泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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何年か前は男女の差はあれど、同じくらいの目線だったのに。今では随分と斜め上を向かなければならなくなった。
男と女。それが私達の違い。

こうやって成長を意識し始めたのは二年生になってからだ。
図書室で自分より遥か上の高さにある本を手に取りたくて四苦八苦していた時に、あいつは意図も簡単に腕を伸ばし、微笑みながら渡してくれた。

その時思ったのよね。
うえきも男の子なんだなって。
いつの間にか、私の手に届かない場所まで来ていたんだって、ね。





「植木の馬鹿っ。なんで私を助けるのよ」

「なんでって、森が高校生に囲まれて困ってそうだったからだろ」

つい先程の事だ。
部活帰りに一人で歩いていたら、高校生のお兄さん二人に囲まれた。内容は所謂ナンパって奴ね。
あまりにもしつこいので、逃げ足の才を駆使して逃走を考えていた時、公園掃除の帰りだった植木が偶然通り掛かって私を庇った。

中学生相手だと舐めてかかった高校生のお兄さん達は、あろう事か植木に喧嘩を吹っかけてしまう。

結果は言うまでもなく、植木の強さに恐れを成した高校生の逃亡負け。
争いを好まない植木だけど、喧嘩となればかなり強い。しかもあの戦い(バトル)を経験したんだもの。踏んできた場数は数知れない。能力なんかなくても、並の高校生相手に負けるわけがなかった。



「そうじゃなくて、あんたが怪我したらどうするのかって言ってんの!」

「そん時はそん時。それに、森に何かされる方が俺は嫌だ」

「全く…、」

この正義馬鹿っ!
この手の論争になると絶対に植木は自分の正義を曲げようとはしないんだもの。いつも私が折れるしかないのよ。

言いたい事はまだまだ沢山あったけれど、埒外があかなくなるからこの話はもうおしまい。


「って、おでこの所擦り切れてるじゃない!血が滲んでるし」

「ああ、多分あいつ等が殴りかかって来た時かな。避けたと思ったんだけど」

「私、絆創膏持ってるからちょっと待ってて」

「良いって、そんなの」

「ばい菌入ったらどうするの!」

「……分かったよ、宜しく頼むな」

鞄から絆創膏を取り出す。

正義馬鹿は誰かを助けて自分が傷付くのを絶対に止めない。時には敵対していた相手までも助けてしまう。それはもう、あいつの中では一種の本能のようなものになっていて、止められる筈がないって事を私は知っている。

だからこそ、私はその後の事を一切折れない。あいつが何と言おうと怪我したらとことん治療してやるのだ。



絆創膏を手に取り見上げる先は植木の擦り切れた額。私の頭の一個分くらい高いそこ。数年前はよくおでこにも沢山怪我を作ってたっけ。

数年前はすぐ近くにあったそこも、今では随分と見上げなければならなくなった。気軽に届いていた場所が今ではちょっと難しいなんて、やっぱりあんたは男の子なんだよね。

「…………」

「ん、どうした?」

「…屈んでよ」

「ああそうか、届かないもんな」

「届くわよ?!只貼りにくいだけ!」

「はいはい」

苦笑いを浮かべながら植木は私に合わせるように身を屈める。一気に近付く顔と顔。何故か早まる胸の鼓動。

…ばか、そんなに近付かなくても良いのに。
ドキドキを抑えながら絆創膏を貼るのは大変なのよ、もう。


ぺたり。


「はい出来たよ」

「おおっ、サンキュー」

「…前から思ってたんだけどさ、植木って大分背伸びたよね」

「そうだなぁ、一年の時と比べたら凄くでかくなった気がする」

一年の時は、クラスの中でも決して背が高い方ではなかった植木。その植木が今では背の順の後ろの方に位置しているのが驚きだと本人は言う。

「何でそんなに大きくなっちゃうのよ。少しでも良いから私に身長をよこしなさい」

「そんなコト言われても成長期としか言えないぞ。森、もしかして結構気にしてんのか?」

「う、うるさいわね!」

いくら植木といえどそれは無神経すぎる言葉よ、全く。

「見てなさいよ。私だってまだ成長期なんだから!植木と並んでやるんだからねっ!」

「うーん、俺は今のままで良いと思うけどなぁ」

「…なんでよ?」

むっと眉を寄せて弱々しく見つめたのもつかの間。

ぽふっ。

(…………え?)

突然私の頭上に置かれた植木の手の平。私のそれとは違う大きくて広い手。軽く置かれただけなのに、私の心臓は今までにない程に跳ね上がる。

(…うえ、き?)

やがて何を思ったのか、わしゃわしゃと撫で始めたのだから思わず声を上げてしまう。


「…っ、なにをやってっ」

「ごめん、森は嫌だったか?」


うっ。
悪戯を咎められた時の子供のような無邪気な顔。なんでそんな目で私を見るのよ。何も言えないじゃない、ばか。
嫌だと言えば植木は素直に止めてくれるだろう。人が嫌がるような事を植木はしないから。

でも。


「………いや。じゃ、ない…」

「そっか。なら良かった」


わしゃわしゃわしゃ。
強引だけどどこか優しい手つき。その時の私と言えば、頬を熱くさせながらも俯くしかなかった。

わしゃわしゃわしゃ。

やがて満足したのか、植木はにっと笑いながら「帰ろう」と言って手を離す。

(…………っ)

離れていく手が名残惜しいと思うなんて、自分でも思わなかった…。なんだか今日の私はどうかしてるわよね。



「頭に手を置くのってこれくらいの高さが丁度良いんだよな」

「……」

「森、どうした?」

「な、ななななんでもないわよ!」



植木と私、自覚していく男女の違い。
離れていくのが少し淋しかった。
自分の身長が伸びていかない事がほんの少しだけど悔しかった。

……でも、でもね。
時々でも良いから、またこうしてしてくれるのなら、私も今のままで良いかもしれない。ちょびっとだけそんなコトを思ったのはあいつには内緒よ?




(あいつには頭に手を置くのに丁度良いって苦しい言い訳をしちゃったけど、本当の理由は俺と森が並んだ時に格好つかないってコト。やっぱり、好きな女の子には見上げて欲しいって思うのが男ってもんだろ?それにしても、森の髪サラサラだったなぁ。また触りたいな…。あ、こんなやましい事を思ったのはあいつには内緒だぞ?)


11.7.4
//君との距離