気がする」

…確か、戦う相手は強豪校だとか。大会での優勝候補で、何故うちみたいな学校と練習試合を組まされる事になるのかと森が散々愚痴っていたな…。

「その試合中に、うちの部員が怪我しちゃってね、私が応急処置したんだけど、その場で試合出来る状態じゃなくなっちゃって、」

「ああ、そこからは大体わかった」

そんな窮地の状態で、森達は勝ったのだ。それも、おそらくは森の活躍で。
強豪との戦いで、勝てる見込みがあるかないかの戦い。ただでさえ苦しい戦いで怪我をしてしまった部員。苦しい状況で、森はその部員を助け、森の活躍によって奇跡の勝利をもたらしたとあっては、それはもう、称賛に値するだろう。
あの後輩の子が、あんなにも褒めたてるのも分かる気がする。

「それにしても、随分と後輩に慕われてるよな」

「ん、まあね。あの子達、私を優しくて頼れるとか、言ってくれるのよ?まんざら悪い気もしないんだけどね…。でも、そんなのは私のキャラじゃないって言うか」

「…そうだよな、違うよな。だって森は怖いもんな!」


うんうんと頷いていたら、突然、後頭部に衝撃が走った。何するんだよ!と直ぐさま抗議の声を上げたら、馬鹿な事言うからでしょ!と逆に押し返されてしまった。
ほら怖いじゃないかと心の中で思ったが、またそれを口にすると今以上の反撃が待っていそうで、止める事にする。いててと頭をおさえながらも、俺はこう続けた。

「……だってさ、森は強くなんかないだろ?」

「………え…?」

そこで森の足がぴたりと止まる。
俺は咄嗟に反応が出来ず、一歩進んだ所で振り返った。思わず、森?と声をかけたが、返事は返ってこない。森に向ける俺からの視線を逃れるように、森は右下に視線をやっていた。森の瞳はゆらゆらと揺れていて、明らかに動揺している目だ。

「………植木に、何がわかるの…?」

「…森は、強さを勘違いしてるから」

「勘違いなんか…っ」

「なぁ、森。人に頼らない事は確かに強く見える。ケド、それは本当の強さなんかじゃない。それは森も分かってるんだろ?」

そう。それは、戦いの中で俺達が学んだ筈の事だった。
バトルが始まって、強敵と出会った時。俺は、一人で戦う事の辛さ。誰かと助け合える事の強さを知った。十団の奴らに挑んだ時、一人では絶対に勝てなかった。強大な力に立ち向かう時、誰かに支えてもらえる暖かさを知った。
だからこそ、マリリンが俺達に言い放ったあの言葉を、俺は答えられたんだ。

それでも森は、戦えない自分にいつも苦悩していた。沢山沢山苦しんで、誰かが傷付いて。そんな中での俺の存在は、苦しみの象徴になったに違いない。俺は、そんな森の苦しみを知っていたけれど、それでも森が傷付く所を見たくなくて、助け続けていたのだから。
その度に、森は悔やんだだろう。強くなりたいと思っただろう。誰かに頼らないで生きていきたいと願っただろう。

でもな、森。
お前から見たら、俺は強い人間なのかもしれない。でも、俺だって最初から強かったわけじゃない。最初の戦いだって、森に無理させちまったのをよく覚えてる。
俺は、お前がいなかったら、強くいられなかったんだよ。頼るべき仲間がいたからこそ、強くいられた。傍に誰かが居るからこそ、人は強くなれるんだ。

「やめてよ…。私は…、私は、誰かの助けを借りちゃいけないの…っ」

「なんでだよ、森。お前は独りでいる事が、誰にも頼れない事が、強さだっていうのかよ?」

「やめて…、やめてっ!私は、誰かに頼らなくても平気なの。私は、もっともっと強くいなきゃいけないの…。私がそうしたいんだから…!」

顔を歪ませ、今にも泣きそうなくらいなのに、決してそれを許さない森。
俺は先程、森の強さを否定した。でも、痛々しいくらいに強がる森を、今まで強くあろうとした森を、心の底から凄いって思ったんだ。
誰にも頼らない、なんて簡単に出来る事じゃない。それでも、今まで森は誰の手も借りずに一人でやってきたんだ。俺は、そんな森の頑張りまで否定したくはなかった。森の今までの頑張りを認めてやりたい。只、それだけなんだ。

「なぁ、森。もう十分だよ…。森は、頑張った」

「うえき…」

「もう良いんだよ」

「植木…っ」

俺は、森を自分の方へと引き寄せて、
肩を抱いた。一瞬驚きの声をあげた森だったけれど、それでも俺を受け入れてくれた。
…やっぱり森は最後まで頑張るんだな。声を抑えながら俺に心配させまいと、最低限に泣く森の頭を、そっと優しく撫でてやった。
すると、最後の最後に森の中で何かが壊れていったかのように、森は大きく泣きだした。

そこが道端であろうとも、俺達は気にしなかった。関係なかった。
森の想いを認めてやりたい。只それだけだったんだ。




「森、落ち着いたか?」

「……うん。…私……、」

「今までごめんな。俺が辛い思いをさせてたよな」

「……植木は間違ってない。私の心が弱かっただけだもん。ありがとう、植木。私、ちゃんと分かったから。大丈夫だよ」

「…そっか」

「でもね。もし、もし私がまた無理をしていたら。間違っていたなら、今みたいに抱きしめてほしいの。……ダメ?」

「……ああ。泣きたい時は、いつでも泣いていいんだぞ」



(泣き場所は、ここにあるんだから)



某ミクさんの曲、ローリンガールをイメージ。

11.5.11
//そして彼女は息を止めた。